チュー吉の挑戦

   

今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(12)

「チュー吉の挑戦」
チュー吉たちが住んでいるところは、まだ戦前の家が残っている古い町でした。
だから、そこで生まれ育った人が多く、みんな顔見知りでしたので、どの家も鍵をかけなくても、ドロボーが、出ることはあっても、入ることはありませんでした。
もちろん、鍵がかかっていても、いなくても、チュー吉たちには関係がなく、自由に出入りできました。
ネズミ同士も、みんな顔見知りで、のんびり暮らしていました。ネズミが天井を走っている音を聞いても、なんとかしなくちゃなどと思う人間はいませんでした。
それなのに、チュー吉たちが、ネズミや人間のためにがんばろうという大きな夢をもつようになったのは、大きな夢をもってここを出ていった人間の子供と同じように、若さのあらわれなのでしょう。
チュー吉たちが、そんな夢をもって出かけるということは、すぐに伝わりました。
ある空き家の床下がネズミの集会場になっていましたが、夜中の3時に、そこで壮行会が開かれることになり、500匹ぐらいのネズミが集まりました。そんな大勢のネズミが集まったのは初めてです。
そのとき、歩くのもおぼつかない長老が若いネズミに支えられて、おもちゃ箱に乗りました。そして、チュー吉たち10人のネズミが、聴衆の前にあらわれました。みんな、チューチューと声をかけました。
長老は、咳払いを一つすると、「諸君!」としゃべりはじめました。
「ここにいる若者たちは、良くも悪くもわしらと関わりがある人間を助けるために、自分の命さえ落としても悔いがないという若者たちじゃ。
最初、あちこちで問題を起こすので、何とかしなくちゃと思っていたが、その夢を知って、全力で支援する気持ちになった。
つまり、人間が落ちぶれたら、ネコも、今の生活ができなくなる。そうなると、わしらの平安も脅かされるからじゃ。
足元を見るのはなく、遠くを見る。これが若さというもののじゃ。勇気ある若者に、『後顧の憂い』がなきよう、全力で家族を守ろうではないか」
また、チューチューという声が上がりました。
「もっとしゃべりたいが、新聞配達や牛乳配達が動きだした音がする。せっかちなとしよりが起きてくる時間じゃ。それでは、元気にいってこい」
長老は、そう言うと、若者の助けを借りて、下に下りました。
挑戦する若者のまわりには、それぞれの家族が集まって、別れを惜しみました。
チュー吉のまわりにも、ママや兄弟が集まった。「チュー吉、どこへ行っても、立派な息子に育てたと言われて、ママは鼻が高いよ。この前なんか、生まれてはじめて、サインをしたもの。
でも、いい気になっちゃいけないよ。国の誉れだとほめそやされても、何かあると、袋叩きになって、顕彰碑まで撤去するのも世間だからね。酔った女の子にいたずらするのは、単なる趣味なのにと思うわ。おまえも、女には気をつけるのだよ」
「ママ、もういいよ。みんな待っているから」
チュー吉は急いで、みんなが集まっているところへ行きました。
「それから、パパのうわさを聞いたら連絡するんだよ」まだママの声が聞こえました。
チュー吉たちは、長老や家族の励ましを受けて、「さあ、やるぞ」という気持ちになりました。
「同じ町なら、甘えが出てしまうので、まず隣町に行こう」チュー吉が提案すると、チュー助、チュー作など全員が賛成しました。
それで、集会場を出て、道を横断して、どんどん行きました。
ようやく、隣町に着きましたが、ここも、同じように古い町でしたが、商店街がありますので、家の様子が少しちがうようです。
もちろん、景気が悪くなったのと、経営者が年を取ったので、シャッター街といわれたこともあったのですが、最近は、その店を利用して、新しい商売を始める若者が出てきたようです。
チュー吉たちは、そこを避けて、もう少し奥の家を探しました。
壁に手ごろな穴がある家を見つけたので、そこに入りました。そして、また、穴を見つけて上がりました。
そこは、四畳半ぐらいの茶の間でした。赤や青の光があちこちについていました。テレビや目覚まし時計、ポットなのでしょう。
それは見慣れているので、別に気になることはないのですが、さて、どうしようかと相談していると、「おまえたち、ここらのものじゃないな」という声が聞こえました。

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