クリスマスの出来事
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとにヘンな童話100選」の(104)
「クリスマスの出来事」
今日はクリスマスです。あいにく朝からどんより曇っていましたが、案の定午後になると雪が激しく降りはじめました。
タカシは8才のすが、それでも1人で森の中に入って行きました。それを見ていたウサギが友だちに、「おい、見ろよ」と声をひそめて話しかけました。
友だちは、「おお、今日も来たのか!こんな調子じゃ大雪になって帰れなくなるぞ」と答えました。「そうだよ。最近よく来るがこんな日に来るとはな」
確かに雪は木にどんどん積もりクリスマスツリーのようになっていますが、タカシはそんなことには気もとめず、どんどん歩いていきます。少し木がまばらの場所では地面に積もった雪に足を取られますが、すぐに体を建てなおして前に進みます。
ウサギたちも、少しは心配して、少しはおもしろがってタカシを追いかけましたが、タカシが早く歩くので、姿を見失ってしまいました。「どうせあそこだろう」と戻りました。
そのとおり、タカシは、森の中にある大きな池で止まりました。そして、池にせりだしている崖が屋根のようになっている場所に行きました。タカシはいつもここにいるのです。
そこなら、雪も積もりませんし、寒さも少し防げます。
ここには週に2、3回来ていますが、これが最後だと思いました。実は、今日この池に飛び込んで死ぬことにしていたのです。
3年前、よく遊んでくれた近所のお兄さんが家の近くの池で死にました。自殺だと言われていますが、池から引きあげられたお兄さんの顔はどこか笑っているようにも見えたので、タカシは、死ぬのは怖くない、いや、死ねば別の世界に行くのだと思うようになったのです。
そして、池を覗きこみました。「ママはぼくのことをおぼえていてくれるかな」と考えました。
ママは、2年前に病気で死にました。パパも、仕事だと言ってあまり帰ってきません。「こんなにさびしいのはもう嫌だ。こっちからママに会いに行けば、なんでもないことだ」と考えたのです。
タカシは池に映る自分の顔を見ていました。そして、「ママ、もうすぐ行くよ」と言いました。
そのとき、「池に飛び込んで死ぬんだって」という声が聞こえました。びっくりして顔を上げましたが、どうも池の中から聞こえて来るようです。しかも、タカシぐらいの男の子の声です。
「ああ、そうだよ」タカシは思わず叫びました。
「それはちょっと迷惑だなあ。ここでまったりしているから」
「えっ。でも、誰?」
「見たいの?」
「見たい」
「それじゃ、上に行くけどびっくりしないでよ」
その声とともに、池が割れたかと思うほど波が上がり、10メートルもあるほどの大きい者があらわれました。
「誰なんだ、きみは?」さすがのタカシもびっくりして叫びました。
「見てわからんもんは、聞いてもわからんなんてね。ぼく、おじいちゃん子だから、言うことが古いよ。見てのとおり龍だよ」
「龍!龍なんて古臭くて、しかも、想像上の動物じゃないか」
「古臭いのはお互いさまだとしても、想像上の動物とは失礼だよ。こうして生きているし、家族も友だちもいっぱいいるよ。ただ、ママはぼくを生んですぐに死んだし、パパも雷に打たれて死んだけどね。それで、おじいちゃんに育てられたというわけ」
タカシはその姿を呆然と見ていました。まさに絵本かどこかで見たとおりです。
龍の子供はお構いなしに、「池の底で聞いていたけど、寂しいから死ぬんだって?」と聞いてきました。
「そう、そうなんだけど」
「今日はクリスマスだけど、サンタクロースがプレゼントをくれないから死ぬのか」
「そんなことじゃないよ」タカシはようやく自分を取りもどしました。
「それじゃ、少し話をしよう。池は逃げないから、死ぬのはそれからでも遅くはないよ」
「別にいいけど」
「ほんとはぼくも寂しくてよく泣いていたんだ。参観日にも、ぼくだけ親が来ないからね。そんなとき、校長先生が、「寂しいか。でも、寂しいという気持ちは全ての気持の元の姿なんだよと言ってくれたんだ」
「わからないよ」
「ぼくもそう言った。校長先生は、『怒ったり、腹が立ったりした後、だんだん寂しくなるじゃろ。それがその証拠じゃ』と教えてくれた。
『だから、寂しさはエネルギーの元なんじゃ。これから姿を変える。だから、寂しいからと言ってめそめそするのは愚か者じゃ』とも言っていた」
タカシは黙っていました。
「寂しさがどう変わるかもうしばらく見ようよ。ぼくの場合は、あきらめないぞという気持ちになった」
「きみはえらいなあ」
「そんなことはないよ。人に教えて初めてわかることがあるから、これも校長先生の受け売りなんだけど、今思い出しながら話しているんだ」
タカシはうなずきました。
「雪は止んだ。暗くならないうちに帰れよ。ぼくもピカピカ光るクリスマスツリーの見学にいくよ。龍とクリスマスツリーはミスマッチだけどね」
龍はそう言うと一気に空に飛びあがりました。