新しい国(3)
「ほんとにヘンな童話100選」の(154)
「新しい国」(3)
2か月早く開かれた春の定例会議で議論されたことは、キネトピアという島国は定員10000人ぐらいで後2000人の余裕しかないのに、世界中からすでに10億人の移住希望者がいるという事実にどう対応するかということでした。
それを、ベッティという若い女性代議員が見事に解決しました。
つまり、10億の人に理解してもらうには開き直るしかない。国の実情を見せるのだが、全員に国に来てもらうことはできないから、希望者に来てもらって、見たことを世界に発信してもらうのだと提案しました。
しかも、キネトピアの国民になる最大の動機は、国が地球上を動くということだから、どこかの国の近くを通ったときに、国を見てもらうのだというのです。
建国3年目ですからそろそろどこかへ行こうという思いがキネトピアの国民の心に芽生えていましたから、100人の代議員は全員賛成しました。
それで、半年後に国を動かすためのプロジェクトができ、毎日多くの国民がオフィスに詰めかけました。
国が動く?とはどういうことだと思われるでしょうが、「国が動く」は「国に大きな変革が起きる」という意味が浮かぶでしょうが、キネトピアの場合はほんとに動くのです。今回は北極海から大西洋を南下して、南米を回って太平洋に行くのです。
しkし、まだ十分理解できないかもしれません。これには、キネトピアの中心人物のケンの存在が大きくかかわっています。
ケンは日本人の父親とイギリス人の母親の間に2102年にオタワで生まれました。
その後、東京に5才までいましたが、後は父親が科学者であったため、世界中で生活しました。
しかし、2017年にまた核兵器が使われたために、ワシントンや北京、モスクワが廃墟になりました。
これで世界は終わったとみんなが思いましたが、どの国もこれ以上戦うことができず、戦争は終わりました。
しかし、数千万人の被害者が出ただけでなく、何億人もの人が後遺症に悩むことになりました。
幸い、新しい医薬品が開発されていましたので、助かる人もいましたが、多感な年齢になっていたケンは、世界中に友人がいたこともあって大きなショックを受けました。
人間不信になって、2年間まったく外に出ない生活を送りました。
しかし、当時はロンドン郊外に住んでいましたが、2階の窓から近くの公園を見ていたとき、母親と、4、5才の男の子と2,3才の女の子が散歩していました。
男の子が母親から離れて走っていきました。女の子がそれを追いかけました。
すると、女の子が何かにつまずきました。
女の子は大きな声で泣きだしました。母親が行こうしましたが、先に男の子が戻ってきて妹をだきしめました。
ただそれだけの光景でしたが、15才のケンは、体に電気が走ったような衝撃を覚えました。体はじっとしたままでしたが、大きな涙があふれてきました。そして、「助けなくては!」と大きな声を出しました。
それから、毎日朝から晩まで勉強をしました。そして、10年後、波を使った波力発電を成功させました。
もちろん、今までもあったのですが、まだ実験段階で原子力発電や枯渇寸前の火力発電ほどの規模まで至ってなかったのですが、従来のものがまったく必要ない電力量を生み出すことができたのです。
しかも、ケンは、海のない国にも近隣の国が協力して電力を供給するならば、すべて無償で使用してもいいと言いました。
しかし、あのときの公園の光景が心から離れないので、少しわがままを許してほしいと頼みました。
それは小さな島を一つほしいこと。そして、そこを国と認めること。そして、世界中を自由に動いてもいいという許可がほしいというものでした。