秋の夜
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「秋の夜」
窓がガラッと開きました。「みんな静かにしろ!」その庭のリーダーが叫びました。少し遅れた者もいますが、誰も鳴くのをあわててやめました。庭は静かになりました。
「今日は虫の鳴き声がすごいな。それにしても、何と心地よい鳴き声だろう。今までは気にも留めなかったものだが」50過ぎの男は、あたりを見てから窓を閉めました。
リーダーはそれを見て、また鳴いてもいいと言わんばかりに、鳴きました。みんなも続きました。
リーダーの横にいた者は、「ここのご主人は、私たちが鳴くと、『うるさい!』とどなると聞いていましたが、そうでもないらしいですね」と言いました。
「窓が開いたときはびっくりしたが、よかったよ。何かあったのかな」リーダーは答えました。
それまでは少し遠慮していたのですが、それからは、毎日大合唱会です。
男も、合唱を止めないために窓を開けずに聞くことにしました。毎晩毎晩一生懸命聞きました。
すると、合唱の合間や少し休憩しているときに、誰かが話しているのに気づきました。
「誰かに家の庭に入りこんでいるのか」と疑い、そっと窓の外を見ました。部屋の明かりで照らし出された庭には誰もいません。
しかし、「もうすぐ雨が降りそうですね」とか「それじゃ、今日は鳴くのを止めようか」と言っています。
まさか!そっと窓に近づき、小さな声が聞こえる枠のところに、虫がいました。暗くてわかりづらいのですが、どうもコオロギとクツワムシのようです。
「別の種類の虫が一緒にいることはあるのか。それも、二人で高い所からみんなを指揮しているようだ」
毎晩、合唱というより、二人の話し声を聞きました。ある晩、とうとうたまらなくなって、窓をそっと開けて、「今日もありがとう」と二人に小さな声で言いました。
最初二人はびっくりしましたが、「うるさくありませんか。おいやならすぐにやめますよ」
リーダーのコオロギが言いました。
「いや、とんでもない。おまえたちが鳴いてくれるから助かっているんだ。
おまえたちがいなければ、どんなに辛いだろう」と答えました。
そして、半年前に、妻と二人の娘が交通事故で亡くなったと話したのです。
「そうでしたか。お気の毒なことでしたね」
「ありがとう。これからもできるだけお願いがするよ」
「私たちのできることはこれしかありませんから精一杯やります。来年は私たちの子供が来ますから、そう言っておきます」
お家の上にいた3人が話していました。「まあ、パパったら変わったのね。虫と話をしているわ」男の妻が笑顔で言いました。
「私たちがいなくなったから寂しいのよ」娘が言いました。
「でも、寒くなればどうなるの?」別の娘が尋ねました。
「大丈夫よ」
「どうして?」
「やさしい人が見つかるかもしれないじゃない」
「それって、浮気じゃないの!」
「絶対許せないわ。ママは起こらないの?」
「私たちは死んでいるのよ。だから浮気じゃないの。あなたたちには申しわけないけど、生きているほうが辛いのよ。今は秋の虫が癒してくれるけどいつかはね」
二人の娘は黙っていました。「ごめんね。パパには早く元気になってもらいたいと思っただけなの。さあ帰りましょう」3人の姿はすっと消えました。