田中君をさがして(34)
2016/04/17
中は、長机が、「コの字」のように並べられていた。
病院で、指揮していた年配の刑事(私服を着ていたので、そうかなと思う)が、「半分ずつすわりなさい」と言った。
ぼくらは、4人と5人に別れて、すわった。中に、2人ずつ制服を着た警官が入り、1人ずつ、名前と住所、そして、学校のこと、学年や担任の名前を聞いた。
もちろん、病院で、何をしていたかも、くわしく聞いた。「だれと」か、「いつ頃から」も聞いてきた。
同時に聞かれていたので、だれが言っているのかわからなかったが、「小林のおじさんが・・・」という声が、あちこちで聞こえたので、パパがとても心配になってきた。
パパは、違う部屋に行ったらしいけど、どうしているだろう。
ぼくは、気になりつつ、聞かれたことを答えた。
「最初は、パパと2人、明るいときに、病院へ行きました。そこで、怖い気持ちに向き合っていると、自分が、成長することを教えてくれました。
数日後、仲のいい友だちだけを誘って、病院へ行きました。
そのうち、上級生が聞きつけて、ぼくのところへ来て、自分たちもやりたいので、パパに聞いてくれといいました。
パパに言うと、それじゃというこことになり、上級生たちが、来はじめました。
そのうち、夜もということになり、数人が来ました。
パパは、それで、終わりにするつもりでしたが、もう一度したいという希望があったので、ほんとの最後で、今日集まりました」
そのとき、ドアが開いて、誰か入ってきた。ぼくは警察の人かと思い、気にもかけなかった。
その人は、ぼくの前に来て、「悠太君」と言った。
ぼくは、ドキッとして、見上げた。「おじさん!」と、思わず叫んだ。
高橋さんだった。高橋さんは、武田警察の前の署長だったが、今は、隣町の署長になっていた。
パパとは、高校の同級生だった。同窓会で、同じ町に住んでいることがわかって、高校のときと同じ雰囲気でつきあいはじめた(2人とも、お酒に酔うと、高校生にもどったようだった)。
ぼくの家へは、1人で来ることもあったし、よく笑う奥さんと2人でも来た。
しかし、隣町へ引っ越したので、時々、パパとは、どこかで会っているらしかった。
ぼくらの話を聞いていた若い警官が、立ち上がろうとしたのを制して、「悠太君、しばらくぶりだな。お父さんは、どこにいるの」と聞いた。
「違う部屋にいるらしいのですが」
「わかった。ちょっと見てくるから。すぐ帰れるから、心配するな」と言って、急いで、部屋を出て行った。
また、静かになり、また、病院でのことが質問された。
ほとんど終わりかけたときに、また、ドアが開いて、今度は、大勢の大人が、部屋に突進するように入ってきた。
20人近くいたようだ。中には、だれかのおじいさんや、大学生のような人もいた。
みんな、心配そうな顔をしていた。
「どうしたの、大丈夫?」
「なんでこんなことをしたんだ」と、それぞれの子供のところへ行って聞いていた。
後のほうから、ママとのぞみが、ぼくの方へ近づいてきた。
2人を見て、ぼくは、泣きそうになった。
「ママ、ごめん」と、ぼくは、思わず行った。
「いいのよ。悠太、パパは?」と、ママは聞いた。
「いや、わからないんだ。違う部屋にいったんだよ。今、高橋さんが、探しにいってくれた」
「小林さんのご主人が連れて行ったのですか」と、ママに詰め寄る人もいた。
ママは、「わたしにも、よくわかりません。主人が、ちゃんと説明すると思いますから、ちょっと待ってください」
ぼくにも、「きみが、誘ったのか」ときいてくる人がいた。
「いや、みんなが行くと言ったのです」
「そんなわけないだろう」
「とにかく、警察から事情を聞きましょうよ」
その騒ぎの間に、校長先生と、それぞれの担任の先生が来ているのがわかった。
ぼくの担任の吉沢先生も、泣きそうな顔をして、立っていた。
ママやぼくの回りにいた人が離れると、ぼくのところへ来て、「悠太君、心配したわよ。怖くなかった?」と、あいかわらずトンチンカンなことを聞いてきた。
先ほどの刑事が、部屋に入ってきた。
そして、「皆さん、終わりましたので、お帰りください。
子供たちから、話を聞きましたら、大人になりたいという思いで、パークサイド病院で、肝試しをしたようです。
警察は、あかりがついているという、通りがかりの人からの通報があったので、駆けつけました。
今、引率した小林さんから、事情を聞いていますが、別に問題はないようなので、これで、終わります。遅くまで、ごくろうさんでした」と言った。
「未成年を、そんなところへ連れて行ったのは、罪にならないんですか。うちは、女の子ですよ」
「子供たちが、小林さんにせがんだということです」
「そりゃ、おかしいです!ちゃんと調べてください。」