田中君をさがして(19)

      2016/04/05

でも、今日、勇気について教えてもらいましたから、元気を出して、新しい道を進めそうです」と、つけくわえた。
ぼくは、それを聞きながら、パパとぼくがやったことが、大きな流れに乗ってしまって、もう止められないような気がしてきた。
このままでは、学校中に知れ渡るだろう、そうなれば、ママは、どう思うだろうか。
パパも、ここまでする気はなかったはずだ。パパは、今、立ち上がろうとがんばっているところだから。
ぼくが、あのとき断ったら、こんなことにならなかったのにと後悔した。
悪いことは、軽い気持ちから起きてしまうのだと思うと、毎日つらかった。
案の定、また、5人来た。隣のクラスの森本、宮田、西山。そして、森本のお兄さんと、その友だちの柴田。お兄さんと、その友だちの柴田は、5年生だ。
パパは、「役に立てるなら、がんばるよ」と言ってくれた。
今回は、5年生の柴田が、途中で引き返してきた。

2,3日すると、5年生の高橋が、ぼくのクラスにきた。
5年生が、4年のクラスに来ることはあまりないので、みんな緊張したが、まっすぐ、ぼくのところに来たので、みんな、何の用事かわかったようだ。
「小林、ちょっとお願いがあるんだ」と言った。
今回は、6人が、パークサイド病院で、自分を試したいというのだ。
高橋を含め、5年生3人、他のクラスの4年生2人、そして、6年生1人が入ってきた。
パークサイド病院へ行くことが増えてきたので、だれが来たのか、名前がわからなくなってきた。
しかも、上級生は、5年生だけでなく、6年生も来るようになったのだ。
5年生でも、4年生から見ると、大人に近づいたように見るのに、6年生となると、ぼくらのようなガキとちがう雰囲気があった。
一度、吉沢先生と、6年生の教室へ、何か教材を取りに行ったことがあった。
放課後だったので、だれもいなかったが、西校舎に、足を踏みいれたのは、初めてだったから、ドキドキした。
6年生の教室は、天井も高く、自分が、ものすごく小さく見えたものだ。
だから、パークサイド病院へ、6年生が来たときは、緊張した。
ぼくは、もう行きたくなかったけど、パパがついてくるように言うものだから、仕方なく行った。
そして、みんなが来ると、パパの横のいて、あいかわらず、助手のような「仕事」をしていたけど、5年生や6年生に、病院を案内するときは、体が固くなった。
それから、2,3回しただろうか、病院に来るのは、5年と6年ばかりになってしまった。
女子も、1人、2人と混じり始めた。
あるとき、もう帰るときになって、6年生の谷田と山下が、「おじさん、ちょっとお願いがあるんですけど」と、パパに言った。2人は、今まで、2回来たことがあった。
「ぼくらは、もうすぐ、中学生になるのですが、もっと、しっかりしなければなりませんので、一度、夜、お願いできませんか」
パパは、しばらく考えていたが、「わかった。君たちのためだ。おじさんも、時間を作るよ」と承諾した。
それを聞いた、他の6年生は、「谷田、大丈夫か。何か出てくるぞ」と、大声を出した。
その場にいた、6年生の女子も、「谷田君、やめたほうがいいよ」と止めた。
「大丈夫だよ。怖けりゃ、もどってくればいいんだから」と、谷田は、応じた。
みんな、どうすんだという声が上がり、口々に、自分の意見を言っていた。まるで、「お化け屋敷」のなかのようだった。怖いけれど、楽しんでいると言うような。
キャ、キャという騒ぎが、少しおさまると、「それでは、来週の日曜日、午後7時ということにしようか」と、パパは言って、「これぐれも無理をしないように。それから、懐中電灯を忘れないような」とつけくわえた。
その日は、まだ、何人来るかわからなかったが、みんなの中には、1週間後には、楽しいことが待っているような気分で、帰っていった。
途中、ぼくは、パパに、「大丈夫?」と聞いた。
「見るべきほどのことを見つ、かな」と返事をしたが、パパは、小学生に、自分の考えが受け入れられ、役に立てそうだという気持ちになったのだろう。
ぼくは、これは、これでいいのだと思ったが、一番心配していたのは、ママが、気がついていないかということだった。
パパもぼくも、ママには、パークサイド病院のことは言っていないけど、何かしていることは、気づいているだろうけど、何も言わなかった。
ママはそういう人だ。病気のときも、死ぬのは、ちっとも怖くないけど、ぼくやのぞみが、どんな大人になるのか見られないことがもったいないと言う人だから。
今回も、何が起きているということよりも、パパやぼくが、どう変わるのか知りたいだけなのと思っているだろう。
その日、ぼくが、ちょっと出かけてくると言って、6時半に家を出たときも、ママは、気をつけてねといって送り出してくれた。
それから、美奈子にも言いたくなかった。そのときは、美奈子とは、うまくいっていたし、パークサイド病院のことを知らないわけはなかったが、ぼくが、それにふれてほしくないとわかったのだろう、遊んでいるときも、別のことばかりしゃべっていた。

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