シーラじいさん見聞録
「シーラじいさん!」、「オリオン!」改革委員会のメンバーや見回り人が集ってきた。
どの顔も疲れた表情をしていたが、二人を見てほっとした笑顔を見せた。
よく見ると顔や体が汚れているようだった。油がついているのだ。近づくとにおいもした。
「みんなご苦労じゃった」シーラじいさんは、みんなをねぎらった。
「たいへんなことになっています」改革委員会のリーダーから指揮を取るように言われた者が報告した。
「そのようじゃな」
「はい、最初着いたときは、石油のにおいがひどくて、頭がふらふらしました。
石油のにおいはかいだことはありますが、こんなにきついにおいは初めてです。
また、夢中で近づいたので、石油がべっとり体について、うまく泳ぐことができませんでしたが、ようやく石油が取れてきたところです」
「騒ぎはだいぶ収まったようじゃな」
「はあ」顔が曇った。
「着いたときは、凄惨な光景でした。みんなが、寄ってたかって海に浮かぶニンゲンを取り合っていました。
あちこちから食いちぎるので、体がばらばらになり、赤い肉が見えて血が流れだすのです。それをかぎつけて、また多くの者が集るという状態でした。
小さなものにつかまっているニンゲンは、まだ生きているので、襲われると、『助けてくれ、助けてくれ』とものすごい声をあげました。
しかし、大きなものに乗っているニンゲンは、なんとか助けようとしましたが、さっともっていかれるのでどうしようもない有様でした。
引きちぎられた足や手も、みんなが奪いあいました。
そして、食べられるものを食べると、今度は、大きなものに乗っているニンゲンを襲うようになりました」
一息つくと、次の者が話はじめた。
「別に食べ物に困っているはずはないのに、どうしてあんなことをするのでしょう」
「浮いているものをひっくりかえそうとしていたようじゃな」
「そうです。浮いているものに体当たりします。中には、ジャンプをして、水を中に入れて沈めようとする連中もいました」
「あんな光景ははじめてです」別の者も声を絞りだした。
「もういいじゃないかと声をかけたのですが、聞く耳をもちません」
「生きているニンゲンもいるようじゃな」
「はい、4つのものが残っていますが、それぞれ5人、3人、2人、1人います。しかし、昨日ぐらいから2人が動かなくなったみたいです」
「だいぶ静かになりましたが、シーラじいさんがご覧になったように、まだやってきて、襲う者がいます。あっ、また来たようです」
「見てきます」2人が急いで向った。
「それからこんなことがあったのですが」指揮を取る者が、声をひそめて言った。
「どうした?」
「追放処分を受けた訓練生がいたでしょう?」
「ベテルギウスのことじゃな?」
「あいつが、襲撃集団の指揮を取っているのでないかということです」
「ベテルギウスが?」オリオンは大きな声を出した。
「まちがいないか」シーラじいさんも聞いた。
「はい、あそこに見える一番大きなものがもう少しでひっくりかえるところでした。ニンゲンもあわてているように見えました。
それで、わたしは、『やめろ』と叫びながら、そこに急ぎました。しかし、まだ4,5頭で体当たりを続けているので、指揮を取っている者を見つけ近づきました。するとあいつだったのです。
わたしは、『おまえか?』と言いました。しかし、あいつは目をそらして、『やめろ!』と大きな声を出して、どこかへ行きました」
「まちがいないか」
「はい、声を覚えています。陽気なやつで、大人にでも話しかけてくるのでまちがいありません」
誰も声を出さなかった。
「ベテルギウスに何が起きているのでしょうか?」オリオンは、小さな声でシーラじいさんに聞いた。
「ニンゲンから学べばみんなを幸せにできるはずだと言っていたのに」
シーラじいさんには、それには答えず、指揮を取る者に、「ヘリコプターという、空を飛ぶものが来ていないか」と聞いた。
「何も来ていません。遠くで、何かが飛んでいるようでしたが」
「探しているのはまちがいない。ニンゲンは、相手がどこにいるかわかる機械をもっている」
「生きているニンゲンは大丈夫でしょうか?」オリオンが心配そうに言った。
「もう来るはずじゃ。5、6日立っているのじゃから」
「襲われないように見張っていなければなりませんね」指揮官が答えた。
「シーラじいさん、雨はときどき降ったようですが、お腹がすいているのはありませんか?」
「そうじゃろな」
「ジムのときのように、魚を投げいれてもいいですか?」
みんな顔を見まわした。