シーラじいさん見聞録
アントニスはその手紙を受け取ると、すぐにみんなに見せた。
みんなは互いに抱きあい、喜びを表現した。イリアスとジムは、「いよいよだ!」と叫び、踊りだした。他の者もつられて踊りだした。
マイクは、「すぐに所長に連絡してくるよ」と別の部屋に行った。
10分ほどすると、「連絡したよ」と戻ってきた。
「海軍はすぐに動くのか?」同僚のジョンが聞いた。
「所長はすぐ動くように頼むと言っている。ただ、海軍の都合があるから、それがいつかはわからないそうだが」
「とにかく大きな前進だ」ダニエルが言った。
「オリオンの粘り勝ちだな」ジムも言わずにおれない。
「オリオンとリゲルが海底のニンゲンと会ってから、2年近く立つ」イリアスが言った。
「二人が会うまでに3年立っていたから、5年間海底にいることになるわね」
ミセス・ジャイロが補った。
「大丈夫だろうか?」ダニエルがまた聞いたが、アントニスは、それには直接答えず、「とにかく、オリオンたちは全力を尽くした。ぼくらもできるだけのことをした」と答えた。
「そうだ。彼らが二人を信じる気持ちがあれば、必ず生きている」
「そうだ。そうだ」
「もうすぐオリオンが助けにいく」
「そうだ!アムンセン教授に連絡しなくちゃ」マイクが叫んだ。
オリオンは、カモメの案内で迷うことなくイギリス海峡に入った。そして、休むことなくそのまま西に向かった。
「オリオン、そろそろサウサンプトンだぞ」
「ありがとうございます。みなさんにはお世話になりました」
「何を言っているんだ。おれたちもインド洋に行くつもりだ」
「ほんとですか。遠いですよ」
「若い者がリゲルに報告するためにすでにインド洋に向かったが、おれはおまえが船や飛行機に乗ったことを確認したらインド洋に行く」
「わかりました」
「おれもインド洋生まれだということを忘れてもらったら困るよ」
「そうでした!インド洋にいたときからいっしょに苦労した、いや、ずっと助けていただいている仲間です」
「そうだ。おれたちはそれぞれ海と空にいるが、シーラじいさんを中心とした共同体だ」
「そうです」
「まずおれたちが海軍の船を見つけるから、おまえはすぐにそちらに向かうんだ。所長が乗っているはずだから、おまえを見つけたら、すぐに引きあげてくれるだろう」
「はい」オリオンは緊張して答えた。
リゲルはかなり疲れていた。ペルセウスとシリアスは反対するが、オリオンが来る前に、せめて穴の場所ぐらいは見つけたいと思っているのだが、30分ぐらい潜ると、体が浮くようになっていた。
「リゲル、オリオンが来たときにきみが動けなくなっていたら、どうするんだ!
オリオンもすぐに見つけられるかわからないんだ」ペルセウスとシリウスは、何度となく注意した。
数日後、オリオンに同行していたカモメがついた。そして、オリオンがサウサンプトンの海で待機していると報告した。
「やったな。これからどうするんですか?」ペルセウスが聞いた。
「船が迎えに来るそうだ。それから、飛行機に乗ってここに来る予定だ」
「それじゃ、まもなくですね」
「すでにこちらに向かっているかもしれないが、それは何とも言えない」
その頃、まだオリオンはサウサンプトンの海で待っていた。
カモメは必死でそれらしき船を探していたが、どうもちがうようだ。
カモメは少し焦っていた。「どうしたらいいのだろうか」とカモメが聞いた。
「1週間立ちますね。何かの作戦で時間がかかっているかもしれません」オリオンは考えながら答えた。
「それならいいが。今の状況をシーラじいさんに報告しようか」
何か情報があるかもしれないのので、オリオンは、「お願いします」と頼んだ。
翌日、「何かあったのか」という声がした。オリオンがあたりを見渡すと、大きなカメがこちらを見ていた。
「知りあいを待っています」
「こんなところでか?」
「はい」
「何回かここを通ったが、カモメがよくきみの近くに下りてきているので、最初死んでいるのかと思ったよ」
「そうでしたか」
「生きていてよかった。若そうだね」
「ありがとうございます」
「もしよかったら誰を待っているか聞かせてくれないか。仲間が大勢いるから、何か役に立てるかもしれない」