シーラじいさん見聞録

   

「そうだ!おまえたちはリゲルに知らせてくれ」リーダーは5羽の部下にそう言うと、船が対峙しているという場所に向かった。
5羽も急いだ。24時間飛びつづけてようやくリゲルたちがいる沖合に着いた。そして、緊急を知らせる鳴き方をして、あたりを回った。それを聞いたものが集まってきた。
「まだ確認は取れていませんが、南に向かっていた船が、4,5隻の船に囲まれているんです。とりあえず知らせるように言われたので」ここで仲間になったカモメが丁寧な言い方で報告した。
「そうですか。でも、その助手がいることは確認していないんですね」リゲルが答えた。
「そうです。ただ、かなりの距離を調べたのですが、南に向かう船は少ないので、念のためと思って」
「わかりました。それなら、半分のもので向かいます。半分のものは少し遅れて行きます。もし別の船にいることが確認されたら、それらが向かいます」
リゲルは、ミラとシリウスを後発のリーダーにして、ペルセウスを含めて、7頭で出発した。
リゲルたちは必死でカモメの後を追った。日が沈み、カモメの姿が見えなくなってきたので、カモメは、海面すれすれを、ときおり鳴きながら飛んでくれた。
ようやく現場近くまで来た。油くさいにおいがしている。それに、ライトが空を舞っている。「何かあったのか」リゲルが言った。
「様子を見てきましょう」カモメは飛んでいった。
10分後、カモメのリーダーが飛んできた。囲まれた船が攻撃されて沈没したんだ。あっという間だった。今たいへんことになっている。船員か兵隊が海に浮かんで救助を待っている。
攻撃したほうの船からもヘリコプターが捜索している。オリオンが乗っていたかどうかわからないが、もしということがあるので、水槽を探している」
「ありがとうございます」
「まだ見つけることができない。暗いので、わしらには水槽か船の部品なのかよくわからないんだ」
「わかりました。ぼくらも探します」
「そうしてくれ。しかし、おまえたちを見れば、ニンゲンを襲っているかもしれないと思われて、捜索しているヘリコプターから攻撃されるかもしれないから気をつけるんだ」
リゲルとミラ、ペルセウス、そして、若いシャチはそちらに向かった。
確かに大きなものがあちこちに浮かんでいる。小さなものも浮いている。ニンゲンかもしれない。
ときおりヘリコプターがかなり低く飛んで、ライトでニンゲンを探している。助けを求める声が上がると、ヘリコプターは、空中で停止してロープのようなものを落とす。
しかし、風が強いので、うまく捕まえることができないようだ。
風はさらに強くなったようで、2,3機飛んでいたヘリコプターはもう飛んでいなかった。
リゲルたちは、水槽らしきものを探したが、大きく揺れるので、確認することができない。それに、若い部下は水槽というものを見たことないので、もっと困難だろう。
「オリオンが別の船にいることを望むが、もしこの船にいて、船もろとも沈んでしまっていたら、どうしたらいいのだ」リゲルは、風の音とニンゲンの叫び声を聞きながら絶望的を思いに捉えられた。
そのとき、若い部下が来て、「仲間らしきものが動かなくなっています」と報告した。
「気をつけろと言ったのに。誰なんだ?」
「顔がよくわかりません。それに、ニンゲンがそれにつかまっているようです」
リゲルと若い部下は、大きな波に逆らいながら向かった。「ここにいたのですが」若い部下はそう言ったが、それらしきものはなかった。
波に運ばれたのか。しばらく探していると、「ここです!」という声が上がったような気がした。
すぐに、カモメが、叩きつけられそうな風の中を飛んできて、「オリオンだ!ペルセウスが確認した」と叫んだ。
オリオン!リゲルは潜って波を避けた。それでも、風はかなり深くまで海を動かしていたので、思うように進まなかったが、ようやくみんなが集まっている場所に着いた。
「オリオンです」ペルセウスがリゲルに叫んだ。二つの黒い物体が激しい波に上下していた。
「オリオン!」リゲルはオリオンの体にさわって叫んだ。しかし、反応はない。そして、もう一つのものは?ペルセウスを見た。「多分助手です。ニンゲンの顔はよく似ていますし、目をつぶっていますからわかりにくいのですが、鼻の形が写真とそっくりです」
「やはりこの船だったのか。オリオンはどういう状態だ?」
「今のところ死んではいませんが、何かに激しくぶつかったような跡があります。頭でなかったのが幸いでした」ペルセウスは冷静に言った。
「ニンゲンは?」
「ニンゲンの事はよくわからないのですが、力を入れてオリオンをもっていますから、死んではいないでしょう。でも、この寒さに耐えられるか」
「分かった。2人ともこのままでは死んでしまう。みんなでオリオンとこのニンゲンを乗せられるようなものを見つけろ。とにかくここを離れよう」
みんな大きな波に揉まれながら懸命に探した。ミラも、風で遠くまで運ばれたものを探した。
かなり多くのものが集まったので、オリオンと助手だけでなく、まだ海面に浮いているニンゲンにもそれを分けた。朝になれば、誰かがきっと助けてくれるという希望をもってくれればいいがと思いながら。
風は少し弱まった。「さあ、出発だ」リゲルは、2人を乗せた板を押す若者に叫んだ。

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