シーラじいさん見聞録
カモメが3羽下りてきた。リゲルたちの様子がいつもとちがうのを感じたのか、インド洋からの仲間であるカモメが、「何かあったのか?」と聞いた。
「そうなんですよ。詳しいことは分りませんが、オリオンが研究所のプールからいなくなったんです」
「いなくなった?研究所にいないのか」
「そうらしいです。教授やマイク、ジョンが探しています」
「そんなことがあるのか。仲間が毎日その上を飛んでいるが、何も聞いていないぞ。オリオンが心配だ」
「どうも助手の一人が行方不明になっているそうで、そのあたりから調べているそうです」
「そいつがオリオンをどこかに連れていったのか?」
「かもしれません。教授や他の助手、マイク、ジョンがあちこち探しているそうです。
それと、北極海のクジラたちが妙な船を見たというので、そのことをアントニスに知らせてほしいのです」
「妙な船?」
「そうです。こちらに来る途中、2隻の船が止っていて、小さなほうの船が、大きな船に何か移し替えていたらしいです」
「それはあやしいな。その船を探すんだな?」
「そうです。でも、助手の顔がわからないと思いますので、アントニスに写真を用意するように、今ベラが手紙を作っています」
「なるほど。その写真を見て、そいつが乗っていれば、オリオンがいるとい言うわけだ」
「そうなんですが、ただ、その助手がオリオンといっしょにいるかどうかは断定できないのですが」
「なるほど。そいつが、オリオンをどこかに売ってしまって自分は戻ったかもしれない」
「そうです。そのあたりをシーラじいさんに相談したですが、もし外国に連れ去られたら、もはやオリオンを救い出すことはできないかもしれません。一刻の猶予もありませんから、できることはどんなことでもやろうと考えています」
「状況は分かった。おれたちもできるだけのことはする」
カモメが数十羽下りてきていた。空からもただならぬ雰囲気を感じたのだ。
リゲルの話を聞いて、「それはすごいや。おれたちが指名手配犯を捕まえるのだ」というカモメがいた。
「おまえたち、遊びじゃないぞ。ニンゲンのために命をかけているオリオンが、またもやニンゲンに苦しめられているんだ。絶対に見つけるのだ」
カモメは大きな声で鳴いて、それに答えた。
「でも、その写真とやらでそいつを判断できますかね」
「ニンゲンは必ずデッキに出てくる。近くで見ればわしらのようなものでも分かる」
「覚えられるかな」
「何度も見て頭にたたみこんだら覚えられる。それじゃ、アントニスに手紙を届けてくる。おまえたちはできるだけ仲間を集めておけ。そして、作戦について打ち合わせをしておけ」
1時間後にアントニスはシーラじいさんからの手紙を受け取り、すぐに読んだ。そして、ジョン、ミセス・ジャイロ、イリアスにその手紙を見せた。
「これが助手の仕業なら、かなりは早いうちから動いているようね」
「マイクも言っていたのですが、マイクやジョンと話をしていて、オリオンが何か特別の能力を持っていることに気づいたようです。それで、録音装置をつけたらしいです」
「それで分かってオリオンを売ろうとしたのか!」ジムが叫んだ。
「それにしても、こんなときにどこがイルカを買うかしら?」
「きっとその助手がうまく売り込んだのだ」
「すると、相手陣営となるわね」
「船や飛行機が目立つから、海の生物を使おうとしたんだ。今動きのないクラーケンがどこにいるか調べさせるのだ」
「とにかく、マイクに連絡するよ。カモメが写真を待っているから」
マイクは、クジラが不審な船を見たと聞いて驚いた。「教授の教え子が調査してくれたが、港や空港ではそれらしき荷物が送られたという情報はなかったようだ。それじゃ、すぐ連絡する」
30分後、マイクとジョンがが写真を持ってきた。「身分証明書が残っていたから、これを持ってきたよ」
「ありがとう」アントニスはカモメを呼んだ。カモメはそれをくわえた。イリアスが、「頼むぞ!」と叫んだ。ここにも集まっていたカモメが後を追った。
「すごい光景だ。これで見つかればいいが」マイクが言った。
50羽以上のカモメが驚くべき速さで、西に向かった。そして、待機していた50羽のカモメと合流した。
眼下にはリゲルたちがいるはずだが、そこには立ち寄らず、飛びながら助手の写真を見た。そして、頭にいれた者から、どんどん西に向かった。
合計100羽のカモメが大西洋にいる船を1隻も見逃さないというかのように、南に向かった。
「おまえたち、あまり大きな声で鳴くなよ。しかし、何かあったら、大きな声で仲間を集めろ。おれは、東西に動く。もちろん、写真をもってな」
ときどき顔を忘れたものが写真を見るために来たが、捜索は難渋した。
3日後、1羽のカモメが慌てて来た。「どうしたんだ?また顔を忘れたか」
「いや、どうもおかしいです。南に向かっている船が、4,5隻の船に挟み撃ちにあっているようで動かず止まっています」
「攻撃がはじまりそうか」
「今は静かですが」
「よし、わかった。そこに行こう」