シーラじいさん見聞録
オリオンは、航行する船や港の建物に書かれている文字を読み、ようやくトロムソを見つけることができた。港には無数の船が停泊している。港のまわりを取りかこむ山にはびっしり家が建っている。
大きな町だ。どこかでマイクやジョン、そしてアントニスたちが自分を探しているかもしれない。しかし、明るいときは港の中には入っていけない。リゲルたちもそうだろう。どこかにいるにちがいない。そこで、海岸線に沿って泳いだ。しかし、誰にも会えなかった。
みんな心配しているだろう。会えたら心から謝ろうと思った。とにかく今できることをしなければならない。まずついてきてくれたクジラたちに報告するためにそこを離れた。
3頭のクジラに、「ありがとう。ようやくトロムソが見つかりました」と言った。
クジラたちは、「リゲルたちはいましたか」と聞いてきた。
「いや、リゲルたちも、ニンゲンの友だちにも会えませんでした。ベン、船に乗せてくれたニンゲンの友だちですが、彼からの連絡を待っているかもしれません。だから、毎日様子を見に行くつもりです」
「忙しいのに、わざわざついてきてくださってありがとうございました」オリオンは丁寧に頭を下げた。
「ぼくらもいるよ。どうしてもリゲルたちに会いたいから」
「リゲルたちはこの近くまで来ているはずですから、ぼくも探しに行きます」
「いや。きみはここで何をするんだった?」
「ニンゲンの仲間がぼくを大学の研究所に連れていってくれます。そこに、ぼくらを理解してくれる教授がいます」
「そうだろう?一刻も早くニンゲンに合わなくてはならないのだから、ここを離れてはいけない。ぼくらだけで探すよ。すぐに戻るから」
オリオンは3頭のクジラの好意がうれしかった。「わかりました。で、も気をつけてください」3頭のクジラは出発した。
そのとき、「オリオンか?」という声が聞こえた。その声はカモメだ!すぐ上にカモメがいた。やはりみんなで探してくれていたのだ。
オリオンは、波を立てないようにしながら海面に下りた2羽のカモメに近づいた。「ありがとうございます。方角をまちがえて時間がかかりました。みんなはどこにいますか?」と聞いた。
「大丈夫だったのか。みんなおまえを心配していたんだ」、「どうして船から脱出できたんだ?」2羽のカモメは、驚くともに合点がいかないようだった。
「いや、ベンが海に戻してくれました。近くで小競り合いが起きたので、行かなくてはならないと言って」
「すると、船が沈没する前に船を離れていたのか?」
「なんですって!」オリオンは思わず聞いた。
「そうだ。きみとベンたちが乗っていた船が何らかの原因で沈没したんだ」
「シーラじいさんは、多分敵のセンスイカンに攻撃されたのじゃろと言っている」
「そんなことが!」
「はっきりしたことはわからないんだが、どうも残念なことになっているようだ。
その船についていた仲間のカモメが少しの間離れた。しばらくして戻ってきたら船はどこにも見えなかった。他の船もいたが、見まちがうことはない。
空からも、他の船があわてている様子がわかったと言っていたので、すぐに沈んだのではないかということだ」
「ベンは大丈夫ですか!」
「リゲルやミラたちは、おまえやベンが船に閉じ込められているのではないかと心配して船が集まっている場所近くにいる」
「ミラはその船を探している」
「すぐに行きます」
「でも、さっきいたクジラは大丈夫か」
「ああ、そうでした。どうしよう」
「知り合いか」オリオンはクジラたちについて話した。
「リゲルが言っていたクジラだな。こんなときにゆっくり話もできないだろう」
「クジラたちはどこに行ったのか」
「リゲルたちを探しに行っています。夜には戻ると言っていました」
「それじゃ、こうしよう。わしが、リゲルたちがいる場所に戻って、おまえのことを報告する。そして、こいつが、トロムソでマイクやアントニスたちを探す。
それと、肝心なことを言い忘れていた。船が沈没したというシーラじいさんの手紙をイリアスに渡した。すぐにアントニスはマイクに連絡したことだろう。おまえが無事だと聞いたらどれだけ喜ぶか」
「言葉は通じないが、何とかがんばってみるよ。イリアスならわかってくれると思う。
みんな動いているから、おまえはここでクジラたちを待て。そして、事情を話して、リゲルたちがいる場所に急げ」
「わかりました。お願いします」
「自分を責めるんじゃないぞ。みんなおまえのことが好きなんだから」2羽のカモメはそう言って、それぞれの方角に飛びたった。
オリオンは、ベンの顔を思いだした。「ベン、ごめん。ぼくのために監視船に乗ることを志願してくれたのだろう。ぼくが断っていたら、こんなことにならなったのに」
夜遅くクジラたちが帰ってきた。オリオンは事情を話した。「申しわけないですが、すぐにいかなければなりません」と言った。
「ぼくらも行くよ」
「そんな」
「きみらの役に立ちたい。こんな世界で戦っているのに、何も知らないぼくらのために時間を割いてくれたことに今さらながら恐縮している。このままでは帰れないよ。ぜひ連れていってくれないか」
「そうだ。ぼくらができることは何でもするから」