シーラじいさん見聞録

   

イリアスは毛布で顔を隠してベッドで横になったままだった。
3人が、ランチを食べようと声をかけたが、起きてこなかった。アントニスは、「船は沈んだことはまちがいないが、ベンやオリオンがどうなったかはわからないとマイクが教えてくれたじゃないか。おまえは、ベンとマイクは死んだと決めつけているのか。ひょっとしてオリオンはベンを助けようと懸命にがんばっているかもしれないんだ。こんなときこそオリオンに助けられたおまえがオリオンに声援を送る番じゃないか。それに、カモメが手紙を運んできてもおまえがこんなことでは渡せないよ」と励ました。
それを聞いたイリアスは何も言わなかったが、ようやく毛布を剥いでアントニスを見た。そして、「オリオンは不死身だからな」と言った。「ぼくもそう思う。さあ、起きるんだ」
イリアスは起きてランチを食べた。そして、またデッキへ行った。相変わらず人であふれていた。もしカモメが来ても自分を見つけられないだろうと思って、なるべく人が少ない場所を探した。
船首の2階は人が多くいたので、1階に決めた。そして、カモメが飛んでいないか見た。1時間ほどすると、1羽のカモメが船の上を回っているのがわかった。イリアスは、あたりを見て、手を振った。
しばらくすると、そのカモメが下りてきた。「手紙はないのかい?」イリアスは聞いた。カモメは小さく鳴いた。イリアスはその鳴き声はイエスだということを知っていた。
「何か情報があるんだね」カモメはイエスと伝えた。「ひょっとして、オリオンは無事だったの?」鳴き声はイエスだ。「ベンは?」しかし、わからないという鳴き声だ。
「アントニスが言っていたとおりだ。オリオンはベンを助けるためにがんばっているんだ!ありがとう」イリアスは3人がいる場所に急いだ。イリアスに気がつくと、3人は立ちあがった。「カモメが来た!」、「それで?」、「オリオンは無事だよ」、「よかった!ベンは?」、「わからないと言っている」
3人は顔を見合わせてうなずいたが、心から喜べない様子だった。
「やはりオリオンは不死身だな。ベンは心配だけど、無事であることを祈ろう」アントニスが言った。
それから、席を立った。マイクに連絡するためだ。マイクはすぐ出た。話を聞き、「ほんとか。奇跡が起こった。後はベンだな」、「ベンについては何か?」、「もう一度連絡があったが、二人ぐらい助けられたそうだが、向こうもそれ以上はわからないと言っている」、「船が沈みそうになったとき、べンは、まずオリオンを助けたかもしれないとこちらでは話しているんだ」、「ベンならありうるな」、「でも、どうして秘密にしているんだろう?」、「わからない。報復をするために、相手に油断させているのだろうか」、「早く会いたいな」、「もうすぐトロムソに着く」、「ぼくらも明日の朝には着く」、「OK.何かわかればすぐに知らせるから」

オリオンは、クジラたちとともにベンと別れた場所をめざした。疲れで気が遠くなるようなときがあったが、ベンのことを考えて自分を励ました。
もう少し行けば着くと思ったとき、「オリオンか?」という声が聞こえた、オリオンは止まった。
「おれだよ、おれ。ペルセウスだ」、「ああ、ペルセウス」オリオンは暗い海を声のほうに進んだ。
ペルセウスはオリオンの体に自分の体をぶつけた。「元気そうだ」、「ペルセウス!会いたかったよ」オリオンも体をぶつけた。
「やっと帰って来たな」、「ベンの船が沈んだと聞いたので急いで来た」、「そうなんだ。きみも巻き込まれているのじゃないとみんなおおあわてだった。でも、カモメから、きみはトロムソのいると聞いてみんな大喜びさ」
「ありがとう。それで、ベンは?」
「まだわからない。船はミラが見つけた。それで、きみを迎えるのはぼくに任せて、みんな船にかかりっきりだ。
ただ、捜索しているヘリコプターや船、センスイカンがいるので、気をつけなくてはいけないんだ。若いものはその見張りをしている」
「ぼくも行くよ」
「リゲルたちはもうすぐ帰ってくる。オリオンは必ずそう言うだろうが、待たせておいてくれとリゲルに頼まれているんだ。それに、シーラじいさんも待っている」
「シーラじいさん!早く連れていってくれ。そうだ!きみたちに会いたいというものも来ているんだ」
「誰だ?」
「そこにいるよ。みんな来てください」
大きな黒い影が近づいてきた。ペルセウスは少し警戒しながら近づいた。「あっ、きみらか。どうしたんだ!」
「久しぶりです。オリオンから話を聞いて、ぜひ連れていってくれるように頼んだんです」、「何か役に立ちたいんです」、「どんなことでもします」3頭のクジラはそれぞれの思いを述べた。
「ありがとう。もう少ししたらリゲルたちが戻ってくるから。
それじゃ、オリオン、シーラじいさんがいる場所に行こう。みんなも気をつけてついてきて」アントニスはそう言って泳ぎはじめた。
1時間ほどすると、「ベラ!オリオンが戻ってきたぞ」と叫んだ。すると、遠くで音がしたかと思うと、何かが近づいてくるのがわかった。そして、「オリオン!無事だったのね」
と叫んだ。
「ベラ!心配かけたな」
「カモメはオリオンと話をしたと言っていたけど、この目で見るまでは心配だった。元気そうで安心したわ」
「ありがとう。シーラじいさんは?」
「もうすぐ来るわよ」

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