シーラじいさん見聞録
「もうすぐシーラじいさんたちに会えるのだ」ジムが言った。
「いや、オリオン今そんなことを考えていないよ!」イリアスが大きな声を上げた。
3人はイリアスを見た。「オリオンは早くトロムソに行こうと思っているはずだ。その教授と会うために」
「そうか。オリオンならそうするな」ジムがン自分の意見を撤回した。
「そうしないと、ニンゲンを助けられないことはオリオンが誰よりもよく知っているものね」ミセス・ジャイロもイリアスに賛同した。
「そのためには、オリオンを知っている者がいなくてはならない」ジムも言った。
「マイクたちはどうなっているの?」
「マイクとジョンは公務員だから、自分たちの考えで動くことができない。だから、今は、命令を待っているんだ」
「それと、もう一つ気になることがあるんだげど、オリオンを海に戻したということがわかれば、上司はノルウェーに行くことを認めるのだろうか?」ジムは鋭く言った。
「ぼくもそれを考えた。でも、ノルウェーに連れていくことはベンが決めたことだ。それに、オリオンは、海に戻っても必ずトロムソに行くだろうと考えていると思う。
だから、今回のことは黙っているだろうから、変更はないはずだ」
「ベンは、教授にオリオンの到着が遅れることを伝えているかもしれないしね」ミセス・ジャイロも、アントニスの考えに賛成した。
「とにかくぼくらも早く行こうよ」
休憩が終わり、ハンブルグ行のバスは出た。道路は渋滞している。キールまでは6000キロ以上ある。しかし、どんなことがあって我慢するしかない。
ここを乗りきれば、スカンジナビア半島まではすぐだ。
オリオンは、急がなければならないが、しかし、方向をまちがえれば取り返しがつかないことになると考えて、星が出る夜を待った。幸い晴天だったので、無数の星がきらきら輝きだした。
オリオンは北極星を探した。そう大きくなく、少し黄色みがかる星だったように覚えている。しかし、星があまりにも多くてわからなかった。
すべての星は北極星を中心に回っていると聞いたような気がするが、すぐにはわからない。
そうだ!北斗七星の近くにあるはずだ。ようやくそれを探してから北極星を見つけることができた。まちがいない。あれを目印にしよう。オリオンはゆっくり、然し休むことなく北をめざした。
夜が少し明るんできたとき、遠くに陸があるような気がした。着いたぞ。あれがスカンジナビア半島だ。
オリオンはゆっくり近づいた。それから、その陸に沿って進んだ。しかし、どうも様子がおかしい。右に曲がっているようだ。スカンジナビア半島は相当長く続く半島だと、マイクとジョンは地図を見せながら説明してくれたことがある。
それなら、ここはどこだろう?オリオンは急いで陸に沿って進んだ。はたして、どこまでも海が続く。島か!まちがったか。オリオンは泣きたくなった。みんなぼくを待っているにちがいない。それなのに、方向をまちがえて、知らない場所に来てしまった。
落ちつけ。どうしよう。もう一度船から下りた場所に戻るべきか。とにかく、もう迷うわけにはいかない。夜になるのを待とうと決めた。
そのとき、遠くに大きなものが泳いでいるのが見えた。クジラだ。3頭いる。しかも、急いでようには見えない。
それならと、オリオンはそちらに向かった。夜までは長い。それまで、何かわかれば助かる。
近づくにつれて、先頭にいたクジラが止った。オリオンはそのまま近づいた。
すると、クジラが、「何かあったのか?」と声をかけてきた。
オリオンは、「ちょっと迷ってしまったので教えてください」と言った。
「家族か仲間か?」
「仲間です。仲間が待っているはずですが、迷ってしまいました」
「どこにいるのだ」
「ノルウェーのトロムソという港です」
「何だ、それは?」
「ニンゲンがそう言っています。でも、大きな陸がある方を教えていただければありがたいです」
すでに他の2頭も集まってきていたので、そのクジラは事情を話した。
「きみは、以前ここに来たことがあるか?」と別のクジラが聞いた。
「いやはじめてです」
「そうか。きみのようにニンゲンのことをよく知っている者にお世話になったことがある。彼らは、自分たちをリゲル、ミラ、シリウスと呼んでいたよ」
「えっ!みんなぼくの仲間です」
「ほんとか。それなら、この近くに来ているのか」
「そのはずです」
3頭目のクジラが聞いた。「では、きみはオリオンと言うのか」
「そうです」
「そうだったか。みんなきみのことを心配していた。うまく逃げることができたんだな」
「そりゃ、みんな喜ぶだろう」
「そうだと思います。しかし、ぼくらにはまだやらなくてはいけないことがあるので、みんなもそのつもりでいると思います」
「ひょっとしてシーラじいさんも来るのか」
「来るはずです」
「ぼくらも、手伝わせてほしいんだ」
「ありがとうございます」