シーラじいさん見聞録
午前1時を回っていたがジョンはすぐ出た。そして、マイクが言う前に、「オリオンに何かあったのか」と叫んだ。「明日一番で移送される」マイクは答えた。
「ようやく決まったか!オリオンはまだ知っていないな」
「まだだ。午前中にベンが迎えにくるから朝一番で話そう」
「ぼくらはついていけるのか」
「大丈夫のようだ。ベンが所長に、この状況なので、このままではオリオンの心身に何かあるかもしれない。そうなれば、せっかくの能力が消えてしまうかもしれないので、ノルウェーにあるトロムソ大学の海洋研究所に預かってもらえそうだがどうだろうか連絡したそうだ。
所長はすぐに同意したのでので、さらに、ぼくら二人を同行させてオリオンの不安を取りのぞく必要があると進言したそうだ。だから、ぼくらにも異動命令が出るようになっている」
「ベンは全部やってくれたのか」
「そうだ。それから、ベンは、オリオンが望めば、航海の途中で何か事故があって、オリオンが入っている水槽を海に落とすこともできると言っている」
「どういうことだ?」
「水槽が海に落ちて、しかも、鍵が開いている・・・」
「なるほど。ベンはそこまで考えてくれているのか。でも、オリオンは、それを断るだろう」
「ぼくもそう言っておいた」
「とにかくぼくらも準備を急がなくては」
「お互い独身でよかった。それじゃ、アントニスに連絡する」マイクはすぐにアントニスに連絡した。
アントニスも電話しながら、ジムとミセス・ジャイロを呼んだ。そして、「オリオンは今まで海底にいるニンゲンを助けるために自分を犠牲にしてきたのですから、そんなことはしないでしょう」と二人と同じ考えを述べた。そして、すぐにシーラじいさんに手紙を書くと言った。
寝ていたイリアスもいつの間にか起きてきて話を聞いた。そして、「今から行こう」と用意をはじめた。
「イリアス、今すぐは無理だ。向こうの家は当たっているけど、この状況だから、行けるのはいつになるかわからない。一日も早く出発をしたいけど」アントニスはイリアスをなだめた。
それから、シーラじいさんに手紙を書き、ベランダ側のライトをつけた。それが、カモメに用事がある合図になっていたのだ。午前3時ごろに、カモメが来たので、手紙を託した。
午前5時に二人は研究所にいた。宿直と交代して、すぐにオリオンがいるプールに向かった。オリオンは、いつもと変わらなく、静かに泳いでいた。
二人はオリオンに声をかけると、オリオンはすぐに近づいてきた。二人はベンの計画を話した。
「こんなことになっているのにベンは動いてくれていたのですね」とオリオンはうれしそうに言った。
「そうだ。ベンは、ぼくらが絶滅する前にオリオンを助けたいと言っていたよ」
「そんな」
「とにかく、自分がオリオンを助けるチャンスはそうないから、チャンスがあれば逃さないのだ」
「ぼくも用意ができています」
「それと、どうしても言っておいてほしいと言付かっていることがある。途中事故があってきみを入れた水槽が落ちてしまうことが起きるかもしれない。もちろん、水槽のカギは開いている」マイクをオリオンを見た。
「きみは自由になり、シーラじいさんと再会できるのだ」ジョンも言った。
オリオンは少し考えていたが、きっぱり言った。「ありがとうございます。でも、それはご無用です。ぼくらは海底にいるニンゲンを助けたいのです。もし、そんなことになれば、それができなくなります」
マイクとジョンは顔を見合わせた。「ぼくらも、きみはそれを望まないだろうと思っていたよ。とにかく、途中ベンに何か用事があれば、遠慮なくベンを呼んだらいいよ」
「ぼくらもすぐにトロムソに行くし、アントニスたちも、シーラじいさんたちも急ぐだろう」
午前5時30分、ベンの部下5人がやってきた。誰も、朝の挨拶以外一言も言わなかった。お互いがすべてわかっていて、自分がしなければならない仕事を黙々とこなした。
オリオンは移動用の水槽に入った。二人とオリオンはお互い顔を見てうなずいた。「気をつけて行けよ」、「わかりました。お二人も気をつけて」というように。
やがて、部下は水槽を運びだした。二人はそこに残り、向こうでオリオンを世話をするための準備をした。
それがすむ頃になって、所長が来た。二人は所長の前に立った。所長は笑顔だった。オリオンをノルウェーに移すことだけでなく、二人も同行に了解していることも、ベンを通じてすべて知っている様子だった。
だから、今までのことは一切言わなかった。ただ、「きみら二人は、オリオンの調査に支障が出ないように同行せよ」と言った。2人はうなずいた。
「きみらの宿泊施設はトロムソ大学の寮だ。それについては、大学が用意することになっている。いつまでかわからないが、気をつけて行くように」とつけくわえた。
午前6時30分、シーラじいさんはアントニスからの手紙を受けとった。
「それじゃ、この時間は船に乗っているのですか」リゲルが言った。
「そうじゃろ。このあたりを通って、ノルウェーに向かうはずじゃ」
「それにしても、ベンの申し出を断るなんて、オリオンらしい」
「おれたちの出番も近いぞ!」