シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんは近くにいたカモメに合図すると、そのカモメが急いで下りてきた。嘴に何かくわえている。
「さっきアントニスが手紙を送ってきたところじゃった。ベラ、みんなに読んでやってくれんか」と言った。
ベラは、「わかりました」と言って、2羽のカモメが支えてくれた手紙を黙読した。そしてみんなのほうを見てから読みはじめた。
「サウサンプトン水道が閉鎖されました。大型船で混雑しているうえに、敵のセンスイカンが入りこんできたら大きな被害が出るという理由です。いつ解除されるかわかりません。
ジョンから連絡があって、このままでは次のことが考えられないと焦っていたので、ぼくはとっさに、オリオンを別の施設に移すことはできないかと提案しました。それについてアイデアはありませんか」
みんなじっと聞いていた。「アントニスやジョンたちはこんなことになってもオリオンを心配してくれているのですね」リゲルが言った。
「そうじゃな。アメリカが同盟国の中心的役割が果たせないので、イギリスは、アメリカに代わって、フランスやドイツとともにその役割を担っている。
それで、各国の軍事関係者や経済責任者が続々とイギリスに集まってきている。イギリスはそれに忙殺されて、他のことには手が回らないのじゃろ。
前の手紙では、マイクやジョンは今の仕事がいつまでできるのかわからないと言っていたそうじゃ。それで、仕事ができる間にオリオンを何とかしたいと考えているのじゃ」
「それじゃ、ベンに相談したらどうでしょう。彼は海軍の将校ですから、すぐに動いてくれるはずです」
「リゲル、よく気がついたな。しかし、以前の手紙では、マイクたちがいくらベンに連絡を取ろうとしても、まったくできなかったそうじゃ」
「それなら、別の方法がないか」リゲルは独り言のように言った。
「リゲル、おまえならどうする?」
「そうですね。ベンと連絡を取ることをあきらめてはいけませんが、それと同時、自分たちの考えを伝える努力をすべきです」
「確かにな。あせっても状況が動かなければどうしようもない。それなら、今は状況を見守るしかないわけじゃ。ベラ、アントニスにそう返事を作ってくれないか」
「わかりました。すぐに作ります」ベラは、新聞や雑誌を保管している場所に向かった。
「オリオンはどうしているだろうか」シリウスが聞いた。
「オリオンは、自分のことは一切言わずに、ニンゲンのことを心配しているそうじゃ。
マイクたちには、自分のことは気にせず、事態がこれ以上悪くならないようにしてほしいと言っていると聞いている」
リゲルやミラ、ペルセウス、シリウスなどオリオンをよく知っている者も、オリオンが捕らわれてから仲間になった者も、オリオンの気持を思った。
シーラじいさんは、「オリオンはじっと耐えている。おまえたちもあわてて後悔するようなことはするな」と言った。
ベラが上がってきた。すぐにカモメがそれをくわえて飛びだった。
数日後、アントニスから手紙が来た。それによると、ベンから連絡が来て、オリオンはどうしているかと聞いたそうである。
マイクたちは今までのことを話すと、核兵器が落ちてからずっとアメリカにいたので、オリオンやきみたちのことはずっと気になっていたが、盗聴されている恐れがあるので、連絡は禁止されていたというのだ。
今日イギリスに帰ってきたので、すぐに連絡をしたというのである。これは絶対内密だが、電離層に電磁波をいうものを流して、対流圏や成層圏を元の状態に戻すようにしているが、コンピュータ機器の修復に時間がかかり、アメリカが元のようになるのは、5年から10年かかると言われているそうである。
その間は、海軍のみならず、政府は、オリオンなどの動物については、何もできないであろうというのである。
そこで、マイクは、オリオンを別の施設に移すことはできないかと提案した。特にオリオンは、特殊な能力があるためか感受性が強いので、今の状況が悪影響を与えるかもしれないので、移転を考えてくれないかと言ったのである。
ベンはしばらく考えていたが、この混乱した状況の中で、上層部を説得する理由をさらに考えてみようと答えた。
ただ、以前からオリオンが英語を話すのは訓練のたまものだと考えているお偉いさんがいたのでねとつけくわえた。
しかし、ベンは社交辞令で安請け合いする男じゃないことはマイクもジョンもわかっていたので安心した。そして、誰より心配しているアントニスたちや、そこから伝わるシーラじいさんたちに連絡した。
「まいくやジョンがついていれば、オリオンは海に帰れるかもしれないぞ」リゲルたちは一縷の希望を感じた。
1月後、アントニスから手紙が来た。そこには、ベンがオリオンをアフリカのケープタウンにある水族館に移すのはどうかと言ってきたというのだ。
ベンは、上司に、イギリスが同盟国の司令部となっているので、ここを攻撃されたら、せっかくの動物を失くす恐れがあると説得したようである。もし、訓練で特別な能力がついたものだと言われれば、あえて反駁しないで、それは次につながるものだと答えることにしていた。ベンは約束を守ってくれたのである。
リゲルは、それを聞いて穏やかではなくなった。「アフリカか。確かにおれたちの生まれたインド洋に面していて、海底にいるニンゲンを助けるためにも近い。
しかし、いくら近くでも、ニンゲンがセンスイカンで行かなければ、海底のニンゲンを生きて助けることはできないんだ」

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