シーラじいさん見聞録

   

リゲルは笑顔でそれを見ていた。カモメが下りてきて、「みんなうれしそうだな」と声をかけた。
「そうですね。久しぶりにベラに会えると思うと待っていることができなかったようです」とリゲルはうれしそうに言った。
「長い間緊張が続いたからな。シーラじいさんは、おれたちから聞いて大体のことは知っているが、シリウスたちは自分の口から言いたいことがいっぱいあるのだろう」
「そうでしょう。初めて氷山の海に行ったときはこわごわでしたが、すぐに慣れましたし、あれだけの働きをしたんですから自信がついたはずです。
それに、ミラを連れて帰ってこられたのですから、話したくて仕方がないでしょう」
「しかし、おまえが一番苦労したと聞いている」
「そんなことはありません。あいつらは、全体のことを考えて動いてくれますから、おれがすることはそうありません。シーラじいさんは元気ですか?」
「ああ、元気だよ。アントニオたちと手紙のやりとりが毎日あったからのんびりすることはなかったようだ」
「それなら、みなさんも忙しかったでしょう?」
「忙しかった。でも、わしらには任せられる仲間がどんどん増えたので、おれはゆっくりできたがな」
「何が起きているのですか?」
「わしらには詳しいことは分からないが、とにかくここを通る船が、おまえたちがいたときと比べると驚くほど増えている。それと関係があるかもしれんな」
「船が!戦争がはじまったのですか」
「いや、船同士が攻撃しあうことはない。どの船も、ものすごいニンゲンが乗っていてひっくりかえりそうだが」
リゲルが遠くを見ると、確かに船が増えているようだ。そして、それを警護するためかヘリコプターも飛んでいるようだ。
それに、みんな左に進んでいる。つまり東に向かっている。イギリスやフランスを目指しているのか。大勢のニンゲンが乗っているとしたら、やはりアメリカから逃れてきたのだろうか。
ペルセウスたちは、カモメの誘導でベガと再会することができた。ベガは、「みんな、お帰り」とジャンプをしながら出迎えた。
「ベガ、元気だったか。ミラも帰ってきたぞ」ペルセウスが叫んだ。
「知っているわよ。それに、ミラが世話になったお礼に向こうでお礼してきたことも」
「そうだ。それでなかなか帰れなかったんだ」シリウスも答えた。
「おれが頼んだんだ。シーラじいさんとベラには申しわけなかったけど」ミラも前に出て言った。
「でも、すごい経験をしてきた。これから全部話してやるよ。ベラも行きたくなるぜ」
「わかったわ。でも、こちらでものんびりできないわよ」
「えっ、また核兵器が使われたのか」
「いや、それはないけど、ニンゲンがどんどんこちらに向かっているのよ」
「アメリアからか」
「そのとおり。アントニスの友だちのダニエルがアメリアに戻って、そこからどんどん情報を送ってくれるの。それをアントニスがシーラじいさんに送ってくれるわけ。
こんなときだから、情報統制といってテレビや新聞に出ないニュースがあるから、ダニエルが新聞記者時代の友だちから聞いたニュースを送ってくれるからありがたいわ」
そのとき、リゲルが追いついた。そして、「ベラ、ありがとう。心配かけたな」と言葉をかけた。
「いいえ、ミラもみんなも無事でよかった。思っていた以上に元気そうだから、早速ここの状況を説明していたの」
「アメリアはどうなっている?」
「シーラじいさんは、最悪の状態だと言っているわ」
「アメリア人はアメリアからどんどん逃げだしているのだな」
「そうなの。シーラじいさんは、お互い、これ以上攻撃や反撃をすれば、自分たちだけでなく、ニンゲン全体が絶滅することは分かっているから、そんなことはしないはずじゃと希望を持っている反面、この状況に冷静さを失う国が出てくるかもしれないと心配しているわ」
またカモメが下りてきた。「シーラじいさんがこちらに向かっています」
「えっ、それじゃ、こちらから行かなくては」ペルセウスが叫んだ。
「待て!海の状況が前とちがっているので、ここから動くなと伝えてくれと言われているんだ」
「わかりました」リゲルは、シーラじいさんの気持がわかったので、みんなを制した。
1時間ほどすると、カモメが数羽こちらに来るのが見えた。シーラじいさんが着いたのだ。
みんなそこに集まった。ミラが一番前に行き、「シーラじいさん、心配かけました。みんなのおかげで、無事に帰ってきました」と挨拶した。
「よかった。よかった。みんなもご苦労じゃった。しばらく休んでくれといいたいところじゃが、ここも、以前とかなり変わってしまった」
「ベラから聞いたのですが、核攻撃の影響が続いているそうですね」
「そうじゃ。ニューヨークを中心としたアメリア北部が住めなくなっているので、アメリアのみならず世界が死んだような状態でな」
「船がどんどん東に向かっていますね」
「ヨーロッパに当てがない者は、アフリカやアジアに行くものも多い」
「オリオンはどうしているのだろう?」
「アントニスがこんなことを書いてきている」

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