シーラじいさん見聞録

   

「隊長?」
「そうだ。おれたちみんなが尊敬している隊長だよ」シャチの声が大きくなった。
ミラはどう答えたらいいのかわからなかった。
すると、「えっ、きみらはおれたちの仲間じゃないのか!」シャチは驚いたように言った。
「きみらの仲間ではない」
「そうか。それなのにおれを助けてくれたのか。おれの具合が悪くなったとき、隊長は後で来るからしばらく待っていろと言ってくれたんだ。それで助けてくれたとばかり思っていた」シャチは言いわけをした。
「きみのまわりには誰もいなかった。きみはもう少しで死ぬかもしれなという状況だったので、おれの判断ですぐに連れてきたんだ」
「そうだったのか。仲間は今頃おれを探しているんじゃないだろうか。すぐに帰るよ」
「その体じゃ無理だよ」
シャチは体を動かそうとしたが、やはり無理だと自分でわかったようだった。
「何をしようとしていたんだ」ミラはあらためて聞いた。
「何をといっても、隊長が決めることだからわからない」
「ここに住んでいるものやセンスイカンを攻撃しようとしていたんだろう?」ミラははっきり言った。
シャチは少しためらったが、「そういうこともするけど。とにかく隊長が命令することに従うだけだ」
「そんなことをして何になるんだ?」
ミラの勢いにシャチも思わず興奮したようだ。「平和を取りもどすためだ」と聞いた。
「でも、ここで暮らしてきたものが苦しんでいるではないか」
「それは仕方がない、とにかく、平和になれば、また笑って暮らせるようになる」
「きみらが平和を壊してきたのじゃないか!」
「そんなことはない。ニンゲン同士が戦う戦場になる。そうなればどうなる?みんな住めなくなるんだぞ。だから、おれたちがそれを阻止するのだ」
「きみたちのボスはどこにいる?」ミラは話を変えた。
「ボスのことは知らない、おれたちは隊長と一緒に行動しているから」シャチも少し冷静になった。
「隊長について教えてくれ」
「ほんとにすばらしい隊長だ。勇気があるだけでなく、決断力、行動力は天性のものだ。
どんなことが起きても、一瞬のうちに対応できる。
そんな隊長でも、おれたちと同じように募集に応じて仲間になったそうだ。
隊長の話では、昔、どこか遠くの海の中に平和な海があって、そこで暮らしていたが、近くの海では悲惨なことが起きていた。それを助けたりしているうちに、どうしてこうなのかとか自分たちだけが幸せでいいのかと考えたそうだ、
そんなとき、ボスの存在を知った。ボスも海底の国にいたが、家来から、世界のことを聞くうちに、これは何かあると考えたのだ。
しかも、ボスは自ら動いて、何が起きているか、どうしてこうなったを自分の目で確かめようとしているんだ。それに、ものすごく巨大で、ニンゲンが乗っている船を一瞬に沈めることができるらしいぜ。隊長はボスに共鳴してすぐに参加を決めたと言っていた。
おれたちは、ボスから隊長クラス、新人まで、同じ夢で繋がっているんだ。おれも、手柄を立てて、隊長のようにボスに認められたいんだ!」シャチは夢中で話しつづけた。
ミラは、やはりベテルギウスかと思ったが、もう何も言わなかった。シャチは疲れたのか、休むと言って、奥の窪みへ行った。
夕方、その話を聞いたリゲルは、「そうか。隊長になっていたのか、それなら、おれたちもこのままでは帰れないな」と言った。ミラやシリウス、ペルセウスもうなずいた。
翌日、カモメがシーラじいさんの手紙を持ってきた。リゲルが読みはじめた。
「ミラのことは聞いた。ミラの気がすむようにしたらいい。リゲルたちも協力してくれるはずだ。
ただし、クラーケンの部下がかなりそちらに向かっているようだから気をつけるように。
ニューヨークはほぼ壊滅している。アメリアの国民は、チャイアを殲滅すべきと主張している」
「なるほど、クラーケンたちも、このことを知っていて、こちらに避難しようとしているのだな」ペルセウスが解説した。
「しばらくは大変だぞ」ミラは若いクジラを慰めた。
ベテルギウスの部下のシャチは、早く仲間のいるところに帰りたいのか懸命に体を動かした。そして、海に入り泳いでみたが、まだぎこちない動きだった。
数日の間、朝から晩まで泳いだ。そして、「世話になったが、帰る」と言いだした。
ミラたちも、止めても聞こうとしないことはわかっていたので、「気をつけていけ」と見送った。
「後をつけましょうか」ペルセウスが聞いた。
リゲルは、「もう仲間と会うことはないかもしれない。それに、あいつが言っていたように、下っ端はボスがいるところには行けないはずだ。時間の無駄だ。やめとこう」と答えた。
「まずクラーケンの直轄の部下を探す」
「どうするのですか?」
「シーラじいさんは、こちらに向かっているのが多いと言っている。つまり、リクルートしたやつを引き連れているのがいるはずだ。全部ではなくても、その中に、かなり上の者がいるかもしれない。
それなら、ボスがいる場所に向かうかもしれないじゃないか」
「なるほど。これはチャンスだ」
それから、遅くまでカモメを交えて作戦会議を続けた。

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