シーラじいさん見聞録

   

電話はマイクからだった。アントニスは挨拶をしようとしたが、向こうはすぐに要件に入ったようだった。
「ありがとう。ダニエルは何回も連絡を取ろうとしたができなかった。さっき、ようやく連絡がついたが、みんな無事だった。でも、テレビにも映っているように、ものすごい人が南部に向かっているので、相当混乱しているようだよ」
「いつでもOKだ。こちらから連絡したかったんだけど、今は忙しいだろうから、マスコミで状況を確認してからにしようと思っていたんだ」
そして、「いつでもいいよ。ぼくらの部屋まで来てくれないか」と言った。もう用心するような場合ではないからだ。
3日後の夕方、今から行くという連絡があった。午後6時、二人はアントニスたちが待っている部屋に飛びこんできた。
そして、すぐに今の状況を話しはじめた。そして、「研究所の軍人はすべて自分の部署に帰った。ベンもそうだ。連絡が来ないから、今後の予定がわからないんだよ」と申しわけなさそうに言った。
「オリオンはどうしている?」アントニスが聞いた。
「そうだった、オリオンについて話さなければ。オリオンには今回のことはみんな話した。各兵器について驚くほど知っていてびっくりした。アメリアのニンゲンは大丈夫か心配していた。そして、自分は心配ないから、今は任務にがんばってくれと励ましてくれたよ」
そのとき、「オリオンを海に戻してくれませんかね」という声が上がった。ジムだ。
その声を聞いたアントニスは、「そうだ。みんなを紹介しなければ」と言って、二人に、一人一人紹介した。
そして、イリアスには、「きみがイリアスか。会いたかったよ。オリオンもきみのことをよく言っているよ」と声をかけた。
イリアスは二人と握手してから、「オリオンを海に戻してほしいんだけど」と言った。
ジムが最初に言ってくれたので、人見知りをするイリアスも自分の希望を言うことができたのだ。
「オリオンは、当分動けないから、きみらの気持ちは痛いほどわかるよ。でも、おじさんたちにはそうする権限がないんだよ。上司に今後のことを聞かれたら、オリオンを戻すように必ず言うつもりだ」
しかし、イリアスは納得しなかった。「オリオンはぼくを助けようとして捕まってしまったんだ。ジムもそうだよ。漂流中にオリオンに助けてもらったんだ。
ぼくらにとって、オリオンは命の恩人なんだ。お金ならいくらでも出すから、オリオンを助けてほしいんだ」
イリアスは、二人がオリオンといつもいるニンゲンだと考えると、自分の思いを吐きださずにはいらなかったのだ。ジムはイリアスの手を握った。
「この前、そのことはアントニスから聞いたよ。ぼくらも、できることは何でもするから少し時間をくれないか」マイクもイリアスを抱きしめた。
アントニスはイリアスをなだめようとした。「今海に戻ってきても、オリオンは困ると思うよ」
「どうして?」
「リゲルたちと海底まで行くことができても、マイクやジョンたちがいないと、そこのニンゲンを助けられないだろう」
「今はマイクとジョンに任せたほうがいい。オリオンはどんなときでも希望を捨てないと、きみはいつも言っているじゃないか?こんなことになっても、オリオンは、今できることは何か考えているはずだ」ダニエルもイリアスに声をかけた。
「必ず、『海の家の海』にみんなで戻るわよ。それまで、みんなでがんばりましょう」ミセス・ジャイロはイリアスの涙を拭いた。
そのとき、ベランダの窓ガラスを叩く音がした。イリアスは走って行った。すぐに戻ってきたが、その後ろからカモメが1羽ついてきた。しかも、嘴に何かくわえている。
マイクとジョンは目を大きく開いてその様子を見ていた。アントニスは、それを受け取り、「ご苦労様、これをお願いするよ」と、別のものを渡した。イリアスは、カモメと一緒にベランダに走っていった。
アントニスは、じっと見ている二人に、「これは、オリオンの仲間の手紙だよ。そして、最新の新聞記事を渡したんだ」と説明したが、まだ納得がいかないようだった。
シーラじいさんの手紙には、「リゲルたちがミラを探しにいく。情報を」とあった。
「これは、シーラじいさんが、ベラというシャチに作らせたレターだ。ぼくらが送った手紙を使って文章を作るんだ」
確かに、新聞や雑誌を破った活字を使っている。「それじゃ、リゲルというのは?」二人は
まだ信じられなかった。
「オリオンの先輩だよ、シャチだ。そして、ミラというのは、先月クラーケンに襲われていた船を助けたクジラがいただろう?そのクジラの名前だ。
ニンゲンも居所を探そうとしたが、結局見つからなかった。仲間もまだ見つけていないんだ。相当けがをしているようで大変心配している。
こんなことになったので、今のうちに、ミラを探すために北極海に行くことにしたんだと思う」
「どうして、北極海?」
「先ほど来てくれたカモメの仲間が北極海を探したときに、そこにいるクジラがミラらしきものを見たと聞いてきてくれたので、まだ北極海にいるのではないかと考えたんだろう」
「ところで、シャチはカモメとコミュニケーションが取れるのか」マイクが聞いた。
「わかるようだよ、オリオンの仲間だけだろうが。ぼくらがカモメに何か言うと、それが向こうの仲間に伝わっているから、言葉の音や表情を読んでいると思う」
「それにしても、世界は、いや、世界の生物は繋がっていることがわかった」
「そんなことはあたりまえのことだよ」イリアスが叫んだ。

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