シーラじいさん見聞録

   

それに、ぼくらの話はオリオンに伝わるのだ。
「そうです。ミラはセンスイカンに攻撃されたようですよ」
「ほんとですか!それは聞いていない」
「まちがいないと思います。カモメが見ていましたら。ミラはかなりけがをしたようで、パニックを起こしたと思います。
仲間がいる場所に帰るつもりが、反対に進んでしまって、そこで船を襲っているクラーケンたちに遭遇したのです。
『邪魔をするな!』と叫んでいたのをカモメが聞いています。クラーケンもミラを囲んで反撃しました。結局、それが船を助けることになったのですが、ミラも逃げざるをえなくなったようです」
「それで、北極圏まで逃げたのですか?」
「それがよくわからないのですが、ミラ一人ではなく、クジラが数頭浮いたと聞いています。
しかし、オリオンの仲間にはクジラはミラ一人しかいませんから、向こうにいるクジラが助けてくれたのではないかと思われます」
「よくわかりました。しかし、そういうことはどこでお知りになるのですか?」ジョンが聞いた。
「ミラの仲間、つまりオリオンの仲間でもあり、ぼくらの仲間でもあるのですが、その仲間が手紙を送ってくれるのです」
「はい?」
「あなたたちが書いてくれた手紙のようにカモメが運んでくれます。
もちろん海の仲間は英語を理解できますが、書くことはできません。そこで、雑誌や新聞を切りぬいて、破いてですが、手紙を作るのです」
「そういうことですか!よくわかりました」
「オリオンが手紙を書いてくれと言ったとき、鳥がそれを運ぶということは聞いていたのですが、まさか仲間も手紙を書くとは思いもつきませんでした」
「ぼくらも、新しい情報があれば手紙を書くし、手紙もよく来ます。それで、ミラのことを知っているのです」
「海の仲間でもそう簡単にアイルランド沖から北極圏までいけませんから、カモメが北極圏まで探しに言ってくれたのです。
見つけることはできませんでしたが、見たという情報をもってかえってきました。
ぼくの友だちが新聞記者をしていまして、トルムセで共同でクラーケンを監視する会議が開催されましたが、そのの取材に行ったときにミラを探してくれたのです。でも、そのときも見つかりませんでした」ダニエルも言った。
「これからどうするのですか?」
「オリオンの仲間のリーダーは、博識で、統率力がありますから、集まってきた情報を元にどうするか決めると思います。それがわかれば、ぼくらにできることがあれば手紙を送ります」
「オリオンのことがありますから、みんなもどうするべきか悩んでいると思いますが」
アントニスとダニエルは知っているかぎりのことを話した。
「まるでファンタジーのようだ」
「ぼくも最初そう思いました、イリアスからオリオンのことを聞いたときは」
「イリアス?」
「ぼくの甥です。イリアスがオリオンと友だちになってよく海で会っていたのです。
イリアスは、最初英語がわかりませんでしたから、変な言葉を話すイルカがいると教えてくれたのです。
ぼくもオリオンと友だちになりましたが、ぼくの不注意で、ある場所で英語を話すイルカがいると言ってしまったので、誰かがぼくらの後をつけて、オリオンを捕まえようとしたのです。
そいつらが襲ったとき、オリオンは逃げればいいのに、溺れそうになったイリアスを助けるために戻ってきたのがそもそもの発端です」
「ぼくらは研究所のスタッフですが、ジョンという海軍の将校がいます。彼はオリオンを信頼しているし、オリオンもジョンを信頼しています。
だから、海底に人間が閉じ込められているとオリオンの話を疑わずに、オリオンと同じ気持ちで早く助けようとしてくれています。
今は、かつての冷戦状況下で、しかもクラーケンが出没するという複雑な時代なのに、ジョンは、上官に笑われても、却下されても、何度でも海底にいる人間を助けるように働きかけてくれたのです。それで、海での訓練までたどりつきました」
「オリオンは感謝しているでしょう」
「ぼくらも情報を交換して、オリオンだけでなく、ミラも助けることができるようにしたいものです」
「あなたたちはどこにいるのですか?」ジョンが聞いた。
アントニスは思いきって答えた。「このホテルに滞在しています。ぼくら二人だけでなく、イリアスたちもいます」
「イリアスは何才ですか?」
「10才です。でも、ぼくらのスポンサーです」
「えっ?」
「『オリオンとぼく』という童話を書いて印税が入りました。イリアスはこれでオリオンを救いたいと考えました。それで、ぼくらも仕事をやめてここに来たのです」
「あの童話の作者ですか?」
「そうです」
「それで謎が解けました!あの童話に出てくるオリオンと今自分たちが話しているオリオンが同じ名前なのは偶然だろうかと考えたことがあったので。しかも、事実が元になっていたのですね」マイクは興奮した。
「そうです」
「ぼくも読みましたが、そんなことは書いてありませんでしたね」ジョンも言った。
「はい。意図的に書きませんでした。これは事実だと書けば、オリオンは帰ってこないかもしれないと思ったのです」
「英語を話すイルカなら高く売れると考えるやつがいるかもしれない」

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