シーラじいさん見聞録

   

リゲルは、うなだれているそのカモメに声をかけた。「きみらがいないと、おれたちはどうすることもできないんだよ。それどころか何もわからないし、何もできない。
きみらはわざわざ北極圏まで行ってくれて、ミラがそこにいるという情報を持ってかえってくれた。
それがわからなかったら、今もこのあたりでミラを探しているにちがいない。
そんなことをしていたら、クラーケンがここに来たって、何もできないところだった。
これからも、オリオンを助けるためにがんばってほしいんだ」
若いカモメは、「よくわかりました」というように何度もうなずいた。
そのとき、またカモメが下りてきた。「どうやらこちらに向かうようです」
リゲルは、「ほら、最新情報だ!」と最初の若いカモメに言ってから、「どのくらいいるのか?」と聞いた。
「100頭はいるでしょう。まだあちこちから集まってきています。でも、急いでいるという様子ではありません」
訓練を終えたシリウスやベラたちが戻ってきていた。
それを聞いたシリウスは、「おれたちも作戦にとりかかりましょう」と言った。
「もう少し様子を見よう。気が変って、別の場所に行くかもしれないから」リゲルが制した。
「オリオンが海で訓練をはじめたという情報があったじゃないですか。絶対そちらに行かせないようにしなければなりません」他の者も次々自分の意見を述べた。
「そうだ。リゲルは、いつも攻撃は最大の防御なりと教えてくれているじゃありませんか」
「こちらに向かっているといっても、動きから見て、まだどこに行くはっきり決めてしないようだ。次の情報を待とう。寝た子を起こすようなことをすれば、このあたりにどんどん集まってくる」リゲルは防戦するばかりだった。
「準備だけでもしましょう」シリウスは、もう一度言った。
リゲルは、みんなの熱意に押されて考えこんだ。
「そうか。おまえたちの気持ちはわかった。シーラじいさんに許可をもらおう」リゲルは折れた。いや、頼もしくさえ思った。
「向こうも焦っているように思える。全力でおまえたちを追いかけてくるかもしれないが、それでもいいのか?」ともう一度聞いた。
「どうしてもオリオンをインド洋に行かせたいのです。そうすればオリオンを助けることができます」
「わかった」リゲルは、そう言って、ベラが呼んできてくれたシーラじいさんに、今の状況とみんなの思いを伝えた。
シーラじいさんは、みんながいる場所に来る途中、すでにオリオンが海で訓練をはじめた以上、もう止めることはできないと思った。
リゲルたちの顔を見て、「よかろう。全力で戦ったらいい」と答えた。
シリウスたちは、オーッと叫んで、喜びをあらわした。
そのとき、ペルセウスが帰ってきた。訓練の様子を話した後、オリオンが、アントニスたちと研究所のスタッフであるマイク、ジョンとが顔を合わせるようにしたことを伝えた。
それを聞いたリゲルたちは、「これでニンゲンの力が何倍にもなる」、「オリオンらしい行動だ」、「一人でもそんなことができるのよ」、「おれたちもやらなくっちゃ」と声をかけあった。それはさらにみんなの意気を高めた。

アントニスの携帯電話が鳴った。予期していたとおりマイクからだった。しばらく話をしていたが、「それなら、ホリディインはいかがですか。ハーバート・ウオーカーアベニューの。明日の午後6時ということで」と電話を切った。
「大丈夫かい、このホテルで?」ダニエルが聞いた。
「ぼくも少し迷ったんだが、マイクとジョンはオリオンが信頼しているニンゲンだ。
二人もオリオンを信頼しているから、海底にニンゲンがいるという話を信じてくれたので、海での訓練までたどりついた。これから二人は連携していかなければならない。
いずれどこにいるのかという話になるはずだから、ここでかまわないとかんがえたのだ」
「きみの気持ちはわかった。明日だな」ダニエルは理解した。
多分二人来るだろうから、こちらはアントニスとダニエルが会うことにした。
そして、翌日6時にホテルのレストランで待った。二人は来た。最初に自己紹介したが、アントニスは、すぐにオリオンの様子を聞いた。
「海での訓練をはじめたということはご存じだと思いますが、がんばりすぎるほどがんばっていました。
でも、帰ってから体を調べたのですが、異常はありませんでした。
今後も何回かは海での訓練はできると思いますが、そこは2000メートルの深さがあるそうですから、それが心配です」
アントニスは、あたりを見てから、「オリオンほど責任感が強いものはいません。ニンゲンと比べても」と答えた。
「そうです。ぼくら二人も心からそう思います」
「絶対に無理をしなようにと伝えてください。言っても聞かないでしょうが」
「わかっています。疲れているようだったら、こちらからやめさせますから安心してください」
「ところで、仲間のクジラがいなくなったことを心配していませんでしたか」
「そうそう。そんなことを言っていましたね。船を助けたクジラは多分仲間であるとオリオンから聞きました。海軍などはかなり調べたのですが、結局わかりませんでした」
「あのクジラはミラという名前なんですが、北極圏にいるのが目撃されました」
「ほんとですか!」
そうか!オリオンはそれを知らないんだ。知っていたら、二人に言うはずだ。
アントニスはそこまで言ったのを少し後悔した。しかし、オリオンはどんどん前に進んでいる。出し惜しみしている場合じゃない。

 -