シーラじいさん見聞録

   

数日後、ミラは見つからなかったという手紙がアントニスから届いた。
リゲルたちは心配そうな顔をしたが、シーラじいさんは、「1人途方に暮れていないということは仲間といるということじゃ。心配することはない」と声をかけた。
「ぼくらはどうすればいいのですか?」シリアスが聞いた。ミラとオリオンが懸命にがんばっていると言うのに、特にオリオンとは同じイルカの仲間として、自分もやらなければならないという自覚が芽生えていた。
ベラも懸命に英語をおぼえ、シーラじいさんを助けて手紙を作っている。それにひきかえ、自分はという思いがあった。
リゲルにとっても、広い世界で、しかも、大西洋やイギリス海峡、また北極圏とあちこちに注意を払わなければならなくなったので、シリウスに任す必要があった。
「オリオンが訓練をしている間は、クラーケンがサウサンプトンに行くのを少しでも遅らせることが作戦の目的だ。もちろんニンゲンは探知しているはずだが、遅らせれば、オリオンが安全に避難できる」
「どうすれば?」
「まだ具体的部決めていないが、弱そうなやつに、向こうにニンゲンが待ちかまえているとデマを流して動揺させるつもりだ」
「いや、ぼくらが前を横切って挑発します。無視されても、おちょくってやれば怒ってこちらに向かってきますよ」
「そんなことをすれば、おまえたちがあぶない」
「オリオンに教えてもらった方法で逃げれば大丈夫ですよ」
「絶対無理するなよ。時間稼ぎをすればいいのだから」
「わかりました。200メートルは潜らなければならないので、みんなと練習します」
「そうだな。それから、どういう作戦を取るにしろ、おれたちだけではできない」
シリウスたちはリゲルの顔を見た。「海峡とはいえ、ここは広い海だ。どこを通るかわからないだろう?まずカモメにクラーケンを早めに見つけてもらわなくては、一気にサウサウプトンまで行かれてしまう」みんな納得したようだ。
「カモメにどう見張ってもらうか、どう連携するかを決めなくてはならない。そこをカモメと話しあうことにする」シリウスはみんなを引きつれて訓練に行った。

マイク、ジョン、ベンの3人はオリオンを囲んでいた。「オリオン、体調はどうだ?」ベンが聞いた。
「万全です。早く海で訓練したいです」
「それはよかった。聞いているように北極圏でクラーケンが暴れだしたようだ。
つまり、ここにはしばらく来ないので、今のうちに訓練をしたようがいいというのが3人の考えだ。それでいいかい?」
「お願いします」
「でも、絶対無理をするなよ」マイクも言った
「それから、もしクラーケンが近づいてきたら、すぐに避難する。きみにはマイクをつけてもらうよ」ジョンもつけくわえた。
「準備ができたらすぐ決行だ」

トルムセの会議で決まったように、北極圏で資源を採掘する国は共同でクラーケンを見張ることになった。
アメリア側とチャイア側ともに、ここは矛を収めてまず実利を守ろうと考えたのである。
しかし、アメリアの無人潜水艦が破壊されるという事件が起こった。今度も採掘の状況を調べている最中だった。
他の国にも連絡が入り、近辺にいた船や潜水艦が現場に駆けつけたが、どこの国も、海面でも、海の中でも、不穏な動きはなかったと言った。
すぐに関係国がトルムセに集まった。そこで、引き上げられた潜水艦の調査が行われた。やはりカナダの潜水艦と同じように、船首や側面が大きく破壊されていた。
人工衛星からの海面の様子や、海底近くに設置されているレーダーが調べられた。しかし、どこにも不審な動きはなかった。
アメリア側の委員が怒りを込めて、「誰が見たって、どこかの国がクラーケンに見せかけて、潜水艦を攻撃したのは明らかだ!」と言い放った。
チャイア側は、「我々を陥れる発言だ。もう共同で行動できない!」と抗議して席を立った。

午後2時ごろ、カモメがアントニスたちのホテルの部屋に来た。何かを訴えている。
「オリオンに何かあったのか?」イリアスが聞いた。カモメはそうだというように鳴いた。
「海に行くのか」もう一度聞いた。そうだと鳴いた。
「二人は今仕事中だ。どうしよう?」イリアスは部屋に入ってきたジムとミセス・ジャイロに聞いた。
「大丈夫よ。オリオンは訓練するだけだから、わたしたちは静かにしているほうがいいのよ。アントニスたちもそう言っていたでしょ」
「オリオンは、いよいよインド洋でニンゲンを助けるんだ。イリアスも、また童話が書けるじゃないか。今度も世界中で売れるぞ」
「そうだね。それじゃ、カモメに様子を見ておいてもらおう」
ミセス・ジャイロは、とりあえずメールをアントニスに送った。
アントニスはそれを見て、ダニエルに伝えた。「トラックが動いていたが、あれがそれだな」
オリオンは、特別なケースに入れられた。「もし体調が思わしくなかったらすぐに連絡しれくれよ。これから、何回も訓練するのがから」マイクはオリオンを案じた。
オリオンは笑顔で了解しましたと答えた。
港に着くと、すぐに海軍の船に乗せられた。船はすぐ動きだした。

 -