シーラじいさん見聞録

   

ベンは、「ロンドンで上司と打ちあわせをしてくるよ」と言って、また慌ただしく戻っていった。
マイクは、「オリオン、よかった」と喜んでくれた。ジョンも、「きみの努力が勝ったんだ」と言った。
オリオンは礼を言ったが、「もっと早く行動を起こすべきでしたが」と自分の気持ちを素直に言った。
「そんなことはない。以前きみが言っていたように、英語を話すというだけでは見世物にされるかもしれなかったんだ。きみが状況を見て、今だ!と判断したから事態を動きはじめたんだ。今が正解だよ」
「ありがとう。二人がぼくを理解してくれたからです」
「ぼくらだけではどうしようもない。ベンのような政府と話ができる者がいたから、事態が動きだしているんだ」
オリオンは、二人と話をしながら、同時に別のことが浮かんだ。
まずシーラじいさんたちにこのことを知らせなければならない。もしぼくがここにいないとわかれば心配するだろう。アントニスたちも、ぼくを助けようとしてこの近くで様子を伺っている。
「マイク、ジョン、二人にお願いしたいことがあります」二人は身を乗りだした。
「仲間にこのことを知らせておきたいのです」
「そうだったな。海にも陸にも、そして空にも、きみの仲間がいるんだ!それで、どうしたらいいんだい?」
「あそこに換気孔がありますが、あれはどこに出ていますか?」
「あの穴か?」
「そうです」
「多分、外の壁にあるはずだ」
「そこに、なるべく小さな紙に、『近々海底にいるニンゲンを助けるためにインド洋にいく。心配しないこと』」と書いた手紙をおいてください」
「これでわかるんだな」二人は、詳しくは聞かず了承した。今オリオンに理由を聞く必要はない。
「後はみんながやってくれます」
「OK」二人は、そう言うと、すぐに部屋を出た。
小鳥がそれをカモメに渡してくれたら、アントニス、シーラじいさんに伝わる。
そして、海底のニンゲンを助けることができたら、ニンゲンはぼくを解放してくれるかもしれない。
みんなに恩返しができるんだ。オリオンは、どんなことでもやろうと思った。

手紙は、すぐに小鳥からカモメ、そして、アントニスたちに届けられた。
「いよいよオリオンの出番だ!」アントニスは叫んだ。
「これはオリオンが英語を話すというだけでなく、国、ニンゲンに信用されたということだ」ダニエルは感激した。
「そうだ。しかも、事態はますます悪くなっているのに、すぐにでも海底を捜索するというのはすごいことだ」
「まあ、ニンゲンより海底資源が目的だろうが」ジムも口を挟んだ。
「ジム、絶対にへんなことを考えないでよ。海にもスパイがいると思われたら、オリオンの計画が台無しになるのよ」ミセス・ジャイロはジムを制した。
「わかっているよ」
「とにかく、オリオンの根気はぼくらでも真似できないよ」
「これからどうしたらいいの?ぼくはインド洋に行きたい」イリアスが言った。
「行きたいのは山々だが、現実には無理だ。ここで待つしかない」
「それなら、リゲルたちに行ってもらおうよ」
「そうだ。早くシーラじいさんに手紙を書かなくては。リゲルたち驚くだろう」アントニスは、急いで手紙を書いて、待っていてくれたカモメに渡した。

翌朝早くその手紙はシーラじいさんに渡された。それを読んだシーラじいさんはペルセウスに内容を話した。
「やりましたね、オリオンは!」ペルセウスは飛びあがって喜んだ。「早くリゲルたちが帰ってくればいいのに」
リゲルたちは、ミラを探すために、4,5日ぐらい留守にしては帰ってくるようにしていたのだ。
翌日帰ってきた。その様子からミラが見つからなかったようだが、ペルセウスはアントニスからの手紙について話した。
みんなの顔は笑顔に溢れ、「いよいよだ」、「オリオンが帰ってくるぞ」、「ニンゲンが生きていればいいがな」とみんな久しぶりに大きな声で話した。
シーラじいさんは、「みんなごくろうじゃった。しばらく休め。オリオンのことじゃが、オリオンを信頼してくれたのはまちがいない。
しかし、まだ楽観はできない。ニンゲン対ニンゲン、ニンゲン対クラーケンのことで突発的なことが起きればどうなるかわかないからじゃ」
「まだミラが見つかっていませんが、クラーケンからオリオンを守るためにそこに行かなくても大丈夫ですか?」リゲルが聞いた。
「オリオンは、どのようにニンゲンにあの穴を教えるのでしょうか?」同じイルカのシリウスも心配して聞いた。
「オリオンをロープでくくりつけるようなことはせぬじゃろ。ただ、オリオンの後をセンスイカンがついていく。
また、あの穴に例の怪物がいたら、オリオンがいないと入れないから、オリオンに任すしかないじゃろ」
「オリオンは、長い間深く潜っていないから大丈夫かしら?」ベラが心配そうに言った。
みんなは、これから多くの難問が待ちかまえているのがわかった。

 -