シーラじいさん見聞録
2羽のカモメは、ミラの名前を叫ぶながら探しつづけた。
しかし、クラーケンから攻撃を受けた船と、それを助けようした船が見えるだけで、ミラの姿はどこにもなかった。
手がかりがないか船に近づいたが、船から降ろされたボートに乗っているニンゲンが、浮いているクラーケンを調べていた。ミラはいない。
「どこへ行ったんだろう?」
「何かあったたら、必ず浮いてくるはずだ。もう少し探そう」
2羽は休むことなく探しわまった。かなり遠くまで行ったが、その姿はない。
「おかしいなあ。どうしたんだ?」
「深く潜っていたら、もっと遠くに行っているかもしれないが、かなりけがをしていたしなあ」
「暗くなってきた。早くリゲルたちに報告したほうがいいのじゃないか」
2羽は戻った。待っていたリゲルが、「何かあったのですか?」と心配そうに聞いた。
2羽はすべて話した。「ありがとうございました。ミラはセンスイカンに気がつかなかったようですね」
「クラーケンの動きに集中していたのだろう」
「しかし、大けがをして、意識も薄れてきていたのに、何十頭もいたクラーケンを全部蹴散らしたんだ。ニンゲンも、それを見て、攻撃することを忘れていたようだ」
「ああ、そうだったな。ニンゲンもミラがいたから助かったんだ」
「ぼくらがミラを探してきます」
「わしらが案内するぞ」
「何回も申しわけありません」リゲルは、カモメに礼を言うと、すでに集まってきていたベラやシリウスたちに状況を話した。
そして、ベラに、「きみはシーラじいさんのそばにいてほしいが、まずシーラじいさんに捜索の許可を取ってきてくれないか」と頼んだ。
「すぐに行ってきます」ベラは潜った。その間に、若いものに捜索をするが、船やセンスイカン、クラーケンに気をつけるように言った。
しばらくすると、ベラが上がってきた。「シーラじいさんは、すぐに行くようにとのことです。それから、ペルセウスに戻ってきてもらうから、わたしも同行するようにと言われました」
「わかった。それじゃ、急ごう」すぐにカモメは飛びあがった。みんな後を追った。
「オリオン、テレビのニュースで見たが、クラーケンが船を襲っていると、そこに大きなクジラがあらわれてクラーケンにぶつかっていった。そのクジラはきみの仲間とちがうのか?」マイクが聞いた。
「えっ、どこでですか?」
「また大西洋の北部だ」
「以前きみを助けようとしたクジラとよく似ていたそうだ。あのときは、真っ暗だったのでよくわからなかったそうだが、今度はカメラにその時の様子がはっきり写っている。ザトウクジラだ」
ミラだ!ミラにちがいない。オリオンは、マイクに、「仲間です。どうなりましたか?」と聞いた。
「ニュースにも映っていたが、かなりけがをしていた。それでも、向かってきたクラーケンに堂々と向かっていった」
「クラーケンは逃げたが、そのクジラは、しばらくそこにいた。そうとう弱っていたそうだ」ジョンも説明した。
「大丈夫だったでしょうか?」
「その後、海中に姿を消したが、空から探しているが見つからないそうだ」
オリオンは動機が激しく撃つのを感じた。それを押さえるように、心で叫んだ。ミラ、死ぬなよ。もう少しでニンゲンはぼくらのことを信用してくれる。そうなれば、きみが先導して、ニンゲンが閉じこめられている穴を教えるんだ。
そうなれば、ニンゲンは自分勝手な行動をやめる。クラーケンは自分の国に戻り、ぼくらも、みんなで「海の中の海」に帰ろう。もう少しだ。ミラ、絶対死ぬなよ。
シーラじいさんはできるだけ海面にいるようにした。リゲルたちが捜索に出かけた翌朝早くカモメが来た。
「シーラじいさんじゃないですか。みんあどこに行きましたか」と聞いた。
シーラじいさんは、ミラのことを話した。「あんたたちのお仲間には、何回も行ってもらってな」
「そんなことは何でもないです。飛ぶのが商売ですから。でも、心配ですな。アントニスから手紙を預かってきましたが、それと関係があるかもしれません。早く頼むと言っていましたから」そう言って、足に挟んだ手紙を渡した。「それはすまない。手紙を広げてくれないか」
カモメは,足と嘴で防水用のビニール袋を開けた。そして、それを海面において、その上に手紙をおいた。
シーラじいさんは手紙を読み、その内容をカモメに話した。「はやり、このことじゃな。今、テレビニュースで言っていると書いている」
「それで、みんなテレビを見ていたのですか」
「わしらがあわてているのでないかと心配してくれている」
「おれたちの仲間はミラを見つけることができなかったのか」
「いや、それは仕方がない。海に潜ったのじゃから」
「しかし・・・」
「ニンゲンもミラの勇気に驚いているそうじゃ。ニンゲンも、あちこち探してくれているから、いずれ誰かが見つけてくれるじゃろ」