シーラじいさん見聞録
ダニエルは相手が出るのを待っていたが、「だめだ。出ない。取材に追われているのだろう」と言ったとき、イリアスが「カモメだ!」と叫んでベランダのほうに走った。そして、すぐに「手紙だよ」と、カモメと一緒に戻ってきた。
アントニスは、手紙を受けとりすぐに読んだ。手紙には、「北大西洋で交戦あり。また、新しい情報を連絡する」と書いてあった。
「シーラじいさんがいるほうで起きたのか。みんな大丈夫だったか」とカモメに聞いた。
カモメはうなずいた。
「全員見たのか?」と聞くと、カモメは首を振った。「そうしたらミラか?」カモメはうなずいた。
「なるほど。ミラが第一目撃者かもしれないな」
「それなら、今も様子を見てくれているだろうかから、こちらの報道と合わせたら、事実と隠されていることが明確になる」ダニエルが言った。
「そうだ。そして、次何が起きるかがわかる」ジムも興奮していた。
「よし、シーラじいさんに返事を書こう」
「シーラじいさん、お手紙ありがとうございます。アメリアとチャイアの交戦をミラが目撃したようですね。
こちらでも、このニュースはテレビで大きく報道されています。しかし、意図的に隠されていることがあるかもしれません。今後ニュースを整理して手紙を書きます。
お互い状況を知らせあって、オリオン助けるために我々がどうするべきか考えていきましょう」すぐにカモメに渡した。.
テレビでは、本国からの自制の指令があったのか交戦は終ったが、舞台は国連移りお互いが、相手の非を激しく追及していることを報道していた。
「戦争がはじまるの?」イリアスは心配そうに聞いた。
「いや、お互いが溜まっていることを主張すればすむかもしれない」ダニエルは答えた。
しかし、翌日から、同盟国はそれぞれの大使を引きあげた。そして、謝罪をしなければ国交を断絶すると互いに声明を出した。
「エスカレートするばかりだ。どちらかが抑えなければ大変なことになる」
「国連は止められないの?」
「そうであってほしいが、国連には戦争を止めさせることはできない。アメリアやチャイアなどの大国は常任理事国になっていて、そこが一国でも反対したら、何もできない規則なんだ」
「それで、クラーケンが大暴れしてもニンゲンは何もできなかったの?」
「イリアスは相変わらず頭の回転が速い。そうなんだ。お互いがクラーケンは相手の生物兵器だと考えていたんだが、どうやら、自分たちも作って、相手が海の資源を取るのを妨害しようと考えていたようだ。
ところが、世界中の海にクラーケンがあらわれるようになってしまって。何がどうなっているのかかわからなくんってしまったんだ」
「オリオンの話を聞いてくれたられたらうまくいくのに」
「絶対そうだわ。ひょっとしてそうなるような気がするの」
「とにかく核兵器が使われないことを祈るよ」
ダニエルはようやく友だちと連絡がついたようだ。話が終わると、アメリアの今の状況を要約した。大統領の近くにいる者に取材をしたが、誰に聞いても、アメリアは駆け引きを一切しないと決めていると言っている。それなら、チャイアもそうだろうと思う。このまま膠着状態が続くかもしれないと言っている。
アントニスは、それらを整理して手紙を書いた。カモメのことを考えたら、そう度々手紙は書けないので、まとめて書くことにしていた。
カモメも、今まで以上に来てくれていたので、すぐに渡すことができた。
翌朝早く返事が来た。「全員で様子を見ている。アメリアは、チャイアの船を北に行かさないようにしている。センスイカンも多し」
「もう半分戦争状態だな。どうせチャイアもどこかでそうしているだろう」
テレビは、戦争に発展しなくても、資源やクラーケン問題についての国際会議が開けない状態が続くと、国際基準を無視した経済活動のために、温暖化は急激に進むと警告していた。後4,50年で、平均気温は5,6度上がると予測されるというのだ。
そうなれば、世界人口の30%が生きていけなくなる。この世の地獄はすぐそこに来ているのだ。
オリオンはすでにマイクやジョンから今度のことは聞いていた。「シーラじいさんは、今度戦争があれば、人類は絶滅すると言っていました。そんなことはないでしょうね」オリオンは二人に聞いた。
「心配かけてほんとに申しわけない。人間は今試されているんだ。目的を失ったまま絶滅するのか、あるいは、もう一度目的を探して生きていくのか」ジョンは悲しそうに言った。
「確かに自国のことしか考えてこなかったツケが来ているんだ。オリオンはどう思う?」
マイクが聞いた。
「シーラじいさんは、ニンゲンはどんな困難も乗りこえてきた。おまえたちも見習わなければならないといつも言っています。
その言葉に励まされて、自分の何倍も大きいものに立ち向かってこられたのだと思います。
今回のことも、何でもないことだと気がつけば、絶滅などということにはならないと思います。
そして、これを機会にニンゲンが一つになれば、これから何が起きても乗りこえられると思います」
「オリオン、ありがとう。所長にも、君の考えを話して、きみが教えてくれた海底にいる人間を助けるために全力を尽くすよ」