シーラじいさん見聞録
オリオンは黙ってマイクを見た。「どんなことでも言ってごらん。きみは賢明で誠実だ。そして、ぼくの親友だ。ときどききみがほんとにイルカなのかと思うことがある」マイクはオリオンを励ました。
オリオンはほっとしたようにうなずいた。そして、言った。「信じてもらえるかどうかわからないが、海底にニンゲンが閉じこめられている。そして、助けを求めている。それをどうしても話したいんだ」
マイクは目を丸くしてオリオンを見たままだった。それから「海底!」とつぶやいた。
「そうだ」
「生きているのか?」
「生きている。ぼくらは彼らと会った」
「どうして生きられるのだ?」
「海底に穴が開いていて、そこを伝っていくと、まるで海岸のような場所に出る。ぼくらも不思議に思ったけど、そこには空気がある。だから、そこにしばらくいることができた」
マイクはどう答えたらいいのかわからないようだった。
「人間って?」
「白人だ。8人いた」
「8人も!」
「そうだ。そこに閉じこめられたときは13人いたそうだけど、4人は亡くなったと言っていた。あれから2年は立っているので、今も8人かどうかはわからない」
「そんな場所があるとしても、どうしてそこにいるのか聞いたのか」
「詳しく話してくれた。センスイカンが故障してコントロールできなくなり、偶然その穴に入りこんだようだ。
彼らの話では、海底に希少な鉱石を見つけて、それを取りだすための調査に来ていたそうだ」
「どこの人間だろう?」
「ソフィア共和国の海軍の軍人や鉱山の専門家と言っていた」
「ソフィア共和国!崩壊した国だ」
「そうだ。しかし、彼らはそれを知っていない。ぼくらも後で聞いた。
崩壊の原因となった国家予算の逼迫を解決するための任務だったが、今閉じ込められている場所には大量の鉱石があった」
「ほんとか!」
「そこは当然真っ暗だったが、鉱石の光でニンゲンがはっきり見えたよ」
「そんなことが!」
「しかも、そこには空気もあったので、彼らは、これですべて解決できると喜んだそうだが、センスイカンの動けなくなっていた」
「ソフィアは、クーデターが起こり崩壊したのじゃなかったのかな」
「ぼくらもそう聞いた。仲間のニンゲンが、ソフィアの当時の海軍大臣に、こんなことがなかったか聞いたことがあるんだ。
崩壊や亡命の混乱で忘れていたが、確かにインド洋沖で大量のダイヤモンドが見つかった記憶がある。もっと見つけるために海軍は相当力を入れた。
しかし、それは秘密裏に行われたし、幹部は亡命や処刑でみんな忘れているだろうとのことだった」
「まるで映画のようだ」
「ぼくがこんなことを言っても、最初は誰も信用してくれないけど、海底にいるニンゲンと、必ず話をするし、ぼくのできることはどんなことでもすると約束している。だから・・・」
「でも、きみのことを理解してくれる人間がいるのだろう?」
「そうだ。でも、今はここにいるから、そのニンゲンとは連絡が取れない」
マイクは、そうかというようにうなずいた。
「きみは、その場所がわかるのか?」
「わかる。また、その穴の入り口には、とてつもなく大きな怪物がいるが、ぼくのことをおぼえてくれていたら、ちゃんと入れてくれると思う」
「ああ、何てことだ。待ってくれよ。きみは英語をしゃべることができ、しかも、人間が海底に閉じこめらていることを話したいのだ。
きみが英語で人間と会話できるのをわからせるのは簡単だ。しかし、その話を信用してもらえるかどうかか。
あっ、ダイヤモンドなんかがあるんだな。それを使って、世界の国、これもむずかしいなあ。とりあえずこちらの同盟国を結集する。
そこがどのくらいの深さなのかをまず調査しなければならない。当時と比べたら、有人の潜水艦でも相当深く潜れるようになっているから、何とかなるかもしれない」マイクは独り言のように言いはじめた。
しばらくしてオリオンを見た。「オリオン、きみはぼくを信頼してくれている。ぼくも、何とかそれに応えたい。
しかし、うまくやらなければ、きみを見せものにしてしまうかもしれないので、少し時間がかかる」
「ありがとう。ぼくにできることなら何でもするから」