シーラじいさん見聞録
「そやつはわしに何か言っておったそうじゃな?」
「確かに部下から聞いておりました。しかし、たわごとだと考えてボスにいうほどのことはないと」
「おまえはそやつを知っているのか?」
「存じておりません」
「おまえは、多くのものが集まっている場所にいたのではないか」
「そうですが、あのような小さなものはいませんでした」
「たわごとであっても、そやつは何を言いたいと思うか?」
「はあ」
「遠慮なく言ってみろ」
「わかりました。檻にいるということはニンゲンにコントロールされているということでありまして、我々が攻撃をするのをやめさせるために利用されていると思われます」
「「確かにな。しかし、海底の国などという言葉を使っているそうだが、わしらのことを知っているようにも思える」
「それは、ニンゲンの憶測だと思われます。科学的にわからないときは、どこからか来たと言えば都合がいいのです」
「なるほど。おまえは、ニンゲンの言葉を翻訳する部門の責任者であったな。
わしらは、自分の経験から作戦を決めるが、今後、相手のことを研究して作戦を立てることも必要になってくるかもしれん。相手が科学的なら、わしも、もっと科学的に考えなくてはなるまい。
ただ、今回は海底の国に戻ることはしない。相手にもかなりの打撃を与えた。しかしながら、兵隊の数が足らない。それさえうまくいけば、やつらは海に出てこなくなる。
わしらが海を取りもどすときはそう遠くない。それでいいか?」
「もちろんでございます。ボスの命令には、命をかけて従います」
「よろしい。それなら、兵隊を集めるために全力を尽くせ」
ベテルギウスは、その場を離れた。今度は同僚が指揮を任されるだろうが、それは仕方がないことだ。
もしオリオンが、今度のように使われたら、ボスはそれを利用して、船を転覆させるような作戦をするかもしれない。それは効率的な作戦だが、オリオンは危険にさらされる」
ベテルギウスは、その考えを振り払い、数頭の部下に、兵隊を集めるための指示を出した。
リゲルは、オリオンを助けることができなかったのが悔しかった。今度こそ助けたい。
そこで、シーラじいさんに、港近くで待つことを提案した。
「しばらく待て。お互い、つまり、ニンゲンもクラーケンも、大きな被害があったようじゃから、すぐに動くとは思われない。
わしも、ニンゲンの考えを知りたいところじゃが、まったく秘密にされているので、新聞にそのことは書かれていない。今は、ペルセウスとカモメからの情報を待つしかない」
「今回のように、手遅れになることを心配しているのですが」
「だが、今あの近くに行けば、必ず両方から見つかるおそれがある。何かあればいざというときに後悔する」
リゲルは黙るしかなかった。情報が来たら、それに対する動きをできるだけ早く取るというシーラじいさんの言葉に従うしかなかった。
オリオンはマイクと話をしたいと思った。どうしても聞きたいことや相談したいことがあったのだ。
しかし、なかなかその機会はなかった。顔を出すことがあっても、他のスタッフがいるから、近づくことさえできなかった。
数日後、深夜2時を回っていたが、ようやくその時が来た。夜間の担当は2人だが、他のスタッフが仮眠を取っていたのだ。
マイクは、「ごめん。ぼくもきみと話したかったのだが、今回のことで、仕事が増えて時間が取れなかった」と言いわけしてから、「ジムはスパイと疑われているよ。取調べでも、のらりくらりの返事しかしないようだが、別に疑わしいことは出てきていないそうだ」と早口で言った。
「釈放されますか?」
「このままだったらそうらしいよ。でも、無罪ではなくて、いわゆる泳がすんだ」
「泳がす?」
「自由にさせて、どこへ行くか、誰に会うかを調べるのだ」
オリオンは、もしそんなことになれば、アントニスやイリアスたちに何か起きないかと心配になった。
「もちろん、同盟国で決めることだから、どうなるかわからないが」
「ぼくをまた使うのでしょうか」
「どうだろうか。ただ、クラーケンの消息は不明だが、普通のサメの10倍近いサメがいることがわかっているから、何としても、そいつらを捕まえたいと思っているだろう」
「マイク、頼みがあります」
「何だい?」
「みんなの前で話をします」
「えっ、大丈夫か。きみが言葉を話すのは、みんな知っている。ただ、オウムという鳥がいるんだけど、それは人間の口真似をするのが有名だけど、それと同じように見ている。もしきみが自分の考えを人間の言葉で伝えることができるとわかれば、きみに対する考えは180度か変わる」
「180度というのは、まるっきり変わるということですね」
「そうだ。まるっきりだ」
「マイクにも言っていなかったことがあるのですが、それを伝えたいのです」
「どんなこと?」