シーラじいさん見聞録

   

ニンゲンは、自分の背中に何か埋めこんだようだ。そして、何かを発信する実験を何回も繰りかえした。多分、ぼくの「声」だろう。
オリオンは、ここに連れてこられたときに、自分が英語を話せることをもっとわからせるべきだったと後悔した。話せば、ニンゲンは自分から離れず、逃げる隙がないと考えたのだった。
中途半端に話したから、ニンゲンは、どこかの国が簡単な英語を話すチップを組みこんだのだと考えたのだ。そして、スパイと疑い、あらゆる研究をしてきた。結局、仲間をおびきよせる囮(おとり)として海に連れていかれるのだ。
このままではリゲルたちがつかまってしまう。たとえ、自分が死んでも、それは避けなければならない。リゲルやミラたちは、シーラじいさんの指示の下でクラーケンたちが暴れるのを抑えてくれるだろう。
大勢のニンゲンが建物に入ってきた。水槽にも、潜水服を来た2人のニンゲンがオリオンに近づいた。
いよいよなんだな。悔やんでも仕方がない。やるべきことはやる。そう思いながらも、オリオンはされるままになった。
ネットに乗せられると、すぐに持ちあげられた。すでについていたトラックの水槽に入れられると、すぐに動きだした。
2羽の小鳥は、大勢のニンゲンが来たきたときには、まだ何か異変があるとは気づいていなかった。
しかし、オリオンが持ちあげられたとき、これはおかしいと顔を見合わせた。
「おれが知らせてくる。おまえは見張っていてくれ」1人がそういうと、すぐに飛びたった。建物の横にある大木に行ったが、カモメはいない。
小鳥はすぐに戻り、見張っている小鳥に、「いないんだ」と小さな声で言った。
見張っている小鳥は、「トラックは出ていくようだから、おまえは追いかけてくれ。おれはカモメを待っているから」と応じた。「よし!」1羽の小鳥は飛びたった、
建物の上を回っているとき、2羽のカモメが来た。「どうしたんだ?」と聞いた。
小鳥は、「たいへんです。オリオンが連れていかれました!」と叫んだ。
カモメは建物の中をのぞいたが、明りとりの窓は、カモメを警戒しているか狭くなっているので、水槽の端が見えるだけで、水槽の様子はわからなかった。
「どんな車だ?どちらへ行った?」カモメは、次から次へと聞いた。
「大きなトラックのでした。多分、海のほうに向かったと思います。今、仲間が追いかけています」
「ここにいてくれ。仲間が来たら、その通り教えてやってくれ。おれたちも探す」2羽は飛びたった。
しかし、深夜にはなっていないので、交通量は多い。トラックもかなり走っている。
「どうしよう?とにかく、先回りすれば、おれたちのほうが早い」1羽が言った。
「そうだ。それなら、おまえが先回りしてくれ。おれは、アントニスに連絡する。今、連絡をしなければ、するときがないだろうから」
「それはいい考えだ。おれはイギリス海峡まで一っ飛びする」
「小鳥を見つけたら、礼を言って、戻るように言ってくれ」
「了解」2羽のカモメは別れた。アントニスのホテルにはすぐ着いた。ライトがついている。カモメは窓を叩いた。
イリアスがすぐに窓をかけたので、カモメは中に入った。ブラウンもいるのが見えた。
3人は、何かあったのかという顔でカモメを見た。オリオンがトラックに乗せられて、どこかに連れていかれたことを訴えた。
「オリオンに何かあったのか?」アントニスが聞いた。カモメはうなずいた。
「どこかに連れていかれたのか」アントニスはさらに聞いた。カモメはうなずいた。
「どこかわからないのだな?」カモメがうなずく。
「どうしよう?」アントニスは、ブラウンを見た。「多分、仲間が追いかけているだろうから、ぼくらは待つしかない」
「こんなに近くにいるのに、何もできないのか!」アントニスは頭を抱えた。
「シーラじいさんに連絡したのか?」ブラウンが聞いた。カモメは頭を振った。
「それなら、シーラじいさんに連絡を頼む」と言った。
カモメは、シーラじいさんがリゲルたちに出会うために、ここを離れたことを知らないはずだと思ったが、すぐにアントニスの部屋を出た。
アントニスは、カモメを見送りながら、「また、どこかに連れていかれたのだろうか?」と聞いた。
「いや、それはない。何かの作戦に使われているのだと思う」
「たとえば?」
「オリオンの仲間をおびきよせるとか」
「タクシーでイギリス海峡まで行こうか?」
「いや、行っても無駄だ。殺されたりしないはずだよ。オリオンは、ニンゲンにとって貴重な動物のはずだから。とにかく、シーラじいさんからの手紙をまとう」

トラックが止まった。すぐに水槽が持ちあげられた。そして、船に乗せられた。海の匂いがする。海に来たのだ。オリオンは、鼓動が激しく打つのを感じた。
冷静に様子を見ようと考えていたが、近くにシーラじいさんたちがいると思うと興奮するのがわかった。
船は動きはじめた。どこに行くのだろう。多分、海の状況を見ているんだろう。オリオンは少し冷静になった。
やがて、船は止まった。すぐに水槽が持ちあげられ、海の上に出た。すると、水槽の底が開けられた。
オリオンは落ちた。どうしたんだろう。あわてて泳ぐと、すぐに何かにぶつかった。回ってみたが、どこにも行けない。檻に入れられたことがわかった。天井の蓋はすぐに閉められた。

 -