シーラじいさん見聞録

   

「ありがとう。ジムも喜ぶわ。早速イギリスに帰って知らせることにします」ミセス・ジャイロは笑顔で答えた。
その時、窓の外にカモメがいるのをイリアスが見つけ、「あっ、カモメだ」と叫んだ。
「仲間ですよ」アントニスは、ミセス・ジャイロに言って、窓を開けた。やはり口に何かくわえている。
「ありがとう。ぼくがここにいることがよくわかったね」アントニスはカモメをねぎらった。カモメもうれしそうに鳴いた。
「カモメがシーラじいさんの手紙を運んできたのね!」
「そうです。いつもなら窓をコツコツ叩くのですが、あなたがいたので、ちょっとためらったのでしょう。これからは、あなたも仲間だということを言っときます」
「すごいわ。これもジムに伝えなくちゃ。でも、まだいるわ」
「ぼくが返事を書くのを待ってくれています。それじゃ、手紙を読みます」アントニスがビニール袋て手紙を読んだ。
ミセス・ジャイロは興味深そうに覗きこんだ。
ビニール袋の中には、「Rs came」という大きさのちがう単語が並んでいた。
「よかった。リゲルたちが帰ってきたぞ!」
「けがなどしていないだろうな」アレクシオスが言った。みんな家族や友人を心配しているような話しぶりだった。
アントニスは、ミセス・ジャイロに、リゲル、ミラ、ペルセウスについて説明した。
「海の生きものについてはよく知らないのですが、別の種類が行動を共にすることはないと聞いていますし、ましてやイルカ、シャチ、クジラが仲間になるなんて!」
「そうですね。どれも考えられないことです。わたしも、最初オリオンが英語を話なんて信じられなかったのです」出版会社の社長が言った。
「でも、アントニスやアレクシオスの話を聞いていると、だんだん信じざるをえなくなりましたよ」編集長も言った。
「そうだな。実際、カモメが手紙を運んでくるのだから」社長が応じた。
「どうしよう?アレクシオス、シーラじいさんに会いに行こうか。リゲルたちも見たいから」アントニスが聞いた。
「もちろんだ。明日の朝、会いにいくと書いてくれないか」
「わたしも行ってもかまいませんか」ミセス・ジャイロが声を挟んだ。
「でも、今晩イギリスに帰らなければならないのでしょう?」
「そうですが、わたしも仲間になったのですが、ほんとにそうかシーラじいさんに聞いてみたいのです」
「ぼくらは信用されていないのか」アレクシオスが笑った。
「そうじゃないですが、とにかく会わせていただけませんか?」
「わかりました。返事が来るまで4,5時間かかりますがいいですか?」
「かまいません」
アントニスは手紙を書いた。外で待っていたカモメが、それを受けとるとすぐに飛びたった。
窓に近づいてカモメを見送ったミセス・ジャイロは、「仲間は、海にも、空にも、陸にもいるんですね。オリオンを励ましたですね」と感極まったように言った。
「早速オリオンに手紙を書きましょう。今度、カモメが来たときに渡します」
深夜、カモメが新聞社の窓を叩いた。アントニスとイリアス、そして、アレクシオスが、カモメが迷わないように昼と同じ部屋で、電気をつけて待っていた。
手紙には、OKと書いてあった。しかも、「前の場所で」とあった。海洋研究所の海なら監視されているので、アントニスの家の近くの海にしたのだろう。
すぐにホテルにいるミセス・ジャイロに連絡すると、すぐにやってきた。
そして、4人で新聞社の車で出発した。午前6時に海岸について、隠していたボート出して沖に向かった。
「30分すればシーラじいさんたちと会えますよ」アレクシオスは、ミセス・ジャイロに声をかけた。
しばらく進むと、ボートの前に何かいるのがわかった。
「ペルセウス!」イリアスが叫んだ。その声で、それは近づいてきた。「ペルセウス、無事でよかったな」イリアスが叫んだ。ペルセウスは、飛びあがって喜んだ。
「あれがペルセウスというマグロです。みんな大きいので、浅いところはいけませんから、ペルセウスが先遣隊の隊長です。とても賢く、勇気があります」
ペルセウスの先導で進むと、大きな影が見えてきた。「みんな仲間です。名前がついていないのもいますが、いずれシーラじいさんがつけるでしょう」
「リゲルがいる。向こうにはミラがいる」イリアスは興奮した。
そのとき、「ごくろうじゃったな」という声が聞こえた。野太い声だ。
「シーラじいさん、みんな帰ってきてよかったですね」アレクシオスが叫んだ。
ミセス・ジャイロは、どこから声が聞こえてくるのか探した。
「そうじゃな」海面を見ると、大きなものがいる。そして、青い目でこちらを見ている。
「オリオンからは、ミス・ジャイロと聞いていたが、ジムと結婚されたのじゃな」
「はい、そうです」ミセス・ジャイロは緊張して答えた。そして、「リゲルたちはよく帰ってきましたね」と言った。
「話を聞いていると、地中海の端には、強烈な電波が出ていて、ミラは、それで方向感覚が狂ったらしい」
「とても狭い場所がありますからね」アントニスが言った。
「そうらしいな。リゲルも、ミラを追いかけて同じようなことになり、ペルセウスが、2人を引きもどそうとしたけど、何分あの大きさじゃからな。二人を見失わないようにするのが精一杯じゃったようじゃ」
「よく帰ってきました。浅瀬に乗りあげて死ぬのがいるらしいから」
「カモメのおかげじゃ。自分たちの仕事の間にリゲルたちを探してくれたのじゃ。そして、ここにいるみんなが、なんとか連れもどしたというわけじゃ」
「リゲルたちが帰ってくれば心強いですね」ミセス・ジャイロが言った。
「おまえさんたちが助けてくれたら、何とかなるかな」
「イリアスが書いた物語のように、チャンスを利用すればうまくいくと思います」

 -