シーラじいさん見聞録
「ミラを探しに行こう」ペルセウスが言った。
「しかし、オリオンがいつ来るかもしれないぞ」リゲルは答えた。
「それはわかっているが、ミラが帰ってくるのが遅ければ遅いほど、オリオンを助ける率も下がってしまう。敵は頑丈な船に乗っている」
「なるほど。シーラじいさんの許可をもらおうか」
話を聞いたシーラじいさんは、「ミラが言っていたように、ニンゲン同士の間で何かあったかもしれないな。ミラは、それの行方を見ているのか」
「巻きこまれていなければいいのですが」リゲルが答えた。
「ここには、大勢いるから、誰か連れていってもいいぞ」と言った。
「いや、2人で大丈夫です。もし、オリオンが来るようなことがあれば、すぐにカモメを飛ばしてくれませんか」
「そうしよう」
2人は、地中海を西に向かった。とにかく、ヘリコプターが向かう方向をめざした。
やがて、クチクカンが増えてきた。「やはり何かあったな。まさか攻撃されたようなことはあるまいな」ペルセウスが言った。
「そんなことはないだろう」とリゲルは言ったが、胸騒ぎを抑えられなかった。
ニンゲン同士が戦っている間に、クラーケンが、その隙を狙って、暴れる可能性はある。
そのときに巻き添えを食らったということはないだろうか。
「何か起きておれば、研究所では、オリオンを出さないだろう。ある意味では、今がミラを探すチャンスだ」ペルセウスは、リゲルが不安そうな顔をしているいのに気づいたからか、明るい声で言った。
「そうだな」リゲルは答えた。
「それに、シーラじいさんは様子を見て、1,2羽のカモメをこちらのほうに出してくれると言っていたじゃないか。そうなれば、すぐに見つかるよ」ペルセウスは、あくまでも明るく言った。
シリウスは、シーラじいさんの許可を得て、インド洋から来たシャチや、地中海にいたイルカ、オリオンが逃がしたイルカを集めて、訓練をすることにした。
「ぼくらは、ミラのような大きな体ではない。しかし、敵と戦うときは、それは何の言い訳にもならない。やるか、やられるかしかないのだ。
ぼくらの前には、クラーケンとセンスイカンがいる。どちらも、ミラのような大きさだ。
それらに立ちむかうためには、力勝負では勝てない。
しかし、オリオンは、それらを打ちまかしてきた。相手の弱点を見て、そこをついたのだ」
シリウスは、クラーケンやその手下などに追われたときはやみくもに逃げるのではなく、なるべく深く潜り、向きを目まぐるしく変える戦法や、囲まれときは、岩などを背後にして、相手をできるだけひきつけて、向かってくる寸前に体(たい)をかわす戦術を覚えさせた。
また、センスイカンは、海の生き物と戦うようには作られていないので、背後に回れば、何も怖がることはないと説明した。
ベラも、それに加わる一方、シーラじいさんの傍を離れず、英語を学びつづけた。
もし、オリオンが当分戻ってこないのなら、海底にいるニンゲンを助けるためには、自分がやらなければと決めていた。
カモメが、アントニスの元に、アレクシオスからの手紙を運んできた。
「これは、出版社に届いた手紙です。これを読んでどう思うか至急連絡をしてほしい」と書いてあった。手紙は英語で書かれていた。
「私はジムと申します。イギリス人です。
早速ですが、『オリオンとイリアス』を読んで感動しました。
特に、水族館からオリオンを救いだすために、イリアスがやったことには感心しました。
この話は、半分はフィクションで、半分はノンフィクションということですが、私も、同じような経験があるので、黙っておれなくなり、手紙を差しあげた次第です。
4年前、インド洋で船が沈没してしまい、小さな板切れに掴まって漂流しているとき、あるイルカに助けられたことがあるのです。
イルカは、大きな木を集めてきて、ボートを作ってくれました。それから、そのボートを押して、航行している船の近くまで運んでくれたのです。
私は、イルカが助けてもらったのです。そのイルカはオリオンという名前でした。
なぜそれを知っているのかといえば、そのイルカが自分で名乗ったからです。英語をしゃべりました。よくわかりました。
当時、ある事情があって、そのことは言わなかったのですが、言っても信用してもらえなかったでしょう。
その後、飛行機事故で、海に投げだされた乗客の何人も、英語をしゃべるイルカに助けられたと証言したことが話題になりましたが、学者は、パニックでの幻聴だと断定したようです。
私を助けてくれたイルカも、背びれがなく、オリオンという名前でした。
私は、いつかオリオンに会って、お礼をしたいと思っています。
私のオリオンと本の中のオリオンが同じかどうかはわかりませんが、何らかのために、お金がいるのなら出す用意があります。
もし私の話が信用できないのなら、シーラじいさんというシーラカンスを知っていることも言っておきます。
シーラじいさんには直接会ったことはありませんが、オリオンは、シーラじいさんに助けてもらったことがあり、これからも、ずっとシーラじいさんと行動を共にすると言っていました。
もし、私に興味があっても、このような手紙が来たことは絶対に書かないでください。
また、私に連絡を取りたいときは、ロンドンの***郵便局のPO BOX(私書箱)2023号まで連絡してください。