シーラじいさん見聞録

   

「ひょっとしてクラーケンは宇宙人じゃないのか」アントニスが叫んだ。
「アントニスらしいな」アレクシオスが言った。
「知能が高い宇宙人なら、ニンゲンの言葉がわかるはずだから、作戦は秘密にしておかなければならないだろう?」
「それじゃ、宇宙人が来ていることを政府は知っていたのか」
「そうだよ。ぼくらには隠されているけど」
「確かにクジラほど大きい魚がいるとは思えない。だが、温暖化の影響で生まれたかもしれないが。
恐竜なども、ジュラ紀、白亜紀の時代に、植物が大きくなったので、それに応じて、大きくなったと言われている」
アントニスは、勢いのまま、ニンゲンが海底に閉じこめられていることを言おうとしたが、「それで、オリオンを調べているのか」とアレクシオスが言ったので、そのことは言わなかった。
しかし、オリオンが同じ建物にいたイルカを脱出させたことは言った。
「何という頭のいいイルカだ。そして、相手も気持ちがよくわかる」アレクシオスは唸るように言った。
「オリオンを早く助けなければならない。オリオンはやることがあるんだ」
「シーラじいさんに話そう」
アントニスは、カモメに、「明日行く」という手紙を渡した。
早朝、イリアスを含めた3人は、いつもの沖合に向かった。シーラじいさんたちは、すでに来ていた。
アレクシオスは昨日の取材の内容を話した。シーラじいさんは、話を聞くと、「確かに何かありそうじゃな。新聞にも、クラーケンたちの攻撃にどう対処するか具体的なことはあまり書かれていない。それと、ミラが見たことと関係があるのもしれない」
3人は、次の話を待った。「ミラが、イタリアやフランスのほうに様子を見にいったとき、妙な光景を見た。センスイカンとセンスイカンが向きあい、互いに進路を妨害していたそうじゃ」
「ニンゲン同士が争っているということですか?」アレクシオスが聞いた。
「そうなるな。今は、ニンゲンを襲うクラーケンに、人間同士が協力して向かわなければならないときなので、そんなことがあるのかと思ったが、ミラは、いつ戦いがはじまってもおかしくない状況だったというのじゃ」
「シーラじいさんは、どう思われますか?」アレクシオスが聞いた。
「あなたの話とミラが見た光景を合わせれば、クラーケンについてお互いが疑心暗鬼になっているかもしれない」
「疑心暗鬼?」アントニスが言った。
「わかったぞ。クラーケンの背後には、どこかの国がいるかもしれないとお互いが考えているのだ!」アレクシオスが叫んだ。
「そういうことじゃ」
「それじゃ、クラーケンは、どこかの国が操っているということですか?」
「それで、イルカやシャチの体内に何か入っているのではないかと調べているのだ」
「どこかの国がクラーケンを作ったのでしょうか?ぼくらは、宇宙人じゃないかと疑っているのですが」
「それはおもしろい。海にいるなら、ニンゲンにはどうしようもないからな」シーラじいさんは感心したように言った。
「でも、クラーケンは深海にいたのでしょう」
「しかし、わしらも見たことがないものじゃ。どこからか来たことはまちがいない」
「いずれにしても、オリオンは利用されてようとしているのだ」
「そうじゃな。オリオンが海に連れだされて、さらに調べられることも考えられる。
そのときにオリオンを助けたい。それで、あなたたちには申しわけないが、研究所の近くにいようと思うが、かまわないか?」
「もちろんです。連絡は、カモメがいるのですぐにつきます」
3人は岸に戻った。ボートの中で、イリアスが、「宇宙人はどこから来たの?」と不安そうに聞いた。
「宇宙人は、どこか遠い星から来る。でも、クラーケンは、宇宙人じゃないようだよ。
ぼくが、少し興奮して言ったけど」
「しかし、どこかの国が作っているかもしれないぜ。そして、元々いる生き物を集める能力を植えつけられていることも考えられる。それに、鳥インフルエンザは、わざとばらまいているとしか思えないから、生物兵器だと言われている」
「それは、きみが調べでくれないか。ぼくは、オリオンを助けるためにどうするか考えるよ」
「そうだ。忘れていた!『オリオンとイリアス』はものすごいことになっているぜ。ギリシャだけでなく、ヨーロッパ、アメリカ、アジアでも、人気の火がついたようだ。莫大な金が入るかもしれないよ」
「ぼくも、テスピナから聞いた。お金が入ったら、オリオンを買うとイリアスは言っているんだ」
「イリアス、すごいじゃないか」
「オリオンを助けたいんだ。もし、お金が足らなかったら、次の話を書く」
「頼むぞ」
あちこちから、叩きつけるような音がする。
「最近、ヘリコプターが増えているように思わないか?」リゲルがペルセウスに聞いた。
「そうだな。しかも、急いでいるように見える」
「向こうにはミラがいるはずだから、様子を聞いてみよう」
しかし、その晩も、次の晩も見等は帰ってこなかった。
ミラに、集合場所を海洋研究所の沖合にすると伝えなければならないのに、どうしたんだろう?

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