シーラじいさん見聞録

   

「えっ、そんなところでニンゲンは生きていけるの!」カモメのリーダーは驚いた。
「ぼくらも、最初信じられませんでした」と答えた。
そして、どうして生きていけるのか、また、どんな様子か、そして、なぜそこにいるのかを説明した。
リーダーは、じっと聞いていたが、納得したようにうなずくと、「なるほどね。クラーケンとニンゲンは、あなたたちが知らないところで接触があったわけね」謎が一つ解けたように言った。
「そうなんです」オリオンも大きな声で答えた。
「ニンゲンも、事がここまで大きくなるとは思わなかったでしょうね」
「ぼくもそう思います。そこのニンゲンたちも、自分たちの行動が、こんなことになった原因であることを認めて、本国にいるニンゲンに渡してくれと、手紙を預かっているのです。
しかし、ミラでも襲われるという状況ですので、シーラじいさんにどうすべきか教えてもらっているところです」
「シーラじいさん!そうだわ。あなたたちにはシーラじいさんがいるわ。シーラじいさんはどこなの?」
「わしは、ここにいますぞ」シーラじいさんは、オリオンのすぐ後ろにいた。顔をぐっと上げて、リーダーに見えるようにした。
リーダーは、バタバタとシーラじいさんの前まで飛んでいき、甲高い声で挨拶をした。
「シーラじいさん、お久しぶりです。シーラじいさんを忘れていたわけじゃないのですよ。その逆です。
オリオンたちがいなくなって、とても心配していましたが、シーラじいさんがいるから大丈夫と自分に言いきかせていました。あつ、すっかり忘れていた!」カモメは、そう言うか早いか、後ろを振りかえった。
「誰か、あれをもってきてちょうだい」すると、すぐ後ろにいたカモメが数羽出てきた。最初にオリオンを見つけたカモメたちのようだ。全員で、嘴(くちばし)に何かくわえている。
リーダーは、「誰か背中を貸してちょうだい!」と叫んだ。シリウスが前に出た。
「あなた、シリウスだったわね。元気だった?この人の背中の上に広げてちょうだい」
リーダーは、シリウスの返事を待つことなく、部下に指示を出した。カモメたちは、てきぱきと嘴で広げた。新聞のようだ。
大きな写真が何枚か載っている。リーダーは、シリウスの背中に飛びのって、話しはじめた。
「これなんです。シーラじいさんはニンゲンが書いたものを読むことができるので、海に何か落ちていたら集めるようにとみんなに言っていたのです。
たくさん集まったのですが、わたしたちには、ちんぷんかんぷんですので、写真を見て、今起きていることに関係がありそうなのを持ってきました」
そこには、クジラなどの死体らしきものが浮かんでいる写真があった。また、ひっくり返された船の近くにかなりのニンゲンが浮いており、助けを求めているのか手を上げている写真もあった。また、空を覆いつくすほどの鳥の写真もあった。
オリオンは、英語を話すことができたが、字を読むことができないので、写真をじっと見るしかなかった。シリウス以外のものも、黙って覗きこんでいた。
「あちこちでこのとおりのことを見てきましたわ。
ニンゲンに攻撃されたものは、あたりを血で染めながら、大きな声を上げながら死んでいきました。
逃げた仲間も、その声を聞いて戻ってきても、船がいるので、近くまで行けないのです。そして、しばらくは浮いたままなのですが、やがて沈んでいきます。
オリオンから、なぜ彼らはこんなことをするのか少しは聞いていますが、空から、死んでいく様子を見ると、かわいそうで仕方ありません。
ただ、最近は少なくなってきたような気がするんですが、こんなことが毎日どこか起きているのです。
わたしたちの仲間が写っている写真もあるのですが、海の上じゃないような気がするんですが、これは何なのかも教えていただこうと思っていましたの」
リーダーは、感情の抑揚をつけながら改札した。
その間にも、シーラじいさんは新聞を読み、さらに、新聞をくわえてきたカモメに、次のページをめくるように言った。
「そうじゃな。今おっしゃった内容のことが書いてある。このままでは、ミラやリゲルの仲間がどんどん少なくなっていくのを心配したニンゲンは、船の航路をできるだけ陸のほうに変えたとある。そうすれば、無用の争いを避けることができるからじゃ。
それでも、襲ってくるものには、麻酔銃を使うようにする取り決めができたようじゃ」
「麻酔銃とは何ですか?」ペルセウスが聞いた。
「銃弾が体内に入ると、死にはせぬが、意識をなくす。その間に、船がその場を離れていく。ミラが撃たれたのも、それかもしれん。ただ、ミラの場合はかすっただけのようじゃが。
それと、鳥の写真じゃが、鳥は決まった場所にいくのだが、世界各地で、今まで来なかった鳥が飛来するようになった。しかも、大量にな。
このことが、今世界中に蔓延している鳥インフルエンザと関係があるのか、あるいは偶然のことかはわからないので、現在、世界中の医学者や動物学者、鳥類学者、海洋学者などが連携して調査しているとのことじゃ。
鳥インフルエンザとは、本来鳥から鳥に感染する病気じゃが、それが豚や牛など、ニンゲンが食料としている家畜に感染するようになり、さらには、ニンゲンにも感染するようになって、最後にはニンゲンからニンゲンに感染するようになる。
そうなると、莫大な数のニンゲンが死亡する。ニンゲンは、それをもっとも恐れている」
「海底のニンゲンは、どうしようと考えているのかしら?」リーダーは、想像もつかないようなことが起きようとしているのがわかったようだ。
「クラーケンにも、ニンゲンの言葉がわかるものがいます。今後、一切クラーケンがいる場所には立ちいらないと、ニンゲンが約束すれば、事態は収まるのではないかと考えています」
そのとき、「話してもいいかな」と言いながら、大きなカモメが出てきた。

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