シーラじいさん見聞録

   

みんなは顔を見合わせた。
「そんなことになれば、ニンゲンとの戦いはさらに激しくなりますね!」リガルが言った。「そのとおりじゃ」
「どうすればいいですか?」
「まず海底にいるニンゲンに今の状況を説明して、どのニンゲンにでも助けを求める了解を取っておくことじゃろ。
自分たちの命の危険が差しせまっているので、そんなに反対しないじゃろが、数年前までアメリアと世界の覇権を争っていたので、その意識が残っているかもわからん。
そして、アメリアの海軍が助けにきたとしても、正直に説明するかどうかもわからんな」
「もし、ニンゲンがそれを拒んだとしたらどうしたらいいですか?」
「自分たちはソフィア共和国があった場所まで到底行けないということを正直に言うしかない」
リゲルたちは海底に急いだ。虹色に輝く場所に着くと、ミラはわざと大きく泳いだので、ニンゲンたちはすぐに集まってきた。
オリオンは、シーラじいさんから聞いたことを話した。
「ソフィアは世界一の大国だ。そんなことがあるものか」若いニンゲンが叫んだ。
しかし、他のニンゲンは何も言わなかった。怪物の知能の高さを知っているので、オリオンもただ人間の言葉がわかるだけで、でたらめなことを言っているのだと一笑に伏すことができないようだった。
ようやく金髪の男が言った。「ミラと言ったね。きみなら、ソフィアまで難なくいけるはずだ。どうしても助けてほしい」
ミラはオリオンを見た。オリオンは、ミラにニンゲンが何を言ったのかを説明せずに、金髪の男に話しはじめた。
「ぼくの話を聞いてください。もし、今もあなたたちの国があるなら、空気があり、水圧に苦しめられることがない、まるで地上のような場所にある鉱物を取りにこないはずがないじゃありませんか。実際、あなたたちは、採掘するための準備にこられたのでしょう?
怪物を警戒しているというのなら、偵察には来ているはずだ。しかし、近くまで来た形跡がないのですよ」
ニンゲンは黙っていた。金髪の男はぽつりと言った。「オリオン、きみが言うとおりだな」
しかし、オリオンは続けた。「ソフィア共和国から分裂した国が、どこかの大国に頼んでここに来たとしたら、怪物はさらにいきりたって、あなたたちを攻撃するかもしれません。
自分たちの城をみすみす明け渡すことはしないでしょう。そうなれば、あなたたちの生命も危険にさらされます」
ニンゲンは、オリオンたちから離れて、長い間話しあった。一番やせほそっている老人の話を聞いていた。金髪の男をはじめ、みんなうなずいていた。
ようやくオリオンたちがいるほうに来た。そして、金髪の男が口を開いた。
「きみらに任すから、助けてほしい。おれたちも、こんな宝の山があるのに、どうして来ないのか、これだけの鉱物があれば世界一の大国になれるのにと不思議に思っていたことは事実なんだ。
何か起きたのではないかという不安もあったが、まさかとしか思えなかった。
きみらの話で疑問が解けた。そして、世界はもっと深刻なことになっていることもわかった。その責任はおれたちにある。
助けられたら、世界に向かって、ほんとのことを話す。最初は信じられないかもしれないが、ここの写真や怪物との戦いのビデオはどこかに残っているはずだ。
今から手紙を書くから、誰でもいいから人間に渡してくれないか」
そして、奥に行き、手紙を書きはじめた。
オリオンは、それを口にくわえた。
「ぼくらも全力を尽くします。しばらく時間がかかるかもしれませんが、手紙を渡すと、すぐに帰ってきます。それまでがんばってください」
ニンゲンは、みんな泣き顔になり、オリオンたちにうなずいた。
ここに閉じ込められたときから、先ほどの仲間の葬式まで、悲しみや絶望の涙を流したにちがいないが、この涙は希望の涙だろう。オリオンたちは、それを見て、深くうなずいた。そして、一気に泳ぎはじめた。
まず横たわったセンスイカンの近くで止まった。しばらくすると、暗闇の中で何か動く気配があった。
「もう用事はすんだのか」一つ目の怪物の声だ。
オリオンは、「ニンゲンが奥で生きていました」と叫んだ。
「なんと!今も生きているのか」その声はだんだん近づいてきた。
「そうです。奥にはニンゲンが生きていける場所があったのです」
「てっきり食べられたものだと思っていたがな。そこで、何をしている?」一つ目は光らなくなっているが、影の動きがわかるほどになった。
「怪物が、いや、奥にいるものが、ニンゲンについて聞いているようです」
「怪物でかまわぬ。しかし、知ったからといって、何の役に立つのか。それで、おまえたちはどうするのだ?」
「ニンゲンから渡されたものを、地上にいるニンゲンに渡します」
「そんなことをすれば、奥にいるニンゲンを助けるためにやってきたら、またうるさいことが起きないか?」
「多分、手紙には、自分たちを早く助けてほしいが、その後は、絶対ここには近づかないようにということが書いてあるはずです。ニンゲンと怪物の戦いが続けば、どちらも苦しむだけですから」
「そんなことができるのか?」
「奥にいるニンゲンが約束してくれましたし、そうしなければ、まずニンゲンが絶滅するかもしれません」
「わしにできることはあるか?」
「手紙を渡したら、すぐに帰ってくる予定ですが、ぼくらが来る前に、ニンゲンが乗ったセンスイカンがやってきても、攻撃しないようにしてくれますか」

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