シーラじいさん見聞録
パパと言われている人に話そうと思ったが、みんな同じように揺れていてわからなかった。ペルセウスは、体は真っ白で、上が赤いと言っていたが、それもよくわからない。少し小さいものがいるが、それが子供なのか。
「そう近づかなくてもけっこう。無理をすると、頭がくらくらするぞ。
わしらは、歩くことも、見ることもできぬが、よく聞こえる。
もっとも、こんな海の底で聞くのは、ここに入ろうとするおっちょこちょいの苦しむ声ぐらいのものだけどな。うっふっふっふっ」
オリオンは、早くペルセウスを助けたいという気持ちが高まっていたが、パパの話で少し落ちついた。そして、話しはじめた。
「自分たちは、ここからはるか遠い場所で暮らしていましたが、突然今まで見たこともないような大きなものがあらわれて、みんなを追いだそうとしました。
なぜそんなことをするのかわからなかったのですが、どうやらニンゲンという生き物と関係があるらしいとわかったのです。
ニンゲンという生き物は、海には住んでいないのですが、自分たちで作ったもので海の上を移動することもできるし、このあたりでも来ることができます。
しかし、なぜ、海にいる大きなものが、ニンゲンに腹を立てているのか、あるいは、ニンゲンが、そのことを知っているのかどうかわかりません。
どんな理由にしろ、大勢のものが、今まで平和に暮らしていたのに、追いだされたり、殺されたりして、みんな苦しんでいます。
怒る理由を知れば、元の海の戻せるかもわからないと思い、みんなで、大きなものを探しているのです」
オリオンは、シーラじいさんや仲間について紹介したあと、この穴に大きなものがいるかもしれないと聞いたので、それを調べている最中に、仲間の1人がいなくなって困っていると話を締めくくった。
「わしらには関係ないことと思いたいが、そうでもないのかな」パパは独り言のように言った。
「もしこの穴の奥にいれば、どうして海を自由に動けるのかもわかりませんし、なぜニンゲンを知っているのかもわかりません」オリオンは、もう一度繰りかえした。
そのとき、また子供の声が聞こえた。
「パパ、ぼくらにできることをしようよ。こんなところに、知らないものが来るようになったら、今までのようにのんびり暮らせないもの」
「そうだな。何かあっても、どこかに行くことができない。
大体、ここほど極楽はない。自分で食べ物を探すことも必要ないのでな。
わしらの体には、穴から吹きでてくるものを食べるものがいて、わしらは、それから栄養を取っているという按配でな。横着者にはもってこいの人生だ。もっとも、他を知らんがワッハッハッ。さて、わしらに何ができるのかな?」パパは、息子とオリオンに話しかけた。「大きなものが、ここを出入りしていますか?」オリオンは単刀直入に聞いた。
「うむ、なんとも言えないな。ものすごく早く通りすぎるものがいるような気がするが、何分わしらは見えないのでな。もちろん、この穴に紛れこんでくるやつはすぐわかるが」
さらに聞いた。
「食料が止まったときに、そんな気がしますか?」
「おまえもせっかちだな。そんなことはわからんよ」一番大きく揺れているのがパパか。すると、子供が、「パパ、そうだよ。いつも食料が途切れたときだよ。体をまっすぐ立てられないほどの波を感じる」
「そうだったか」
そして、オリオンに、「穴の中がどうなっているか知りたいのだね?」と聞いた。
「そうです」オリオンは、思わず答えた。
「それじゃ、ぼくらが調べてやるよ」
「おいおい、そんなことができるのか?」パパが心配そうに口を挟んだ。
息子はそれには答えず、「ぼくらの足元にいるものに助けてもらうよ」
オリオンは、下を見たが、よくわからなかった。
「こいつらだって動けるのだ。もちろんきみらほどではないが。
きみらには毒でも、ぼくらには大切な食料が穴から出てこなくなることがあるんだ。
このままじゃ、死んでしまうので、みんなは、あるものに向かう。
きみらが墓場と呼んでいる場所があるだろう?あれが緊急のときの食料だ。もっとも、あそこにずっといるものもいるようだがね。
それでも、どっさり食料があるから、いじめられることはないようだ。これも、きみらのお陰だ。そこで、仲間に聞けば、きみらが知りたいことがわかると思う」
「食料が止まれば、きみらはどうなるの?」オリオンは聞いた。
「ぼくらは死んでしまう。それが運命なんだ。でも、今のところは大丈夫だ。
パパも、パパのパパも、そのパパも、みんなここで生まれてここで死んだ。世の中には、くよくよ考えても仕方がないことがあるものだよ。
そんなことより、急いでいるんだろ?すぐに調べるから、きみも、穴に入る準備をして戻ってきたまえ」
「ありがとう」オリオンは、そう言うと、急いでシリウスとベラがいう場所に戻った。
「聞けたかい?」
「聞けた。今、穴の中がどうなっているか調べてくれている」
「そんなことができるの?」シリウスが大きな声を出した。
「詳しいことは後で話す。時間がないんだ。
きみらも、ここで待機する準備をしておいてくれ。ぼくは、すぐに戻ってくるから」
オリオンは二人をおいて、上に向かった。途中、リゲルやミラがいないか目を配ったが、どこにもいなかった。
仕方がない。シリウスとベラに言付けておこう。オリオンは、自分にそう言って、勢いをつけて海に潜った。