シーラじいさん見聞録
ペルセウスたちは、今さらながら硫化水素の恐ろしさに気づいたように顔を見合わせた。
「きみたちは、近くまでいったのに、よく無事に帰ってきたよ」オリオンが慰めるように言った。
「熱いから様子を見ていたのがよかったのだ」ペルセウスが答えた。
「その間に慣れたのかもしれない」シリウスも言った。
「そんなことはない。シーラじいさんは、硫化水素に慣れることはないと言っていたよ」オリオンが注意した。
「なぜかにおいがなくなったので、近づいたのよ。恐る恐るだったわ。でも、硫化水素のことを知っていたら、近づかなかったわ」ベガも自分の思いを言った。
「理由がわからないが硫化水素が止まったことは確かなんだ。それについて、オリオンはどう思う?」ペルセウスが聞いた。
「よくわからない。しかし、シーラじいさんは、地球の奥にあるもの、それをマントルとかマグマとか言うらしいが、それが水と反応して硫化水素になるということだ。
それは直接海に出てくるのではなく、まずどこかに溜まったものが溢れでてくるようだよ。
溢れたら、そこに溜まるまでしばらく時間がかかるかもしれないが」オリオンは一生懸命シーラじいさんの話を思いだした。
「ベラが、大きなものがいたと言っているた穴は、10分ぐらいで、また硫化水素が吹きだしていた。
吹きだしたり止まったりするのに何か決まった時間があるのか、また、他の穴はどうなのかも知りたいんだけどな」シリウスが自分の思いを出した。
「確かにそうだな」リゲルが同意した。
「それじゃ、おれは海面に上がらなくてもいいから、あの穴にずっといて硫化水素のことを調べる。
きみらは別のことを調べてくれないか」ペルセウスは、すでに計画を立てていたようだ。
「わたしも手伝うわ」ベラも言った。穴からかなり離れているので、においはわかりにくい上に、暗闇では硫化水素が吹きだしているかどうかを見にくいのだ。それを助けようというのだろう。
「わかった。ペルセウス、ベラ、君たちに任すよ。しかし、おいがきつくなったらすぐ逃げろよ。吸ってしまったら手遅れだ」そう念を押して、リゲル、オリオン、シリウス、ミラは、その場を離れた。
穴は、ミラがほとんど調べておいてくれた。ミラは、同じような穴が8ヶ所あると言っていたが、その確認をした。このあたりを回る時にもし気づかずに近づくと命取りになるからだ。
ミラは上から、リゲルとオリオン、シリウスは、岩場を手分けして探した。
暗闇なので、見ることはできないが、においが強くなっている場所があれば注意して探した。
そのようにして、後2ヶ所を見つけた。合計10ヶ所の穴があるようだ。
それから、噴きだしている硫化水素がどう流れるのかを調べた。
これは危険な仕事だ。あまり近づきすぎるとたちまち命を落とすからだ。
どうやら、どの穴の硫化水素も、ある高さまで噴きあがると同じ方向に向うことがわかった。しかも、墓場の方向だ。
すべての穴から噴きだしている硫化水素がそうであるなら、穴の上には、とてつもなく広い川が流れていることになる。
川の流れをもっと確かめようにも、そこには硫化水素が含まれているので、そう長く留まることができない。
4人は、何十回と海面と行き来しながら、調べたが、すでに限界に近づいていた。
4人はしばらく休むことにした。ペルセウスは大丈夫だろうが、ベラもどうしているのかと心配しながらも、自分たちの体の回復を待った。
ペルセウスとベラが帰ってきた。2人は疲れているどころか、4人に向って叫んだ。
「わかったぞ!」4人は、2人の元に集まった。
「1時間ほど噴きだして10分間止まる。その1時間前もそうだった。
ベラが、暗闇の中で黒い硫化水素が止まるのを確認してくれた。すると、においも一気に弱まった。
そういえば、前のときもそうだった気がするから、その繰りかえしにちがいない」ペルセウスは興奮していた。
「それはまちがいないわ。シーラじいさんに教えてもらった『腹時計』を動かしていたから。もちろん、海面に上がったときも止めることなしにね」いつもは冷静なベラも、少し興奮した口調だった。
「それで、おれとベラは、10分の間、穴に近づいた。穴のまわりで、ゆらゆら揺れているやつがいるだろ?
あれは、おれたち以上に大きいが、鰓(えら)や鰭(ひれ)はなく、ただ長いだけなんだ。
そして、体の半分が白くて、半分は真っ赤なんだ。それが、何百本と暗闇で揺れているのは不気味だ。
おれは、すぐそこまで近づいた。すると、何百本といるやつらが、『おい、これ以上近づくと生きて帰れないぞ』と同時に声を出した。
肝っ玉が縮んで、すぐに逃げた。やつらが、おれたちを取りかこんで、硫化水素を吹きかけてこないかと思ってね」
「どうなった?」シリウスが聞いた。
「追ってこなかった。いつも穴のまわりにいるが、敵が来ても、その場からはなれないことがわかった」
「硫化水素を栄養にしているから、そこから離れられないかもしれないわ」ベガが補足した。
そのとき、「とうとう見つけたわ」という声が聞こえてきた。