シーラじいさん見聞録
カモメは飛びたつと南に行った。リゲルたちが向った方向とかなりちがう。お兄さんはこっちに向ったのか。
オリオンは、かなり下を飛んでくれるカモメを見ながら遅れないように泳いだ。カモメはときどきオリオンに疲れていないか、もっとゆっくり行こうかと空から心配してくれた。
「いや、大丈夫です。ついていきます」と答えた。
夜になると、カモメは、オリオンが探してきた木などの浮遊物で休んだ。その間オリオンも疲れを取った。そして、空が明るくなるやいなや、すぐに飛んだ。
3日目になっても仲間は見つからない。カモメも疲れているのがわかった。
家族がいる場所からどんどん離れていっている。やはり方向感覚だけでなく、意識が薄れていっているかもしれない。
そして、4日目の昼頃、カモメはオリオンの真上に来て、「あなた、向こうに仲間がいるような気がする」と叫んだ。
上空に上がったかと思うと、一気に速度を上げた。その姿見えなくなった。オリオンも急いだ。
しばらくすると、2羽のカモメがオリオンの前に降りてきた。
「仲間よ」カモメは仲間を紹介した。
「こんなに遠くまで探していただいてありがとうございます」オリオンは挨拶をした。
「いいえ、この人が、世界を守るためには、みんなで助けあわなくてはなければならないよと言っているから、わたしもこれくらいならと思ってやっているだけですよ」
カモメより少し若そうな仲間は、疲れているはずなのに明るく答えた。
「ずっと追いかけてきたんだけど、さっき見失ったのよね?」カモメは仲間に言った。
「そう、海に消えることもある。なかなか上がってこないときは、ほんと気が気じゃないわ。遠くでも上がってくるのがわかるとほっとするわ。今頃どこかで上がってきていればいいのだけど」
「どうしたらいいのかしら」カモメが聞いた。
「限界に近づいているような気がするの。死んだようにぐったりしているときがある。そのときは、心配になって降りていって、あなた、しっかりしなさいと叫ぶの。でも全く聞こえないようだけど、突然泳ぎだして、ここまで来てしまったの。
心配なのは、何か大きな影が近づくこともあるの。あの人を襲うのではないか思って、すぐ近くで大きな声で鳴くの。すると、びくっとして泳ぎだすわ」
「早く助ける方法はないの」
「わたし、探してくるわ」仲間が言った。
オリオンはじっと考えていたが、2人に言った。
「お願いします。それがお兄さんかどうかまだわかりませんが、もしそうなら、ぼく一人では連れてかえることができないので、リゲルたちを呼んできます」
「そうね。向こうで見つかっていることもあるわね。わたしのように、一つのことに夢中になるのではなくて、他のことも考えることも大事なのね。すばらしいわ」
「どちらにしても、必ずもどってきますので、お願いできますか」
「場所はわかるの?」
「夜になれば星でわかります。星が目印になりますから」
「そうだったわね。わたしたちも見失わないようにしているから、気をつけていってらっしゃい」
オリオンは急いだ。ほとんど休むことなく、カノープスをめざした。
リゲルたちは、家族の家とカノープスをつなぐ線にいるはずだ。しかも、左右に分かれて探しているから、そう遠くまでは行っていない。3日目にその線についた。
そこを左に曲がり、リゲルたちを探すことにした。
無我夢中で探したが、仲間や家族はどこにいない。どうしたんだろう。すでにお兄さんが見つかって家にもどったのだろうか。そうであれば、早くカモメに報告をしなければならないが。
もう少し様子を見てどうするか決めることにした。誰かの信号が聞こえないか注意深く聞いたり、ジャンプを繰りかえしたりした。
何かかなり大きな者が動いている気配を感じた。オリオンは、それに近づいた。
ミラと叫んだ。止まった。オリオンだ。オリオンか、
お兄さんは見つかったか
いや、どこにいない。そういう者を見たことないというものばかりだ。
パパやママは、ここまで探してもいないのだからもうあきらめるという言葉を出しはじめた。
リゲルも、そろそろ引き返して、次の場所を探すことを決めているようだ。
「オリオンのほうは?」
オリオンは今までのことを話した。
「それはお兄さんじゃないか」
「ぼくもそうじゃないかと思うが、まずきみたちに聞かなければどうしようもないと思ったのだ」
「それじゃ、すぐに戻ろう」
オリオンは、ミラとともに、リゲルたちがいる場所に向った。
やがて、全員そろったので、今までのことを話した。
じっと聞いていたパパは、「息子のような気もするが、そうであっても、もう助からないでしょう。そういう者を見てきています。
家族だけで最後を見てやろうと思います。あなたがたは、任務のためにお帰りください」と言った。
「いや、シーラじいさんも探すように言ってくれています。とにかく行きましょう。希望をもちましょう」