シーラじいさん見聞録

   

オリオンは、影となって小さくなっていくリゲルたちを見送りながら、明日絶対あのカモメを見つけると誓った。早く見つけるためには空からも探さなければならない。
もちろん、入れちがいに帰ってくることもあるので、不眠で見守ることにした。
ようやく長い夜が終わりに近づいた気配があった。暗闇が徐々に薄れていって、それが濃紺に変わっていった。
空を見上げると、鳥の黒い影が見えた。みんな起きだしてきたようだな。
そして、あたりが明るくなっていったかと思うと、遥か遠くで何かが真っ赤に光った。
目が眩むようだった。それはみるみる大きくなって、火の玉のような姿をあらわれた。
すでに空と海の半分が赤く染まっている。
鳥の鳴き声も高くなった。今日も生きていることを喜びあっているかのようだ。
しかし、オリオンは緊張するのがわかった。
自分も、お兄さんのように何かあって家族が待っている場所に帰れなかったのだろう。
ぼくの場合は、シーラじいさんとボスがいたから助かった。それはわかっているのだが、家族とは離れてしまった。お兄さんには、なんとして家族の元にもどってほしい。
オリオンは、今からどうすべきか考えた。このあたりは、無数のイルカやシャチ、クジラがいるので、ぼくを見つけるのは容易ではない。だから、誰もいない場所に行って、カモメが飛んでくればジャンプしようと考えた。
あのカモメは、「あなたのことはみんなに言っておくわ。ジャンプすれば、わたしにすぐに連絡がくるようになっているから」と言ってくれていた。
カモメらしき鳥が飛んでいるのを見ると、大きくジャンプをした。しかし、何の反応もない。食料をとろうとして海面に下りてきたとカモメにも近づいたが、すぐに逃げてしまう。
そういうことが続いた。あのカモメはどこに行ったのだろうか。もうかなりの時間が立っている。疲れたこともあり、絶望的な気分になった。
そんなとき、一羽のカモメが下りてきたのが見えた。オリオンは少し様子を見ることにした。
しばらくしてカモメのほうから近づいてきた。そして、オリオンの目の前に来ると、「あなた、もしかして大きな任務をもっているというイルカ?」と聞いてきた。
「そうです。ぼくです。お願いしたいことがあるのでずっと待っていました」
「友だちから聞いているわ。このままではたいへんなことになって、わたしたちの生活にも影響が出るのよと大騒ぎだったの。
みんなちゃんと聞かなかったし、あの人のだんな様も呆れ顔だったの。
でも、わたしは、あの人のことは子供のときから知っているのよ。おっちょこちょいのように見えるけど、真実を見抜く目はすごいから、話の内容はよくわからないけど、わたしは協力するわって約束したの。船でのことや、それをあなたたちに報告したことも聞いているわ。
それで、何気なく下を見ると、どうもあなたの様子がおかしいの。背中が・・・。ごめんなさい。
しかし、あなたたちがいると聞いていた場所とかなり離れているので、どうしようか迷ったんだけど、とにかく下りてみたの」
友だちはまだしゃべりそうだったが、オリオンは、手短にシャチを探してほしい事情を話した。「シャチの家族がこの近くに住んでいるのです」
「じゃあ、このあたりにいてちょうだい。すぐに友だちを探してくるわ。でもここに来るのは明日の朝になるわよ」
「わかりました。お願いします」
カモメは飛びあがり、また来た方向に戻っていった。
オリオンは、すぐに元の場所に戻り、お兄さんを待った。
やがて、また暗くなり、星が輝きはじめた。リゲルたちはカノープスや南十字座を目印にしていることだろう。お兄さんが見つかればいいが。
その時、かなり大きい波の音がした。オリオンはすぐにそちらに向った。しかし、誰もいない。そこを潜ると、下から大きな雲のようなものが上がってくる。無数の小魚だ。食料を求めて上に来るのだ。さらに、それを知って駆けつけた大きな魚が立てる音が続いているのだ。
オリオンはその場を離れて兄さんを待った。まだ星が輝いている間に昨日カモメと会った場所に向った。
そして、夜の闇が濃紺に変わったときに、どこからか「来たわよ!」という声が聞こえた。
2羽のカモメが下りてきた。探していたカモメと昨日の友だちだ。
オリオンがお礼を言う前に、「みんな聞いたわよ。新しい任務なのね」カモメは興奮していた。
「そうです。リゲルたちは今探しています」
「すばらしいわ。それじゃ、わたしたちも急がなくてはね。この人も協力すると言ってくれているのよ」と、友だちのほうを見た。
「よろしくお願いします」オリオンは頭を下げた。
「まかせて。あなたはこのへんにいてちょうだい」2羽は同時に言うと、もう話がついているらしく、別々の方向に飛んでいった。
2日後、「あなた、情報があったの」カモメが急いで戻ってきた。
「いましたか!」オリオンが叫んだ。
「でも、本人がどうかわからないのよ。たくさんの仲間が探してくれているのだけど、ある仲間が一人でふらふら泳いでいるシャチを見つけたの。
すぐ上から、『どうかされましたか?ご家族をお探しですか?」と何度も呼びかけたそうよ。でも、全く返事がなかったそうよ。意識が朦朧としているに見えたんですって。
もっともカモメが話をするなんて信じられなかったかもしれないけどね。
心配なのはここからどんどん離れていっているのよ。普段は敵なしのシャチでも、あの状態が続けば、危険な目に合うかもしれないわ。
そのシャチがあなたたちの探しているシャチかどうかはわからないので、あなたに判断してもらおうと思って急いできたの」
オリオンは一瞬迷ったが、「そこを教えてください」と叫んだ。
「わかったわ。その仲間は近くの仲間に伝言してから、また探しているはずだから、すぐに見つかるわよ。すぐ行きましょ!」

 -