シーラじいさん見聞録

   

全員星座を覚えると、シーラじいさんは、もう一度これは敵(かたき)討ちでないと念を押し、危険だと判断したらすぐに引きかえすようにと言った。
そして、ボスを探したときにリゲルとオリオンが目印にしたみずへび座をめざした。目立たない星だが、大マゼラン雲と小マゼラン雲に挟まれているので目印にはうってつけだった。
ミラやリゲル、オリオンは海面近くを、他の3人はその下を進んだ。日頃その海面を回遊しているシャチやサメからの攻撃を避けるためだ。
それぞれ自分に合った半径の距離を回りながら向うので、大体同じ日数を要して着いた。
あいかわらず青い海と青い空の平和な風景が360度広がっていた。以前のようにイルカやシャチの群れが三々五々動いていた。しかし、船や潜水艦などはいなかった。
リゲルは、シーラじいさんが着いてから、ここから移動すべきかどうか指示を仰ぐことにした。
やがて、一番遠くまでいっていたミラがあわてて帰ってきた。
「星座の方向に潜水艦が集まっています。潜って様子を見ましたが、どうやら大きな山があります。城と比べものにならないほど大きいようです」と報告した。
ミラはすぐに行きたそうだったが、リゲルは、シーラじいさんの到着を待つことにした。
ようやく着いたシーラじいさんは、ミラから報告を聞くと、そこの状況を調べるようにと指示を出した。
全員ミラの後を追っていった。ヘリコプターの音が聞こえてきた。かなり低空を飛んでいる。船も数隻見えた。以前よりかなり大きく頑丈に見えた。
シーラじいさんが言っていたように、調査船やマスコミがチャーターした船ではなく、どこかの国の海軍の船だろうか。
ミラたちは潜った。山がある方向にいくと、確かに暗闇の中に見える影は大きい。あの城のように単独で聳えたつのではなく、頂上がどこまでも続いているようだ。
やはりニンゲンは、海に入らずとも、海底の様子を把握しているのだ。そして、クラーケンたちが潜むのにうってつけの場所のように見えた。
全員で分担して調べることにした。信号を送ると、クラーケンやニンゲンに察知されるかもしれないので、顔を見あわせて任務についた。
オリオンは、山頂の気配を調べることにした。あの城では、その真下にクラーケンやその部下の住居が作られたのを思いだしたからだ。
しかも、今回は、城にいた者も同行しているはずだから、ここでも建設が行われているかもしれないと考えて、何か動いていないか神経を尖らせた。
しばらく進むと、背後に何か光るものを感じた。10メートルを越すようなクラゲが光りながら通ることがあるので、そうかと思い何気なく振りかえると、強烈な光が目に入った。
オリオンは、体を踊らすと一気に潜った。潜水艦にちがいない。それは、オリオンを追いかけるような動作を取ったが、すぐにあきらめ離れていった。
オリオンは、やはりニンゲンは本気だと思った。その後、様子を伺い、また上に向って、任務を続けた。
2,3時間過ぎてから、リゲルたちがいる場所に向った。ミラやシリウス、ベラは帰っていたが、ペルセウスはまだだった。そして、とうとうその日は戻らなかった。
シーラじいさんは一睡もできなかった。みんなの顔にも不安の表情が浮かんだ。
「ペルセウスはどこにいたか知らないか」とリゲルが聞いた。誰もわからなかったが、ベラが口を開いた。
「調査を開始してから、しばらくしてペルセウスと会いましたが」
「何か言っていたか?」
「ペルセウスが上がってきたときだったのですが、『下のほうに妙なものがいるよ』と声をかけてきました」
「妙なもの?」
「わたしも聞いたのですが、『きみよりもう少し大きいが、動きが鈍く、体のあちこちが光っている』と言っていました。
わたしは、それもクラーケンの部下だろうかと聞きました。そいつはわからないが、少し様子を見てくると、また下に行きました」
「そいつはなんだろう?シーラじいさんはどう思いますか」
「大体見当がつく。海の中にいる者はそんなにゆっくりしていることはできないはずじゃからな」
ペリセウスを探しに山脈に行くことになった。シーラじいさんだけペリセウスが帰ってきたときのために残ろうとしたが、その妙なものをシーラじいさんに見てもらいたいとリゲルが言うので、同行することになった。
ペリセウスはどこにもいなかった。ペリセウスとベラが話をした場所を中心に全員で探した。
「いました」シリウスが飛んできた。
「ペルセウスか?」シーラじいさんはおきな声を上げた。
「いや、妙なものです」と答えた。山脈に沿って上に向っているというのだ。
リゲルたちが集まってきたので、シリウスの後についていった。確かに山の崖にそってゆっくり動いている影があった。
「あいつを引っぱってきましょうか?」ミラが言った。
「いや、その必要はない、あれはまちがいなくロボットじゃ」
「ロボット?」
「潜水艦は大きいので狭い場所は調べられない。それで、ニンゲンは、ああいうものを作って調査をしているのじゃ。
あれには、ニンゲンは誰一人乗っていなくて、顔のあたりにあるカメラで写した映像を船に送っているはずじゃ。
前にも説明したが、最新式の潜水艦でも深くは潜れないので、深海、特に海溝を調査するのはロボットしかできない」
「シーラじいさん、海溝とは何ですか」リゲルが聞いた。
「海の下には、岩などでできたプレートというものが何枚となくある。それらがぶつかって一方が沈みこんでいる場所が海溝じゃ。その反対側が隆起して山ができているといわれているが」全員不安そうに顔を見あわせた。
「じゃ、ペリセウスはこいつを追って海溝まで行ったのですか」
「それはないじゃろ。このロボットは、今はクラーケンの捜索をしているようじゃから」

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