シーラじいさん見聞録
オリオンはほとんど休息を取らずに目印にしているみずへび座をめざした。目立たない星だが、大マゼラン雲と小マゼラン雲に挟まれているので、見落とすことはない。
2日ほどして、かなり近づいたことを確認した。そして、リゲル、リゲルと叫びながら、旋回しながら進んだ。
しかし、返事がない。リゲルも広い範囲を探していることだろう。そう簡単に出あえないことは百も承知だ。
翌日になって、どこからか自分を呼んでいるような声を聞いた。まだかすかにしか聞こえないがリゲルにちがいない。
「リゲル、ぼくだ。ここにいるぞ」オリオンも叫んだ。
返事がないが、大きな岩か何かにさえぎられたのだろう。オリオンは、そこを動かないようにして、リゲルを待った。
数時間後、「オリオン」という声がはっきり聞こえるようになった。
「ぼくだ。ここだ」オリオンも大きな声で答えた。前を見ると、薄闇の中を何かが向かってくるのがわかった。
「リゲル」オリオンは叫んだ。
「オリオン」リゲルは、オリオンの前で止まった。
「何かわかったか」リゲルが聞いた。
「ぜひきみに知らせたいことがあるんだ」
オリオンは、タコの老人から聞いたことを言った。そして、「ボスではないと思うが、きみの意見を聞きたかったのだ」とつけくわえた。
リゲルはしばらく考えていたが、「確かに2人で探して、もし違っていたら時間の損失だな。しかし、シーラじいさんの意見を聞こうじゃないか」
2人はすぐにシーラじいさんがいる場所に向かった。3日ほどかかったがようやく城が見えてきた。
城のまわりは潜水艦も見えず静かだった。ときおり魚が往来しているだけだった。
少し様子を見てから、すぐに上に向い、一気に進んだ。
しばらくして、また下に向かい、城の山麓ともいうべき尾根に沿っていった。
シーラじいさんは、2人帰ってきたのがわかったのか外に出ていた。
オリオンは報告した。そして、「シーラじいさんはどう思われますか」と聞いた。
「わしも、ボスは生きていると思うが、他の情報がないかぎりそこを調べなくてはならないな」と答えた。
「ボスは大丈夫でしょうか」リゲルが思いきって聞いた。
そのとき、ペルセウス、シリウス、ベラが帰ってきたのだ。
「リゲル、オリオン、おかえり」みんなは笑顔で2人を迎えた。
「ただいま。きみたちもよくがんばっているとシーラじいさんから聞いたよ」リゲルがそういうと、3人はさらに笑顔になった。
「それじゃ、ミラが帰ってきたら行くとしようか」シーラじいさんが言った。
「ボスは見つかったのか」ペルセウスが聞いた。
「いや、そうじゃないんだ」オリオンはもう一度説明した。
3人は何か言いたそうだったが、ミラが帰ってきたので、口をつぐんだ。
ミラも疲れているようだったが、2人を見て笑顔になった。
「何かわかったかい?」
シーラじいさんは、オリオンに話をするように言った。
ミラは、話を聞きおえると、「そうか。パパのようか?」と聞いた。
「いや、ボスはこんなことで死なないと思う。しかし、それを確かめることが大事だ」と答えた。
しかし、ミラは、悲しそうな顔をしたままだった。そして、「もういいよ。きみらに迷惑をかけるばかりだから」と言った。
シーラじいさんは、「ミラ、ボスは生きている。希望をもつのじゃ」と励ました。
リゲルも、「ぼくらは、きみのように深く潜ることはできないが、ボスを探そうという気持ちはきみに劣らず強い。もう少しだから」と声をかけた。
「それじゃ行くぞ」シーラじいさんは言った。
数日して、シーラじいさん以外、オリオンがタコの老人と会った場所についた。
リゲルがまたそれぞれが探す場所を決めた。しかし、そこは、イルカが集う場所のようで、リゲルやベラなどのシャチを見ると、みんな逃げていった。
ベラはまずイルカの女の子に近づいて、みんなに害を与えることはないからと放した。
それでも、最初は逃げていたが、だんだん怖がることが少なくなった。そして、男の子や親たちも好意的になった。
ミラ以外の者も、今まで潜れなかった深さまで潜れるようになった。しかし、まだボスの消息はわからないままだった。
ある日、ベラが、すでに着いていたシーラじいさんのいる場所にあわてて戻ってきた。
「どうした!」
「大きな者が腹を見せて沈んでいったと聞いてきました」
オリオンがタコの老人から聞いた場所から、100キロも離れている。
みんな急いでいった。そして、ミラは尾びれを高くもちあがると一気に潜った。
1時間近く立ったとき、ミラは浮かびあがった。遠くからでも悲しそうな顔をしているのがわかった。
「どうした」シーラじいさんが近づいて聞いた。
「パパが死んでいます」
「えっ、まちがいないか?」
「まちがいないです。腹にある大きな傷でパパだとわかりました」
みんなミラにどのように言葉をかけるべきかわからなかった。