シーラじいさん見聞録
「あっ、シーラじいさん」二人は同時に叫んだ。シーラじいさんも、ほっとした表情で答えた。
「シリウスとベガ、ご苦労じゃな。みんなはどこへ行ったのかな」
シリウスは、今のところボスの所在がわからないことや城の様子や潜水艦のことなどを話した。
「そうか。もう帰ってくるじゃろな。ところで、2人は自分の名前はどうじゃ?」と聞いた。
2人の顔は一気に変わった。
「ありがとうございます。とても気に入っています。今も2人で名前がつくと、勇気が湧いてくるようだと話していたところです」シリウスは笑顔で答えた。
「わたしに名前がついたことを知れば、パパも喜ぶだろうと言っていたんです」ベガも言った。
「それはよかった。しかし、広い海では、何かあっても誰も助けてくれないから、充分注意して行動することじゃ」
「はい」また2人同時に返事をした。
初めてシーラじいさんと話ができて、二人ともうれしかったのだ。
そのとき、リゲル、オリオン、ペルセウスと帰ってきた。
「シーラじいさん、お疲れ様です」3人ともシーラじいさんに挨拶をした。
「シリウスから今までのことのことは聞いたが、何か情報はあったか」
リゲルは、ペルセウスに報告するように促した。
「はやり城には誰もいないようです。わたしは、城にある小さな穴に隠れながら上に向いましたが、何かが動く気配はまったくありませんでした。
潜水艦から身を隠すために、どこかに潜んでいるのでないかという可能性はないと思います」
「わたしも、オリオンといっしょに少し離れた場所から城を監視しましたが、全く出入りはありませんでした」リゲルも報告した。
「潜水艦の様子はどうじゃ?」
オリオンが答えた。「潜水艦は、5、6隻いるのですが、潜水艦のライトはめまぐるしく方向を変えるのではなく、すべて城に向けられています」
シーラじいさんはしばらく考えていた。
「ニンゲンとクラーケンの戦いは一応決着がついたようじゃな」
「と言いますと?」
「ニンゲンは、クラーケンを追いつめたにちがいない。そのときにボスは巻きこまれたか、あるいは、ボスとクラーケンが戦っているときに、ニンゲンは攻撃を仕掛けたかどちらかのようじゃ」
「しかし、血のにおいはしませんでした」
「すると、どこかに逃げたのか」
「どこへですか」
「さあ、それはわからない。ニンゲンも必至に追いかけているかもしれないが、電波が届かない場所に隠れたら、ニンゲンでもわからないじゃろ」
「ミラは、潜水艦がボスを襲ったと思いこんでいます」リゲルは言った。
「今はボスを探さなければならないので、潜水艦に近づくなと注意していますが」
そのとき、ミラが帰ってきた。
「パパの行方がわかりません。誰かに聞こうとするとみんな逃げてしまうのです」
ミラの表情は
「ミラ、心配するな。やつらがいなくなったので、外に出ている連中も増えたので、何かわかるかもしれないぞ。
みんな能力にちがいある。それを生かせば、必ずボスは見つかる」
ミラはじっと聞いていた。
クラーケンたちが根城にしていた城は、大きな山脈の峻厳な頂になっていたが、その下はなだらかな峰が続いていた。
シーラじいさんは、その山麓まで行き、そこで実を隠せる場所を探すことにした。そこを司令室にするのだ。
リゲルは、それぞれに担当区域を割りあてた。シリウスとベガも、2人で一区域を回ることになった。
あいかわらず城のまわりには潜水艦がいた。しかも、さらに城に近づいているように見えた。ニンゲンも、ここにはクラーケンがいないことがわかっているのかもしれない。すると調査を行っているのだろうか。
ペルセウスは、引きつづいて潜水艦の動きと城の様子を見張ることになった。
リゲルとオリオンは城から離れた場所を回ったが、時々城に近づくようにしていた。
確かに、シーラじいさんが言っていたように、少し立ちどまって城を見る者が増えたようだ。
リゲルとオリオンは自分と同じ種類の者がいれば近づいた。
ここは外海とでもいうべきところなので、同じ種類であれば知らない者でもあまり警戒されないのだ。
リゲルは、シャチが数人いるのに気づいて、ゆっくり近づいた。
そして、背後から、「何か起きたのですか?」と聞いた。