シーラじいさん見聞録

   

「海の中の海」を出ると、ボスを探しながら城をめざした。
ミラは1000メートル以上潜れるので一番下を、その上は他の者が担当した。
そして、リゲルは城からかなり離れている場所で止まり、全員にすぐに集るように短い信号で伝えた。気づかれないようにするためだ。
まずシリウスとベガが来た。そして、遠くを探していたオリオンとペルセウスも姿をあらわした。しかし、誰もボスを見つけることはできなかった。
「ミラはどこへ行ったのだろう」とオリオンが聞いた。
「遠くまで行っているので、ちょっと時間がかかるかもしれないな。ぼくも、精一杯信号を送るが届いているかどうかわからない」
リゲルは、そう言いながらまた信号を送った。
しばらくして、突きあげるような動きを感じた。はたして、ミラの影があらわれた。
リゲルは、誰も見つけることができなかったことを報告すると、ミラは、「ぼくもだ。あっ、何か大きな者が動いている」と叫んだ。どうも城の方角のようだ。
「ちょっと調べてくる」ミラはそういうと城に向った。
他の者は近くを探してミラを待った。そして、リゲルの合図で戻ってくると、ミラが帰ってきたところだった。
「城のまわりにパパを攻撃した者がいるぞ」と叫んだ。
「どうしようか」オリオンはリゲルに聞いた。
「もう少し情報を集めて、シーラじいさんに分析をしてもらうことにしよう」
リゲルは、オリオンと城に近づくことにした。
城の影が感じられる場所まで行くと、確かに何かが動いている。それも1つではなく、4つ、5ついるようだ。
「やつらの動きはおかしいな」オリオンは小さな声でリゲルに言った。
「確かにあんなにゆっくりなのは初めてだ。城を警護しているからだろうか」
さらに近づくと、影の形が少し鮮明になってきた。背中に凹凸があるようだ。
「やはり潜水艦だ」オリオンは納得したように言った。
「でも、どうしてあれだけの数が来ているのだろうな?」
「クラーケンとの戦いがまだ続いているかもしれない」
2人は急いで引き返した。
「あれはクラーケンの部下ではありません。潜水艦です」とリゲルはミラに報告した。
「でも、パパはやつらに攻撃されたのだ。ぼくはこの目で見ていたんだ」ミラは譲らなかった。
「あの中にはニンゲンが乗っています」
「それなら、パパはニンゲンに攻撃されたのだ」
「それについてはシーラじいさんに聞くことにしましょう。シーラじいさんが来るまでボスを探してはどうですか?」とミラに提案した。
ミラは納得して深い海に向った。
オリオンはまた聞いた。
「潜水艦が城のまわりをいるのなら、やつらは城に立てこもっているのだろうか」
リゲルが返事をする前に、ペルセウスが、「ぼくが見てきましょうか」と聞いた。
「そうだな。君にお願いする」リゲルがそう答えると、ペルセウスはすぐに姿を消した。
話をじっと聞いていたベガがオリオンのそばにきて、「あなたは、ニンゲンの言葉がしゃべれるのでしょう?それなら、潜水艦まで行って、ボスのことを聞くことはできないの?」と言った。
「それはできないよ」
「どうして?」
「ニンゲンは海では生きていけない生き物だ。それで、潜水艦は押しつぶされないように硬い材質でできているので、連絡は取れないんだ」
「ニンゲンは、誰彼なく攻撃しているのだろうか」シリウスが聞いた。
「それはわからないな。ニンゲンは潜水艦にいるかぎり安全だが、クラーケンに捕まったらたいへんなので、武器を使うかもしれない」
「それなら、ボスをクラーケンとまちがったかもしれない」シリウスは自分の考えを述べた。
「ともかくボスを探そう。おまえたちはここにいてくれ。シーラじいさんがそろそろ来るころだ。誰かに気づかれるからあまりしゃべるなよ」
リゲルは、シリウスとベガにそう言うと、オリオンと2人で探しにいった。
2人はしばらく黙っていたが、ベガが小さな声を出した。
「シリウス、どう?名前を持った気分は」
「何か勇気が湧いてくるような気がします」シリウスも、小さいが弾んだ声で答えた。
「そうね。わたしも、自分の考えを堂々と言えるような気がするの」
「どうしてでしょうか?」
「名前があれば、自分はこの世で一人しかいないと思えるからよ」
「そして、名前にはその人のことがいっぱい詰まっているのですね」
「シーラじいさんは、ベガはとても明るく、早く動いている星だと言っていたわ。
わたしも、早くそうならなくっちゃ」
「シリウスも、とても明るく、オリオンと仲がいいと聞いてうれしいです」
「元々ニンゲンが星座に名前をつけたのよね」
「そう聞いています」
「ニンゲンも、わたしたちと同じように夢や希望をもっているかもしれないわ」
2人は話に夢中になっていたが、何かを感じたので後ろを振りかえった。すると、シーラじいさんがゆっくりあらわれた。

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