シーラじいさん見聞録

   

アントニスたちは、時々カモメから手紙を受け取っていたので、ある程度はオリオンたちの動きを知っていた。
しかし、手紙を作るのはベラとシーラじいさんで、二人とも、それぞれオリオンたちがいるインド洋に急いでいるので以前のようにすぐに手紙を受け取ることはできなかった。
最後の局面に近づいているので、少しでもインド洋に近い場所にいる必要があった。それで、トロムソを離れることにした。
ジョンとマイクはまだ大学の仕事が残っているので同行できないが、できるだけ早くイギリスに戻ることにした。
教授たちもイギリスに行くことに行くから状況を逐次連絡するように懇願した。
引越しの準備をしているとき、ベラがインド洋に入ったという手紙が来た。
「さあ、いよいよだ。シーラじいさんをどこにいるのだろう?」イリアスが言った。
「まだ連絡はないけど、多分、アフリカ大陸の西側を進んでいるのだろう。ベラには地中海を通るなと言っていたから。
とにかく、ベラがシーラじいさんの考えはよく分かっているから、ベラが的確に指示を出すだろう。
だから、シーラじいさんはゆっくりオリオンたちがいる場所に行けばいいんだ」アントニスが答えた。
「それに、カモメがついているから心配ないわよ」ミセス・ジャイロも言った。
「おれはオリオンに助けてもらったんだ。もうすぐ別のニンゲンも助けることになるのだ。オリオンは神が世界につかわしたものとしか思えないよ!」ジムは大きな声で叫んだが、涙声になっていた。ダニエルもうなずいた。
とにかく、トロムソを離れる準備はほぼできた。マイクとジョン、そして、アムンセン教授も家に来た。
「ぼくらも一緒に帰りたいけど、お役所勤めだから仕方がない。所長が働きけているから、それを待つよ」トロムソ大学に出向してきているマイクとジョンが残念がった。
アムンセン教授も、オリオンを我が子のように思っているので、早く会いたいし、それが無理なら、なるべく近くにいて帰りを待ちたいのだ。
「ぼくも、イギリス出張を申し出ている。きみたちから連絡をもらったら、すぐにでも行けるようにするから」
「もちろんカモメから手紙が来たらその都度連絡しますよ。そして、ニンゲンが海底に生きていることが分かったら飛んできてください」
翌朝トロムソを出た。ちょうどカモメが空を回っていたので、イリアスが、「ここを離れてイギリスに戻るよ」という合図をした。
数羽のカモメが「了解」というように鳴いた。これで、イリアスたちの上を飛んでくれるだろう。
3年前のチャイナによる電磁波攻撃で世界の交通網は壊滅状態だったが、かなり復旧してきていたが、まだ元どおりとは言えなかった。特に飛行機は以前の半分ほどしか飛んでいない。だから、航空会社の80%ぐらいが倒産していた。
だから、在来の電車での移動が中心になるので、どこも24時間稼働していたが、それでも混雑は解消されなかった。
だから、フェリーは線路などの増設がいらないので、どの国もできるだけ動かしていた。
アントニスたちも、フェリーをつか使うことに決めていた。トロムソに来たときはまだフェリーもそう動いていなかったので、イギリスからフランスにバスで渡り、それから電車を乗り継いでノルウェーをめざした。
最後にはフェリーに乗ったが、2年後には直接gフェリーを利用することができたのである。
1日待たされたが、フェリーでデンマークのエスビャウという港町に行くことができた。そして、丸一日かかったが、イギリスのハリッジという港町に着いた。何という速さ!みんな驚いた。
しかし、それから、自宅があるサウサンプトンまでは5日かかった。それでも、全員無事に帰ることができた。

オリオンたちが怪物の出てくるのを待っているとき、ミラが帰ってきた。そして、
「べテルギウスがいました!」と叫んだ。
「べテルギウス?『海の中の海』にいたべテルギウスか?」リゲルが驚いて聞いた。
「そうです。突然クラーケンらしき影が見えたので、岩陰に隠れて様子を見ようとしていました。そのとき、「ミラ」という声がしたので、リゲルかオリオンかなと思ってゆっくり構えていたら、「おれだ。ベテルギウスだ」という声とともにn本人がぼくの目の前にあらわれたのです」
「一人だったのか?」オリオンが聞いた。
「そうです。ぼくが来るのを知っていて仲間を囮(おとり)にしたのか。あるいは偶然一人で来たのか知りませんが、一人でした」
「それじゃ、まだクラーケンの仲間なんだな。それも、オリオンが言っていたように、かなり位が上のようです」
「何を言っていた?」リゲルが聞いた。
「みんな元気かと言っていました。しかし、クラーケンですから、滅多なことは言えませんから、多分元気だと答えましたが、最近は忙しそうだなと笑っていました」
「何か知っているようだな」リゲルが聞いた。
「そうだと思います。このあたりには来ないようにしているからと伝えてくれと言っていました」
「ベテルギウスらしいな」
「それと、きみのお父さんにはお世話になった。きみも強いはずだから、お手や若らに頼むとか言っていましたね」
「ベテルギウスはボスに一番かわいがってもらっていたからな。ベテルギウスもいつもボスの後を追いかけていたよ」オリオンはなつかしそうにいった。
「でも、きみとベテルギウスはいつも一緒にいたじゃないか。イルカとシャチなのに何であんなに仲がいいんだとみんな不思議がっていた」リゲルも思いだした。

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