オニロの長い夢

   

オニロの長い夢
(1)
遠くで何か聞こえる。鳥が鳴いているのか風が吹いているのか分からない。
それにその音は夢の中で聞こえているのか、現実なのかも分からない。
音はだんだん近づいてくるような気がする。人間が泣いているようにも聞こえる。
すると、目が覚めているのか。そして、その音は隣のルーカスじいさんが何か言っているのか、
ルーカスじいさんは昔からぼくをかわいがってくれていたのに、今はぼくのことを忘れて毎日泣いてばかりいる。
夕べも大きな声で泣きながら村を歩いていた。村にはそんな人が何十人もいる。そうしない人は家に閉じこもって泣いている。窓から泣き声が聞こえる。
ルーカスじいさんたちがいくら大きな声で泣きながら通りをあるいていても誰も文句を言わない。ひょっとして窓から見ようともしないかも知れない。ほんとは自分もそうしたいのかもしれない。ぼくもそうだ。何度大きな声で泣きたいと思ったことか。
部屋はまだ薄暗いが朝は近いようだ。すると、ルーカスじいさんは一晩中泣きながら歩きまわっていたのか。
その時、「おい。坊主、起きないか」という声が聞こえた。
「坊主」と言っている。この前行った教会の様子が浮んだ。祭壇の前の椅子は全部取り払われていて何百という棺が置かれていた。そのまわりには大勢の人がいて、みんな泣いたり怒鳴ったりしていた。
同じ服装をした子供がたくさんいて、大勢の人の間を走り回っていた。
そして、司祭や補祭(ほさい)から何か言われていた。教会の仕事をしているのかもしれない。
「坊主。早くしないか」中年の男がその子供たちに激しく怒っていた。
しかし、ぼくは教会の子供じゃないから、坊主じゃない。すると、ぼくはまだ寝ていて、夢を見ているのか。
「おい。坊主」まだ声が聞こえる。ぼくは、夢の中で、「誰かとまちがっているぞ。ぼくは坊主じゃない。オニロだ」と叫んだ。
「ふふふふ。なかなか威勢がいいな。しかし、目のまわりには涙の跡が残っておる。さては夕べも泣きながら寝たな」と言う声が聞こえた。
オニロはびっくりして首を起こした。しかし、ベッドのまわりには誰もいない。「やはり夢か」もう一度毛布に潜り込もうとした。
「おい。また寝るのか」その声はだんだん苛立ってきたようだ。
オニロは、夢を見ているのか起きているのか分からなくなった。それで、「どこにいる」と叫んだ。
すぐさま「ここだ」という答えが来た。なにげなく上を見ると、白いひげを伸ばした老人が天井からオニロを見ていた。
慌てて跳び起きて、ベッドから飛びだし、「誰だ!」と叫んだ。
「まあ。落ち着いてわしの話を聞け」天井の老人が言った。
それには返事をしないで、「これは夢にちがいない。天井に顔があるなんてことはない」と思った。
それで、またベッドに入ろうとした時、「おまえは両親を奇怪な病気で失くした。
二人は、突然胸をかきむしって倒れた。おまえのおばあさんが介抱したが、二日ともたなかった。
これはおまえの両親だけでなく、村の八割の人間が死んだ。そして、その病気は山を越え、海を越えどんどん広がっている。
その有様を見て、『神が世直しのために我らを殺してしているのだ』という声がある。おまえもそれを聞いたことがあるじゃろ」
オニロは、じっと天井を見上げていた。

オニロの長い夢
第1章2
「神はそんなことはしない。神が作った自然の中で、人間は家庭を作り、子供の成長を楽しみに、毎日汗水を垂らして働いている。やがてそれが実るときが来る。それが人生だ。
神もそれを見るのが楽しみしている。それなのに、どうして人間の命を途中で取り上げるのだ」
オニロは、天井に映る老人の話を聞きながら、畑で両親が働いている姿を思いだしました。そして、「それなら、誰がこんなことをしたんだ」と独り言のように言いました。
「神ではない。しかし、神も今回のことで苦しんでいる。それで、八方手を尽くされて、ようやくこの野草がいいのではないかと思われた」
「分かったのか」
「確証が持てないが、今までの例から効くはずだと」
「神ならどうして分からないのだ」
「神と言えども万能ではない。分からないことが山ほどある」
オニロは、すべて神は知っていると教えられてきたのに、このおじいさんは何を言っているのかと天井を見上げました。そして、「それなら、その野草はどこにあるのか」と聞きました。
「ここから何年もかかる場所にある。ひょっとすると何十年もかかるかかもしれない」
「神ならすぐ持って来られるのに」
「神のお考えだ。先ほど言ったように神は全能ではない。それで、人間の形を作っても中身は人間に任されているのだ。中身は自由に作ればいいのだ。
人間同士殺しあってもいいし、助けあってもいい。おまえはどうする」
「もちろん助けたい」
「おまえがそう言うと思っていた。それでは野草を取りにいくか」
「でも、パパとママは死んでしまった」
「そうじゃな。おまえにはもう助ける人間はいないから、助けるなんてことは考えなくてもいいわけだ」
「そんなことはない。おばあちゃんがいるし、ルーカスじいさんや村の人もいる」
「そうか。助けたい人はいるんだな。それなら、今から野草を取りにいくか」
オニロは、待てよと思いました。天井から覗いているおじいさんといい、村に流行っている病気に効く野草があるといい、神は全能ではないといい、にわかに信じられないことばかりだ。
そうか!これは夢だ。夢なら誰が何をしても何を言っても仕方がない。
昔、好きだったカリスをいじめた夢を見たことがある。どうしてそんな夢を見たのか分からないが、翌日「遊ぼう」と誘われても、自分を許すことができなくて、断ったことがある。
「どうするんだ。早く返事をしろ」老人の声が聞こえる。
「行きます」オニロは慌てて言った。そして、おばあちゃんに声をかけなくはと思ったが、夢なのだからそんなことをする必要はないと思いかえした。
「よし。すぐに家を出ろ。おばあさんにはわしから言っておくから」
「どっちに行けばいいのか」夢の中でそんなことを聞くやつはいないがと思いながら聞いた。
「遠くに万年雪の山がある。そこをめざすのじゃ。山にいる誰かに白い大蛇がいる場所を聞け。大蛇がそこからの方向を教えてくれるはずだ。そこから山や海を越していくんだ」
「海?」
「そうか。おまえは海を見たことがなかったんだな。まあ言ってみれば池の何億倍の広さがある。船という乗りもので海を進む」
夢なら躊躇する必要はない。オニロはベッドから出て玄関を開けた。

オニロの長い夢
第1章3
玄関を開けるとき、おばあさんに挨拶しようと思ったが、どうせすぐに帰るのだからと思いなおした。もうすぐ夜が明けると夢は覚めるのだ。
家を出たのは久しぶりだった。近所で多くの人でばたばた倒れていることを聞いて、パパは、「外に出るな」と怖い顔で言った。「これは悪魔が病気をまき散らしているのだ。悪魔がどこかに行くまで家でじっとしておかなくてはならない」
それで、家族4人は、家にあるものを食べて家にいたのだ。
しかし、病気はなかなか収まらなくて、むしろひどくなっているようだった。外から叫び声や鳴き声が聞こえるようになった。窓からそっと見ると、恐ろしい風景が繰りひろげられていた。
近所の大人が夢遊病者のようにふらふら歩いていた。中には目を吊り上げたり胸を掻きむしったりしていた。みんな家族の誰かをなくしているのだ。
窓を開けて声をかけたり、家に招いたりすることもできず、ただ見るだけだった。
しばらくすると、ずっと家にいたパパとママの様子が変わってきた。朝になっても起きることができなくなった。
おばあさんが二人の額(ひたい)をさわってみると、ひどい高熱が出ていることが分かった。おばあさんは水で額を冷やしたり、野草から作った解熱薬を飲ませたりしたが、5日後動かなくなった。
おばあさんは布を顔に巻いて、オニロに、「じっとしているのよ」と言って外に出た。葬式のときは、村の馬車で村のはずれにある墓地に運ぶことになっていたので役場に行ったのだ。
1時間ほどして帰ってきて、「毎日10人近くの人が死んでいるようよ。墓掘人が朝から晩まで墓穴を掘っているけど、いくら掘っても足らないぐらいらしいの。
それで、葬式は3日後になるけど、神父様も死んでしまって、家族だけで葬式をしてほしいと言われたわ」
「おばあさん。ぼくも手伝います」オニロが言った。
「そうしてちょうだい。でも、病気を吸わないように顔を完全に隠すのよ」
葬式まで絶対にパパとママの部屋には入らないようにとおばさんは言った。
「パパとママの体から出た病気が次の人を探して空気の中をうろうろしているから」
オニロは二人のそばで祈りたかったが、それもできないので、部屋の外で祈った。
3日後の朝、村の馬車が来た。村が用意してくれた棺の中に二人の御者がパパとママを納めてくれた。
そして、馬車は急いで墓地に向った。すでに大勢の人が墓地にいた。新しい墓は無数にできていた。
御者は二つの棺をそれぞれの墓穴に入れてから、少しお祈りをしてくれたが、「今日は夕方までに20人を墓地まで運ばなければならない」と言って戻って言った。
二人でお祈りをして、1時間以上歩いて帰ってきた。そして3日後に、天井の老人があらわれたのだ。
口元を隠しているけど、久しぶりに外の空気を思いっきり吸いたいと思ったが、用心してそれも止めた。
青空で花は咲き、鳥が鳴いていた。これはいつもの光景だった。前なら大人は野良仕事をして、子供は遊んでいた。しかし、今は誰一人いなかった。
あの天井の老人は、「万年雪の山に行け」と言っていたが、そんな山はないはずだがと遠くを見ると、確かに頂(いただき)が白い山が見えた。
しかし、「そこまで行くのには何日もかかるかもしれない」と思ったが、「夢ならそんな心配はいらない」と思って歩きだした。

オニロの長い夢
1―4
オニロは、おばあさんに声をかけたほうががよかったかなと気になったが、どうせこれは夢なので、いつものように「オニロや。早く起きなさい。朝寝坊していると、パパとママに笑われるよ」と起こすだろうと思った。
それなら、早く行って早く帰ってこようと思ってどんどん歩きつづけた。
空は晴れわたり、少し冷たい空気は心地よい。道端には見たことのないような花が咲き乱れ、楽しそうな鳥の鳴き声があちこちから聞こえてくる。
そうだ。いつもなら、遠くに見える畑には大勢の人が野良仕事をしているし、子供たちは、犬や山羊を追いかけて遊んでいる。
しかし、今は人はどこにもいない。大勢の人が死んでしまったし、生き延びた人もこれからどうなるかわからないので家に閉じこもったままだ。
天井に映ったおじいさんが言ったように、どこかにある野草を持ってかえり、それで薬を作れば、この病気で死ぬことはなくなるのだ。そして、その野草を持ってかえる役目をぼくがするかどうか聞いた。
パパやママのように死んでしまった人の命は返らないけど、薬さえあれば、以前のような村になるのだ。それを断る理由がない。パパやママもこの任務を果たせばどれだけ喜ぶだろう。
まずあの雪が残っている山に行けば、そこにいる白い蛇がどこに行けばいいか教えてくれるのだ。オニロは意気込んで歩きつづけました。
しかし、いつまで歩いても雪の山は近づいてきません。早く着かないと寝坊してしまう。オニロは焦りました。
それから何も考えないで無我夢中で歩きました。すると、目の前に頂(いただき)に雪を被った山があらわれました。しかし、山裾はなだらかですが、かなりありそうです。
「とにかくここを進めば、白いヘビに会えるはずだ」オニロは自分にそう言って、進みました。
しかし、いつまでも山そのものにたどりつけません。そう思っていると、ようやく急な坂道になってきました。無数の大きな木が生えています。
「山に着いたぞ。ここを登っていけば、白いヘビが出てくるのだ」オニロは元気を取りもどして登りはじめました。
すると、木と木の間に閃光が走りました。眼を開けていられないような光です。それがしばらく続いたかと思うと、ゴロゴロと雷の音が聞こえてきました。すぐに雷は耳をつんざくような音になりました。まるで巨大な岩が転がり落ちてくるかのような音です。
目の前に広がる森のあちこちでバーンというものすごい音がします。オニロは、思わず近くの木につかまりました。雷が落ちたのです。焦げ臭いにおいがします。炎も見えます。
突然雨が降りだしました。すぐに叩きつけるような音がします。前からその雨が川のように流れてきます。オニロは大きな木を選んで、その陰に隠れて待つしかありません。
「夢であっても早く任務を終えて帰りたいのに、これではどうしようもない。
今日無理なら明日の夢で野草を見つけてもいいかな」と都合のいいことを考えました。
すると、雨が止み、雷も聞こえてきません。「『山の天気はよく変わる』とパパが言っていたとおりだ」とオニロは上を見上げましたが、木の葉に溜まっていた雨がシャワーのように顔に降ってきました。
「このまま帰るわけにはいかない。夢の中ぐらいはちゃんとしなくは」と気を取りもどして、滑りやすくなった山道を登りはじめました。
しばらく行くと、木の上から、キィー、キィーという声が聞こえてきました。 
そして、数が増えて近づいてきました。「サルか」オニロは立ちどまって見上げました。少し心細くなっていましたので、人間ではなくとも、生きものというだけでほっとするのです。
サルはさらに近づき、オニロのすぐそばまで来ました。何十匹もいるようです。
一匹が、手を挙げて、「ついてこい」というような身振りをしました。

オニロの長い夢
1―5
オニロは、「白いヘビに会わせてくれるのだな。ぼくは今から村中の、いや、世界中の人の期待を担って、恐ろしい病気の特効薬の原料になる野草を取りに行くのだ」と考えて急ぎ足でサルの後を追った。
「そうだ。天井のおじいさんの話では、ぼくは神から選ばれた人間の一人だった。何人の候補者がいたか知らないか、大人を押しのけてぼくが選ばれたのだ。白ヘビもそのことを知っているにちがいない。道を教えてもらったらすぐに海とやらを船で乗りだそう」
そんなことを考えていると、サルの一団はどんどん進む。ついていくのがやっとだが弱音を吐くわけにはいかない。
しばらく行くと、サルは大きく飛び上がって今まで以上に早く進む。オニロは取り残されてはいけないと体に力を入れて走る。
すると、体が浮いたかと思うとそのまま足が地に着かない。そのまま体を反転させて落ちていくとき意識を失った。
身体が寒い。ぶるぶると震えながら目を覚ました。しかも、身体のあちこちが痛い。
何が起きたのかと見回した。水たまりの中に寝ている。上を見ると、木の間から青空が見える。「そうか。サルの後をついているときこの穴に落ちたのか」オニロはようやく状況がわかった。
「よく助かったものだ。しかし、ぼくを案内してくれていたサルたちはどうしたんだろう?ぼくがいないことに気づいたたら、すぐに助けようとするはずだ。なにしろぼくは白ヘビのお客様だから」そう思って、穴の上を見ました。
オニロから地上までは10メートルぐらいしかありませんので、誰かいたらすぐにわかります。
しかし、誰かが顔をのぞかせた騒いだりしていません。時々壁から水が落ちる音がするだけです。
オニロは立ち上がっていますが、足は水につかったままなので、身体はさらに冷たくなってきました。
幸い穴の壁はところどころ大きな石が出ていますので、それに手や足を乗せていけば上に上が上がることができないか考えました。
すぐに手で石をつかみ、足を置きました。足は冷えきっていますので少し感覚が鈍いのですが、手で石を固く握っていれば何とか上がれそうです。
かなり上に行ったと思ったのですが上を見ればかなりの高さが残っています。
そして、水が染み出しているので、手が滑ります。とうとう落ちてしまいました。
幸い頭から落ちずにすみましたが、水の底にある固いものに足を取られて転んでしまいました。「こんなことが何回もあるかもしれない。落ちそうな場所にある石を片付けておこう」と思って水の中を探りました。
かなり大きな石のようです。それを持ちあげたとたん、オニロはそれを放り出しました。それは大きな石ではなく、頭蓋骨だったのです。
足で探ると、直径3メートルぐらいの穴に10個以上の頭蓋骨があるようです。
「何が起きているんだろう」と思いましたが、すべての頭蓋骨を1ヶ所にまとめました。
改めて上を見ましたが、壁にある石はすべて濡れているようです。
「今の方法で穴から出られるのはまちがいない。青空が出ているので、しばらく待てば乾くはずだ」そうは思っても時間はなかなか進みません。
「しかし、サルは白ヘビから怒られたりしていないのか。それなら、サルと白ヘビとは関係がないのか。
そして、不思議なことがある。頭蓋骨はあるけど、あばら骨などはない。ここは儀式で頭を捨てる場所なのか。それにしても、サルが人間を食べるとなど聞いたことない」謎は次から次へと浮かんできます。「最初にこの山に行けと言った天井のじいさんは何者だ。ひょっとして・・・」

オニロの長い夢
1―6
その時、上でバサッという音がしました。見上げると何か落ちてきました。
しかし、下まで落ちてこず、途中で止まりました。ちょうど穴の半分の高さです。どうも紐のようなものですが、枝のようなものが無数にあり、葉っぱもついています。
木に巻きついているツルにちがいありません。あれに掴まれば難なく上に上がれます。しかし、いくら待ってもそれ以上下に下りてきません。
サルか誰かがぼくを助けるためにツルを落としてくれたのではないかと様子を見ていましたが、誰も顔を出しません。それなら、自然に落ちてきたのかと思いましたが、念のため、おーい、おーいと叫びました。しーんと静まりかえったままです。
誰もいないことが分かりましたが、オニロは考えました。「これ以上下には下りてこないが、でも、ぼくが登らなければならない高さは、あのツルのおかげで半分になったのだ。これからは、5メートルの壁を登れば助かるのだ。
ただ、石は濡れている。石さえ乾けばここを出られる」すると希望が湧いてきました。
しかし、まだ水は壁から沁みだしています。それが下の石を塗らすのです。
オニロは、たとえ濡れていても、大きな石を探しました。
突然、日差しが穴の底まで届きました。「これはすごい!すぐに石が乾くぞ」
オニロは大きな声で叫びました。しかし、5分もすると、日差しは徐々に陰ってきました。そして、光はなくなりました。
石は少しは乾いたように見えますが、ツルの反対側の石だけです。それに、ツルのほうの壁はかなり水が沁みだしていますし、そこの石は足の置きにくい小さなものがほとんどです。
それでも、オニロはあきらめずに石や壁の様子を見ていましたが、「よし!」と声を出しました。
ツルと反対側の壁から出ている石は比較的大きく、そして乾きつつあるように見えたので、そこを5メートルぐらい上がり、反対側の壁にあるツルに飛び移ることにしたのです。穴の直径は3メートルぐらいありますが、「飛び移るときに壁を思いっきり蹴れば大丈夫だ」と計画を立てました。
オニロは石の様子を見ながら、自分の気持ちが高まるのを待ちました。
そして、大きく呼吸をしてから壁を登りはじめました。どの石に足を置き、その時、どの石を掴むかを頭に入れていたので、かなり早く5メートルの高さに到達しました。それから、顔をツルのほうに向けて、どこを掴むかを決めました。
そして、ものすごい勢いで後ろを向くやいなや、ツルに向って飛びました。
ツルを掴まえたように見えましたが、そのまま下に落ちてしまいました。
オニロは落ちた拍子に尻をつきましたが、すぐに立ち上がりました。どうして落ちたのか合点がいきませんでしたが、どうもツルが湿っていて手が滑ったようです。手のひらにはかなり擦り傷があり、血が出ていました。
「ツルがあれほど滑るとは気がつかなかった」オニロは反省しました。
「それなら、ツルの枝が出ているところを掴んだらいいのだ」すぐに壁を登ろうとしましたが、今落ちたときに足を痛めたようで、足に力が入りません。
焦る気持ちもありましたが、「大丈夫。大丈夫。しばらく待てば、石も壁もツルも乾く」と気持ちを落ち着かせました。
ようやく大きく息をすると、壁を見上げました。足はまだ痛いけど、ゆっくり登れば失敗しない。オニロは自分にそう言い聞かせて登りました。
5メートルぐらい登ると、後ろを何回も確認して、ツルを何回も見て掴む場所を決めました。
それから、どの石に足を置くかも決め、息を大きく吸い込み、身体をぐっと縮めると、サルのように飛びだしました。
決めていたツルの場所を掴むと、急いで穴の上に出ました。しかし、歩くことができず大の字になってしまいました。

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