オニロの長い夢 1-67
オニロの長い夢
1-67
少し明るさが残っている間に、急いで子グマにエサを与えました。お腹がすいていたようで、オニロの指を噛むような勢いで食べました。まだ食べたそうにしていましたが、そう蓄えがないので、辛抱させました。自分も少しだけにしました。
明日魚を取ることに決めて寝転びました。波もなく穏やかな海です。すでに真っ暗になっていて、無数の星が輝いています。パパとママがどこにいるか探しましたが、あまりに星が光っているので分かりません。
しかし、あちこちで星が流れるので、その時に、「パパ、ママ。これからどうしたらいいのか教えてください」と祈りました。
すると、何かが体に当たりました。触ると子グマのようです。まだエサがほしいのかもしれませんが、「明日、魚釣りをするから、それまで我慢だ」と声をかけました。
「おまえもパパやママに会いたいだろう。早く連れて帰ってやるよ」と頭をなぜました。
「それにしても、ピストスはなぜあんなことをしたんだろう」と考えました。「船にいれば見つかって、またさらわれると怖くなったのだろうか。でも、ピストスはそんな性格ではない。それに、あの時は、あちこちから黒い鳥が飛んできていたから、自分から海に飛び込むなんてことはしないはずだ」
オニロは、しばらく考えていましたが、突然あっと叫びました。「そうなんだ!オニロは自分からさらわれようとしたんだ。そうして、自分がどこへ連れていかれて、どうされるかを知りたかったんだ。
ぼくがノソスグラティを早く見つけるためには、そうするのが一番の早道だと考えたんだ」オニロはそう考えると、涙が止まらなくなりました。無数の星が二重に見えます。「ぼくのせいでピストスを苦しい目に合わせたんだ。絶対に助けてやる」オニロは心に決めました。
翌日、子グマにエサを与えてから、魚を釣りました。そして、これからどうするかをじっくり考えることにしました。今までの経験で闇雲に動くことは失敗の元だと知っていたからです。
黒い鳥が見えたら、まずその進む方向を見ることだと思いました。以前船の上空を飛んできた時は、その数が多くてどの方向へ飛んでいったのか分かりませんでした。
しかし、今日は飛んでいません。あれは何だったのか。夢の中の夢で、さらに夢だったのかとさえ思いました。しかし、ピストスはいません。ただ、子グマがこちらを見ているだけです。
オニロは四方八方を遠くまで見ましたが、どこにもまがまがしく飛ぶものはいません。それに、海は今日も穏やかで、風もあまりありません。仕方がないので、もう一度魚釣りをはじめました。
しばらくすると、大きな帆船が通つているのが見えました。「これは大きい。多分、交易をするためにたくさんの物を運んでいる船だ。それなら、このあたりをよくと通っているにちがいない」オニロはそう思うと、すぐに船を動かしました。
このあたりをよく通っているのなら、黒い鳥について何か知っているだろうと考えたのです。
オニロは必死で漕いで船に近づきました。風がないので人間が漕いでいます。さらに近づくと、上半身裸の男が10人ほど並んで漕いでいます。漕いでいる人は顔も体も真っ黒な人です。オニロは、黒い人がいるとは聞いていましたが、実際見るのははじめてです。それで、どう声をかけたらいいのか迷いました。
すると、高いころにある甲板から、「どうしたんだ。助けてほしいのか」と叫ぶ声が聞こえました。見上げると、あごひげの長い男でした。オニロも負けずに、「大きな黒い鳥を探しているんです」と叫びました。
すると、帆船は徐々に速度を落として止まりました。「その鳥に用事か」男はさらに聞いてきたので、オニロは手短に話しました。
男は、「その鳥かどうか分からないが、考えられないほどの鳥が飛んでいることはある。おれたちは外国を回っているが、外国には自分の国にはいない奇妙な動物がいる。だから気にしないな」
「どこで見ましたか」
「どこと言ってもよく分からないが。そうだな、いつも雲がかかっている島がある。そこらかな」
「分かりました。そちらに行ってみます」
「そんな小さな船で行くのか」
「はい」
「ここは陸からは相当離れているぞ。シカなんかほっといて、わしの船に乗れ。連れて帰ってやる」
「いえ。探します」
男はそれには答えず、「どういうわけかこのあたりは波が高くぞ」と言って食べものを投げてくれた。
それから、「ようそろ」と黒い漕ぎ手に向かって叫びました。漕ぎ手たちは何か叫んで漕ぎはじめました。