シーラじいさん見聞録
「みんな、ありがとう」リゲルやオリオンたちは叫んだ。
しばらくすると、あのカモメが下りてきて、「わたしたちの任務は終ったわけじゃないのよ」と少し怒ったように言った。
「ぼくらが連れてかえりますから大丈夫ですよ」オリオンがなだめた。
「お兄さんがいる場所の情報が来ているのよ。それによると、お兄さんを攻撃した者たちは、一時ニンゲンが来ている間はおとなしくしていたけど、ニンゲンがいなくなると、また集まってくるようになって、仲間も増えているそうよ。
そして、反対をする者を大勢で取りかこんで嫌がらせをするのが何回も目撃されているのよ」カモメは早口で話した。
2人は顔を見合わせた。
「あなたたちの仲間だけでなく、ミラも襲われるかもしれないのよ。いくら体が大きくても、やつらはミラの仲間を襲うことがあるもの。
しかも、ミラはいつも海面に体を出していなければならないのよね。それなら、ますます危険だと思うわ。
それで、お兄さんを追跡したときのように、みんなで手分けをして、危険が迫ってくれば知らせようと話しあっているの」カモメは続けた。
「そうでしたか」リゲルが答えた。
オリオンも、「それじゃ、ぜひお願いします」とカモメに言ってから、みんなを振りかえった。
「まずぼくがやってみますから見ておいてください」と大きな声で言った。
ミラはすでにオリオンの近くに来ていた。
「ミラ、お願いするよ」
「どれくらいの速度がいい?」
「いつものように泳いでくれ」
ミラは尾ひれを上げると一気に潜った。そして、500メートルほど後ろから姿をあらわした。
そして、そのままゆっくりと動きだしたが、オリオンの近くで速度を上げた。
オリオンはメートルぐらいまで近づいた。ミラはさらに速度を速めた。
ミラとオリオンは1000メートルほど進むと、大きくカーブをしてもどってきた。
「オリオン、わかった。それじゃみんなでお兄さんをミラのほうに押していったらいいのだね」リゲルが聞いた。
「そうだ。少し練習をしようか」
ミラはもう一度潜った。そして、ミラが近づいてきたとき、お兄さんはまだどこかに行く素振りをしたが、みんなで波のほうに押した。
しかし、お兄さんはうまく波に乗れずにひっくりかえった。
今度は、ミラが少し速度を遅くしたが、波の力が弱くて、お兄さんは潜ってしまったので、みんなはあわててお兄さんを海面まで上げた。
今度は。ミラは、お兄さんが波に近づくやいなや、一気に速度を上げるようにした。
何回か波から外れてしまったが、お兄さんをミラと平行になるように押してようやく波に乗れるようになった。
鳥はすで数万羽が集まってきていたが、うまく乗れるようになるまで一切鳴き声を出さずにゆっくり旋回して見おろしていた。
そして、うまくいったときは安堵の声が空に響いた。しかし、お兄さんを怖がらせないようにまたすぐに静かになった。
リゲルやオリオンたちはお兄さんが外れたり、下に行ってしまわないように注意していたが、ミラが注意深く速度を守ってくれたので、そういうことは少なくなった。しかし、体力はほとんど残っていないようだった。
鳥たちは、以前と同じように分散して警戒についた。夜に当番となった鳥たちは、ミラの背中に乗ったりして、警戒に当たった。
家族は、いつも声をかけていた。また、お兄さんはあまり食べものを口にしなかったが、食べものをいつも用意し、食べさせようとしていた。
あるとき、リゲルは、パパに、「これで何とかもどれそうですね。お兄さんをどこへお連れしましょうか」と聞いた。
パパは顔を曇らせながら言った。
「こんなに大勢で助けてもらったのだから、家族があきらめてはいけないと話しあっています。それで、元の息子に戻すにはどうしたらいいか考えているのですが、どうもわからない。
けがをした場合は家族同士が集まる場所がありますので、そこでしばらく暮らします。
そこには誰かいるので、家族は気兼ねなく食料を集めにでかけることができます。
ですが、息子はどこもけがをしていないのだが、錯乱状態にあります。そんな者を預かってくれるのか聞いてみるしかないと思っています」
リゲルは、「こんな広い世界でまた会えたのは奇跡ですし、連れてかえることができたのも奇跡です。
また元気になる奇跡も起こるかもしれないと思います」とパパを励ました。
そばに来ていたオリオンも、シーラじいさんなら奇跡を起こしてくれるかもしれないと思った。
そのとき、あのカモメが急いで下りてきた。そして、お兄さんを攻撃した者がこちらに向ってくると叫んだ。