函館(1)

   

今日もムーズが降りてきた~きみと漫才を~

「函館」(1)
正月休みに函館に行ってきた。安かったら、どこでもよかったんや。根気よう探せば、そんなんなんぼでもある。企画をしたけど売れへんやつとか、もう時間がないやつとか。
「香港旅行が5泊29000円ですけど、明日行きませんか」とか連絡があるけど、まだ引退してへんから無理やな。早うそうゆう身分になりたいけど。
函館は久しぶりやなと考えていると、ようテレビに出ているフランス人の神父を思いだした。病気や老衰で寿命が短い人が入居している「ターミナルケア」を函館で運営している。家族が協力しないと「入居お断り」とゆうことやった。
ぼくも、「介護と家族」とゆうテーマでコンサルタントをしているから一度見学をしたかったが、その神父は病気をして、同じ施設にいるのもテレビで知っていたから、無理かなと思うて電話するとOKやった。
施設は、函館空港の近くで小高い山にあった。送迎バスがあるけど、約束の時間に間に合わへんからタクシーで行った。函館山からの、日本海と太平洋の間の夜景は有名やけど、そこからは、おだやかな日本海が見えていた(地元のもんも、「こんな冬は知らねえべぇ」とゆうとった)。
大広間にある暖炉の横で待った(それも、神父が自分で作ったらしい)。
知らん人と会うのは、ほんまは苦手や。事業をしているときは、新聞記者や同業者がよう会いに来たから仕方がなかったけど、気心がわからんから、えらい緊張する。
せやけど、1時間ほどすると、池の水抜きするように、どんどん言葉が出てくる。雪道で急ブレークをかけたようになる。自分でも、話がどこへ行くかわからへん。
おばあちゃんに「お前は、すぐに登る」ゆうて怒られたけど、本来「調子もん」なんやろな。
10年ほど前、新聞記者に、ある一部上場会社と提携するゆうて、それが新聞に載ったもんやから、えらいことになった。上場会社は、株主が目ぃ光らせているから、そうゆうことは神経質なんや(実際、そうゆう話があったけど、結局おじゃんになった)。
そこで、神父と会っても、あんまりしゃべらんように決めていた。
話のついでに、「介護コンサルタントをしています」とかゆうて、「私は、日本で初めて在宅介護サービスを・・・」となると、「介護は商売ではありません。人間愛から出てくるものです」とかゆわれるかもわからん。
そうしたら、「神父様、お言葉を返すようですが、介護保険は、福祉ではなく商売です。しかも、国とゆう親分に、ショバ代を払ってやる商売です」とちゃかしたくなる。
「この無神論の俗物め」と思われるもいややから、「『生きる』とはどうゆうことですか?私は、去年母親をなくし、今父親を入院させています。自ら食べることも、しゃべることもできないのに、長生きを願っていいのでしょうか?」と聞くのも墓穴を掘るようなもんやと考えていた。しゃべるもんは、ぼくでもそうやったけど、うなずいてもらうと話の調子が出るもんな。
それに、早う終わって、繁華街に行こうと思うていた。取れたてのイカやほっけは、関西では食べられへんもん。
そのとき、「理事長がお見えです」と担当者が声をかけてきた。立ち上がると、神父が、補助器具を使って、ゆっくり歩いてきた。

今日もムーズが降りてきた~きみと漫才を~

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