チュー吉の挑戦
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(13)
「チュー吉の挑戦」
「逃げろ!ネコだ」誰かが叫びました。その声で、みんなちりぢりに逃げました。
すると、「待て、待て。逃げなくていいぞ。話をするだけだから」と大きな声がしました。
その声で、タンスやテレビなどの陰から、少し顔を出しました。
しばらくして、「こっちへ来いよ」という猫なで声がしたので、おそるおそる近づきました。
あっちこっちついている電気製品のライトで、それがものすごく大きいネコだとわかりました。また、そのだみ声から、かなりのとしよりだと思われました。
ネコは、「何をしているのだ?」と聞いてきました。チュー吉は、その質問は答えず、「あの~、出ていっても、食べちゃたりしないですか」と聞きました。
「おまえたちをか」
「はい」
「彼は昔の彼ならず、だ。おれたちは、今や、上げ膳据え膳の身の上だから、わざわざおまえたちを追っかけることはしないさ。それに、おれは、骨が折れる音や血のにおいが嫌いでな。それに痛風だ。そんなことをしても、労多くして、益少なし、だ。
朝までぐっすり寝るつもりだったが、おまえたちの物語に、おれが出ていないと、点睛を欠くというものだろう?ところで、どこから来たんだ?」
「隣町からです」むずかしい言葉が出てきたので、チュー吉は、ホッとして答えました。
「食べものがないのか」
「いいえ、そんなことはないですが」そして、なぜここに来たのか説明しました。
「なるほどな。確かにこの世は理不尽なことが溢れている。
食べものがないからといって、おまえたちは、せっかくレノアでふんわりになったバスタオルにションベンをしたり、主人が2,3日並んで買ったスマホに噛みついたりしないもんな。
しかし、おれたちの仲間は、嫉妬から、そんなことをするやつがいる。そのくせ、世話をしてくれる主人に抱かれると、怖くてチビリションベンをするんだ。
人間は、毫もそんなことを思っていないだろうが、また、そんなことを思いたくもないだろうが、それが現実だ。この世は虚構で出来上がっているんだな」
「あの~、ここの人は?」チュー吉は話題を変えました。
「町内の人間と温泉に行っている。主人は、企業年金が出ているから結構な生活をしている。おれたちは、そのおこぼれをいただいているわけだ。
しかし、世は不況で、ワーキングプアが巷に溢れている。おれたちより安いものしか食えない人間がいるとはばかげた話だ。
この世には、絶対的なものはない、すべて、相対的なものしかないと思うべきだ。わかるか?」
「チュー助、ここは、きみが相手してくれないか?」チュー助は前に出ました。
「えっ、おまえたちにも名前があるのか。この世は未知なるもの溢れているというイグザンプルだな」
「イグザンプルってなんだい?」チュー作が、小さな声でチュー助に聞きました。
「『例』ということだよ」
「未知といえば、笑顔の奥にこそ未知がある。判断がつきかねているときに、笑顔を見せるのだ。けっして、楽しいからじゃない。もっとも、ニコニコしておまえたちに近づくものはいないだろうが。ワッハッハハ」
「つまり、笑顔は、自分を隠す道具でもあるということですか」チュー助が答ました。
「そうだ!今晩はゆっくり語りあおうじゃないか。おれのために、どっさり置いていってくれた食べものがある。うまいぞ。遠慮なく喰っていい。ただし、糞は自分でかたづけろよ。そういう習性は、おまえたちの責任ではないが、嫌われる原因なんだな」
「ご好意はありがたいのですが、ぼくらの命は短いので、急いでミッションに取りかからなければなりません。このあたりで、困ってい人間はいないでしょうか」チュー吉は丁寧にお願いをしました。
「そうか。おまえたちの気持ちはわかった。そうさなあ。この先を少し行ったアパートに、虐待されている子供がいるようだな。DVだろうと友だちが言っていた」
「わかりました。すぐに言ってきます」チュー吉たちはすぐに外に、飛びだしました。
「この世にはメンドクセ―やつがいるなあ」チュー作は辟易して言いました。
「まあ、いいじゃないか。みんな無事で、すぐに第1のミッションがわかったのだし」チュー吉は、チュー作をなだめました。
しばらく行くと、真夜中だというのに、子供の泣き声が聞こえました。