やめない王様
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「ほんとはヘンな童話100選」の(1)
「やめない王様」
昔、ある国に怪物が出てきて、人々を困らせていました。
その大きさは30メートルもあり、体にはごつごつしたこぶがいっぱいありました。
そのような怪物がいるといううわさはありましたが、えらい学者は、いるのはいるが、いつも水辺にいるから心配ないと言っていました。
しかし、なぜかそれが町にやってくるようになりました。人々は、怪物の姿を見ると、あわてて逃げましたが、怪物は人々を襲うことはせずに、大きな声を上げるだけでした。
人々は、「なんだ、何もしないじゃないか」と思うようになりましたが、ある良心的な学者が、「今まで黙っていたけど、大きな叫び声とともに出てくる息が体にかかると、いつかは病気になって死んでしまう。だから、怪物から遠くに離れていなければならない」と忠告しました。
確かに怪物の近くにいた人々は、噛まれたり、踏まれたりしなくても大勢死んでいきました。人々は、やむをえず王様に助けてもらおうと、お城に行きました。
実は、その国はよその国がうらやむほどのお金持ちでした。というのも、人々は勤勉で、王様が何も言わないでも、よく働き、お金がどんどんたまったからです。
世の中はうまくできていて、そういう国に限って王様の出来が悪いので、人々は、王様に頼りませんでした。
何が不満なのか、今までも自分からやめる王様ばかりで、人々はあきれていましたが、今回は、そういうわけにはいきません。王様に国を救ってもらわなければなりません。
しかも、今の王様は、「わしは、優秀な人々にふさわしい国を作るぞ」と公約していたからなおさらです。
王様は、話を聞いて、「よしわかった。それなら、落とし穴を掘ろう」と言いました。
怪物はどこに現れるかわかりませんし、息が怖くて、そこにおびきよせることはできませんでしたが、王様が言っているのだからと、人々は大きな穴を掘ることに決めました。
半分ぐらい掘ったところで王様が呼びました。
そして、「穴に落としても、埋めるのに時間がかかるのがわかったから、穴を掘るのはやめよう」と考えを変えました。
人々はがっかりしましたが、「それでは、どうするのですか?」と聞きました。
「山から大きな岩を落として、怪物を殺すのじゃ」
人々は、30メートルもある怪物を殺す岩を求めて、毎日探しまわりました。
1月立った真夜中に、また王様から、「みんな集まれ」という命令が出ました。
人々は、眠い目をこすりながら、お城の広場に集まりました。
「怪物には敵国の兵士が30人ぐらい入っていることがわかった。それで、怪物を追っていき、気ぐるみを脱いだときに兵士をやっつけるのじゃ」
人々は、こんなことは夢でありますように願いましたが、王様1人が、人々と国を守ろうと張りきっていました。
ところが、前の王様の家来たちが、これでは国がだめになる、まず今の王様にやめていただこうと考えはじめました。
王様に、そう言うと、「何をばかなことを言う。わしは、人々と国を守るために、燃えつきる覚悟じゃ」とひどく怒りました。
その間にも、怪物は、町に出てきては、叫び声とともに、息を撒きちらしました。
そのころには、すべての家来が王様についていかなくなっていましたが、王様と家来たちは、怪物そっちのけで、やめろ、やめないと応酬をくりかえす毎日でした。
人々は、疲労や病気でだんだん元気がなくなりました。
その様子を見かねた外国の王様たちが、草や花を煎じて、怪物が嫌がる薬を作りました。
それを町の周囲に置くと、怪物は町に出てこなくなくなりました。
王様は、「わしは歴史に名が残る王様になった」と満足して王様をやめました。
今度の王様も、優秀な人々にふさわしい国を作るぞと約束しています。