将軍
2016/04/11
「エイパー将軍、将軍のおかげで今度も勝てそうです」作戦本部長は慢心の笑みで言いました。
「いやいや。きみたちの努力だ。よく困難に耐えてくれた。しかし、これで多くの人間が死ぬが,大丈夫かな」
「大丈夫とは?戦争ですから、多少の犠牲は仕方ありません」
「まあ、そうだが、同じ人間が死んでいくのだから、きみたちに何か感慨がないかと思ったのでな」、
「いや。あいつらは、犬畜生にも劣るものですから。あっ、申しわけありません。将軍の前でとんでもないことを申しあげました」
「気にしなくてよい。言葉はきみたちの文化だから。わしらはそれがうらやましいかぎりだ」
「失礼しました。それでは、幹部と打ちあわせをして。作戦をはじめます」作戦本部長長は出ていきました。
将軍は部屋の窓を開けて外を見ました。山の側面が大きく広げられていました。そこは秘密基地で、そこから数十個の爆撃衛星が出てくることになっていました。
30世になると、もはや核兵器は時代遅れになっていました。相手の国の人間を殺しても、何百年間は住めないからです。
それで、人間だけを殺す兵器が発明されましたが。当然、それを防御する兵器も発明されました。
その「いたちごっこ」は数千年同じですし、「武器こそが平和を守る」という「まやかし」も同じでした。
その間に、地球以外の惑星で生活することが可能になりましたので、多くの人間が地球を離れました。
しかし、地球に残っている人間は。相変わらず他の人間を攻撃していました。攻撃するためには、何か口実がいります。昔は、宗教とか民族を使いましたが、今は、誰が最初に地球にいたかという子供っぽいものになりました。
それで、白人、黒人、黄色(おうしょく)人が同等に生きるということがいつのまにか崩れて、白人対黒人・黄色人の連合の戦いになっていましたが、類人猿のほうが早く地球に住んでいたと主張するものが出てきました。それで、類人猿を自分たちの長としたのです。
将軍は、全身に生えている長い毛を風になびかせながら立っていましたが、ひどく寒くなってきたので窓を閉めて、別の部屋に行きました。
そこには、同じ類人猿の将校の部屋でした。すでに、多くの将校が集まっていました。
「将軍、いよいよですね。深夜に爆撃することになっていますが、どうも落ちつかなくて」若いオランウータンの将校が言いました。
「この戦争に勝ったら、地球はおれたちはものになるのですか」同じく若いゴリラの将校も聞きました。
他にもチンパンジーの将校が何人かいましたが、全員年配だったので、そう興奮しているようには見えませんでした。
「そうあわてるな。人間には、『急(せ)いて事を仕損じる』という諺がある。
究極の武器といっても成功するとはかぎらない。すでに相手は防御する武器を作っているかもしれない。そうなれば、わしらもまた長い戦いをすることになる。
それに、人間の半分以上が死ぬと、わしらが享受している文明はいつまで続くかわからないんだ」
「将軍がおっしゃるとおりだ。おまえたちも、人間はどういう生き物かよく考えるんだ」と将校の腹心であるチンパンジーの将校が大きな声を出しました。
「人間は、『地球は類人猿のものである』などと言っているが、それは単なる方便だ。状況が変われば、また『わしらが家主だ』という顔で振る舞うはずだ。
まあ、今は戦況を見とけばいい」
爆撃衛星が次々飛び出す音がしました。「さあ。戦争だ!」誰かが叫んで窓を開けましたが、すでに衛星はまったく見えませんでした。
「人間は、何でも早くないと気がすまないようじゃな。それが命取りにならなければいいが」将軍は自ら率いる人間を心配しながら窓を閉めました。