シーラじいさん見聞録

   

シーラじいさんたちも、それに合わせて浮きあがった。
オリオンは、二匹の魚に近づき、逃げたら許さないぞと身構えた。
そのとき、シーラじいさんは、子供もついてきているのに気がついて、「おまえは、ここに残って、ママと妹を守るのが仕事だ」と言った。
「いや、ぼくも行きます」子供は、すぐに答えた。
「どんな危険があるかもしれんぞ」
「シーラじいさん、お願いです。ぼくを連れていってください。パパの悔しさを晴らしたいんです」
そのとき、男も言った。「わしも連れていってください」
シーラじいさんは、しばらく黙っていたが、「わかった。それじゃ、おまえさんは、何かあったら、この子を連れて、すぐにもどってくれるか」と男のほうを向いて言った。
「わかりました」男は、深くうなずいた。
「おまえ、大丈夫かい?」母親は、子供に心配そうに声をかけた。
「ママ、心配しないで。シーラじいさんとオリオンがいるから大丈夫だよ」
「わしも、全力で子供を守るよ」
男の声には、ようやく自分の悔しさや怒りをぶつけることができる喜びが込められているようだった。
「おじさん、無理なさらないでくださいね」
母親は、今起きていることを、自分ではもう止められないことだし、国とても、自分の子供にとっても大きな意味があることがわかったようだった。
それを敏感に感じと子供は、「おじさん、行きましょう」子供は、ますます高まる気持ちを抑えられないように急かした。
「皆さん、どうかよろしくお願いします」母親は、あらためて、みんなに向って挨拶をした。
シーラじいさんは、母親にやさしい目でうなずいた。
「おにいちゃん、気をつけて」妹も、心配そうに声をかけた。
「ああ、必ず帰ってくるから、ママの手伝いをして待っていて」
みんな動きだした。あたりには、大勢の魚が遠巻きに集まってきていた。
みんなひそひそ声で話していたが、ついていこうとする者はいなかった。
先導する魚に従い、シーラじいさんたちはついていった。
遠くで、七色の光がゆっくりきらめいている。暗闇を漂うクラゲの繊毛だろう。まるで道標のように見える。先導する魚には、その妖しい美しさが、不安をかきたてたかもしれない。
一匹の魚が、シーラじいさんに言った。
「おれたちも、そこに行ったことがない。以前聞いただけだ。迷ってしまうかもしれないし、たどりついても、おれたちが教えたことがわかると、今以上の攻撃があるかもしれない」
「わかった。そこに着いたら、おまえたちはすぐに帰ったらいい。あとは、わしらが片づける」
二匹は、顔を見あって、安心したようにうなずいた。
しばらく行くと、岩山が見えてきた。
「あそこだ。おれたちは、ここで失敬する」
二匹は、そういうやいなや姿を消した。
オリオンは、二匹のことは意に介さず、早速岩山に向おうとした。
「オリオン、ここには、けんかをするために来たのではない。わしが、まず話をする。
おまえは、後ろで二人を守れ」
シーラじいさんは、オリオンを止め、先頭に立って、岩山に入っていった。
ここも、外部から侵入できないように岩礁が入りくんでいた。
シーラじいさんは、岩と岩の間をくぐりぬけながらも、前へ前へと進んでいった。
しばらく進むと、「おい、どこへ行く」という声が響いた。
シーラじいさんぐらいの大きい魚が、5,6匹の魚を従えて、どこからかあらわれた。
「おまえたちのボスに話がある。そこへ連れていけ」
シーラじいさんは、ひるむことなく、大きな声で言った。
「どんな話だ」
「おまえたちは、よその国に来て、争いをするように仕向けているそうではないか」
「そんなことはしらん」
「とにかくボスに会って、話がしたい」
「おまえたちは、ここに入れるわけには行かない。すぐに立ち去れ」
兵隊のような魚は、シーラじいさんたちの前に立ちふさがった。
シーラじいさんは、男のほうに振りかえり、「子供といっしょに、ここを出ろ」と言った。
子供は、納得できないような顔で、シーラじいさんを見たが、何も言わずに、男に従った。
それを見届けて、「それなら仕方がない。わしらは、自分でボスを探すぞ」と言って、そのまま進もうとした。
大勢の魚がどっと押し寄せた。それを見たオリオンが、その中に突っこんでいった。
しかし、体当たりされた魚は、遠くまで飛ばされたが、すぐさま体を反転して、オリオンに向っていった。
兵隊はどんどん増えたが、オリオンの体当たりは激しく、ほとんどの者が反撃の意欲を失った。
シーラじいさんは、そのまま進んだ。
隊長らしき魚も、後ずさりをして、シーラじいさんの後からついていくばかりだった。

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