SAY少々納言
今日も、ムーズが降りてきた~きみと漫才を~
「SAY少々納言」
過日、静かに書を読みふけたりしところ、窓の外に何か気配を感じたり。そこで、急ぎて窓辺に寄れば慌てふためゐいて走る者あり。
その様、「てーへんだ。ばばあが泡吹いて倒れた」と叫んでゐるかのごとく思えり。
それは一大事と、最近手に入れしケータイを貸しあたふるために、妾(わらわ)は、衣をたくしあげ、髪を振り乱して、その者を追ひかけたり。
その男、妾の声で足を止め、頭に被りたるフードを脱がば、齢七十近くの男で、妾を怪訝なる顔で見るなり。
それが言ふには、母親は数年前に餅を喉に詰まらせて死に、父親は、子供のときに酔っ払ひて池に落ちて死にたり。
それでは、いかでそのやうなる狼藉なることをするやと問いただせしところ、男笑ゐて言しは、これはジョギングと申し、健康のためにしたりと答ふるなり。
なほ、「健康は命より大事」と一人悦に入るものなり。その物言ひは、妾が21世紀の世に来てそう年月が立ってゐざるを、すでに20回は聞いたことなり。
聞かば、毎日このやうに自らの体を鍛錬すとのこと。
この世で悩みなどなきかと聞かば、「そうさね。ないね。強ひて言えば、海老蔵の嫁の麻央てえのは麻耶の姉か妹かで女房と喧嘩をして、灰皿で顔をボコられて医者に駆けこんで、全治2ヶ月の診断書を出したら、女房のやつ、おれに離婚届を突きつけたぐらいかな。
そうそう、それと、下着のシャツをパンツとパッチの間に入れるべきか、パッチの上に出すべきか悩んでいるよ。
間に入れると、冷たい風が入らないけど、パッチを穿いていることがばれちゃうよ。
一番上に置くと、ばれないが風邪を引いちゃうからでね」
妾は馬鹿馬鹿しくなりたるが、はしなくも衣をたくしあげてジョギングというものをせしかばには、このまま帰るわけには行かず、なほ聞くことにするなり。
「己の体を愛しかりするは可とするが、その体を使ひて、世間の役に立つことはせざるや」
男、しばらく考へたれど、「特に若いもんは気の毒だね。大学を出ても仕事がないのは辛いだろうよ。かわいいねーちゃんと結婚もできやしねえ。でも、おれたちが出る幕じゃない。時代がちがうからさ」
本来年取りたる者は、若き者に敬われ、大事にされべきなり。それが、ないがしろにされているのは誠に嘆かわしきことなり。
ただ、時代の波に飲みこまれてゐる若者が多きは事実。また、妾が若きときと比べて、長命の者が多きも事実。
それならば、年取りたる者が、カツカツの年金で、足腰の弱りくるのに弱音を吐かず、前を向ゐて生きたる姿を見せて、若者の範たらんとするのも、としよりの生くる道なり。
なほ言はば、毎日芸能ニュースなどにうつつを抜かすことなく、子供にでも、孫にでも、生くる意味を教ふる文(ふみ)を出すもよし。
メールを毎日数時間したるせいか若き者の読解力が回復しきとの報せあり。誠に慶賀の至りなり。文の意図するところを理解する技を身につけたためなり。
その男、深くうなずくと走りさりしが、妾の裸の脛は、寒さ故か、あるいは興奮故か、わなわなと震えたり。